第二十三話:淑女は強かに成りきれぬ
「ま、まいりました姉御」
「教頭が凄いって言ってたのは本当だったんすね……」
「俺じゃ姉御には釣り合わねえ……」
4人の学生達は一瞬にして負けを認めた。
4対1の戦いだったが、今のサニィにとって彼らは物の数ではない。本気にさえなれれば。
そして、戦いの直前にレインが言った、「本気でやれ!!」と言う掛け声は、サニィの心をいつものレインを相手にする時の様に真剣にさせるには十分な気迫だった。
瞬時に負けを見た止めた彼らであるが、彼らは二人が帰った後、昨日の侵入騒動で不満が残った為、教頭に直訴していた。
その結果、「明日、決闘を申し込んでも良いですよ」などと言う許可をもらって張り切っていたのだと言う。
それはレインも知らなかったが、「成る程、年の功」と納得する。
優秀であるが故に少しばかり天狗になっていた彼らに思い知らせてやろうと言う意図もあっただろう。
最も、彼女はそれだけで終わるほどの小物ではなかったが。
パチ、パチ、パチ。
拍手を鳴らしながら、一人の初老の淑女が歩いてくる。
この騒動のある意味での元凶であるところのマリー教頭だ。
尤も、サニィは元凶は彼女ではなくレインだと考えているので、何も疑いなどしていない。
「いや、誠にお見事ですサニィさん。その才能、是非に我が学園に役立てては下さいませんか?」
「マリー教頭、こんにち、へ?」
「我が学園の講師として、その能力を振るってみては如何ですか?」
「え?……あの……」
教頭は突然やってきたかと思えば、サニィにそんなことを告げる。
昨日はある意味生徒として受け入れは出来ないと卒業証書を渡してしまったが、何も学園で受け入れられないとは言っていない。
教えられる事がないなら教える立場にしてしまえば良い。優秀な教師陣の質もまた、各学園で競っている。
学園に入りたかった彼女だ。
これなら喜ぶだろうし学園側も得をする。
そんなことを考えてのことだった。
しかし彼女は、サニィに罹った呪いを知らない。サニィの罹った病を知らない。
「え、と、その。申し出は嬉しいのですが、私はまだ修業中の身ですので……」
「修業なら我が学園でも出来ますよ。なんならそのレインさんも特別講師として招いて差し上げます」
昨日のサニィの魔法を目の当たりにして、彼女は少々昂ぶってしまっている様だ。
なんとしても手に入れたい。それが全面に出てしまっている。
それに少々の恐怖を覚えたサニィは一歩後ずさる。
「マリー教頭、すまないがこいつは俺の弟子だ。俺がこいつに許可を与えていない」
「そ、そんな。では、レインさんを特別名誉教授に。勿論給与も弾みます」
「サニィ、こう言ってるが、お前はどうしたい?今回、お前の意思を尊重しよう。俺共々好きにして良い」
間に入ったレインは、そんな風に教頭のクッションになる。やんわりと、しかし明確な強さを持った絶対防御の壁だ。それが破られることは決してない。
何せ、隙が見えるのだ。
サニィはそんな、困っていた所を本当の師のように助けてくれたレインに惹かれ……。
(はっ。正直ちょっとカッコ良かったけどこれは罠だ。レインさんが私を誑かす為のいつもの!)
素直ではないが、少しばかり冷静になったサニィは考える。
魔法を変えたいと言う思いはある。でも、まだ修業中の身。
そして、この場に留まることは出来ない。
でも、レインを好きにして良いなら。
「それなら、明日1日だけ特別講師と言うことでどうでしょうか。レインさんも一緒にです。それなら、教えられること、あります」
その答えに、レインは納得した様に頷く。
半人前のサニィも、レインが見ることで相手の力を正確に見極めることが可能だ。
それにレインと共に学んだ知識を合わせれば、少しだけ意識を変えるだけだけど、それだけでも大幅な出力上昇が見込めるかも。
そんなことを考えた。
教頭は少しだけ不満の様だが、長く滞在する予定は無いと、昨日の時点から聞いていたので、それに渋々納得する。
残りの分は、いつか完成させる本で学んでもらうことになるけれど。やるからには頑張りたい。
そんな意気込みを決めたサニィは、そうと決まればと「では明日は全校生徒を集めてください!」と言い放ち、講師の手続きもせずにレインを引っ張り宿に向かう。
そして、レインも苦笑いするほどの張り切りぶりで、翌日の授業内容を練り始めた。
一方、残されたサニィの手下の様になった4人の学生と、教頭は翌日を楽しみに手続きに奔走していた。
残り【1812→1811日】