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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第十五章:帰還、そして最後の一年
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第二百十五話:とある村の女神様



 レインの剣を月光と名付けた海岸を通り、少しの感傷に浸った後、エリーの生まれた村へと辿り着く。

 4年前、盗賊によって全ての男が殺され、女子どもだけになった村。

 この村は現在、あの時と比べてかなり大きくなった子ども達と、女性達、そして新たに移住したのだろう、数人の男達によって活気を取り戻していた。

 いや、活気と言うよりも、まだまだ空元気なのかもしれない。住人達は必死に声を出しながら農作業に従事している。

 村の周囲には松明を掲げ、常に火を絶やさない様に気を配っている。

 戦える者達が皆殺されて尚、この魔物蔓延る世界で必死に生きている彼らを見ていると、流石に二人も思うところがある。


 当然村の中には魔物に襲われて怪我した者達もおり、十分な治療が受けられず苦しんでいる者もいる。


「あの時、エリーちゃんとアリスさんは移住することに決めましたけれど、大変なのは彼女達だけじゃないんだなって分かりますね」

「あの時はどうしても、俺達はアリスの味方をしたが、……そうだな。どちらも必死だったんだろう」


 顔を見合わせ、すぐに一つの結論を出す。


「一度助けた村です。ちゃんと責任は取りましょっか」

「そうだな。治療を頼む」

「はい、周りはお願いしますね」


 サニィは紙とペンを取り出すと、簡易的な地図を書き出す。

 ごぶりん。と書かれたポイントが半径5kmの中に4箇所、とろる。と書かれたポイントが2箇所。

 そこに、魔物の集落があるらしい。


「それじゃ、行ってくる」

「はい」


 レインは駆け出し、その背後には村を全て覆う光の柱がそびえ立つ。

 またド派手にやってるなと呆れつつ、それらの駆除に向かうのだった。


 トロールの集落は、6匹と5匹。

 トロールは火に弱いものの高い再生能力を持つためオーガ並みの強さがある。二つの集落が同時に村に攻め入れば危なかったかもしれないが、彼らに連携を取るような知能はない。

 村が松明を絶やさない様にしていたのはこれが理由だ。数匹の襲撃であれば、それを嫌がって帰っていく、という可能性も高い。

 とはいえ、まずは単体での脅威度が高いそれらを殲滅する。


 次いでゴブリンだ。

 最弱ランクながらも、増殖しやすく、集落を放置しておくとそこがゴブリンの出現スポットになるかの様に増えていく。

 彼らの集落のうち三つはまだ新しいらしく10〜15匹程度だったが、その一つ、村からちょうど北に5kmのポイントにある集落は、最早100匹以上に増え、今正に村に向かって進軍しようとしていた。


「危なかったな……」


 村にはサニィがいるので今は安全は保証されているとはいえ、村に到着するのが遅ければ滅びていたかもしれない。

 サニィが何も言わなかったので大した脅威度は低いのかと踏んでいたが……。


 村に戻ると、相変わらず姿は隠したままのサニィと、怪我が完治して喜ぶ人々、農具を放り出して天を仰ぐ人々、そしてそれらの全ての村人が、女神に感謝を捧げていた。


「……何やってるんだ…………」

「いえ、なんかここの人達と顔を合わせるのは少し気まずい感じがしたので代わりにこんなことをしてみたんですけど、おかしなことになっちゃって」


 そう言いつつ、サニィはキラキラと村に光の粒を降らせている。

 レインが村を飛び出してから30分程、最初の光の柱に全ての村人は恐怖に怯えたらしい。

 なので「この村に聖なる祝福を」と念話で伝えたところ、女神に感謝を捧げ始めたということ。


「……まぁ、この村ではお前はこれから聖女様ではなく女神様として祀られるんだろうな」

「ええ、恥ずかしすぎるんですけど……」

「自分で撒いた種だろうが……」


 裏ではこんな間抜けなやり取りがされているとはいざ知らず、村人達は女神に祈っている。


「ところで北のゴブリンの数が多かったが、やつらこっちに向かおうとしてたぞ。何も言わなかったから最後にしたんだが危なかった」

「ええ、でもどんな順番でも着くまでには終わってるって分かってましたから」

「お前な……」

「ま、まあ良いじゃないですか。動向は見ていたので万が一レインさんが迷子になっててもちゃんと守りましたから」


 少しばかり怒った様な呆れた様なレインに、サニィは冗談混じりに言う。


「そ、それよりこれどうやって収集付けましょう」


 言いながら、サニィは目の前の村人達の祈りに困惑を深める。

 しかし、ここはこう言うしかあるまい。

 レインは少しばかり考えるふりを見せた後、口を開く。


「知らん」


 目の前には女神に祈りを捧げる村人達と、キラキラと光の粒を降らせ続けるサニィ。

 村人達は、「苦境にある私達をどうかお導き下さい」とまで言っている。

 これらを治める方法など、レインには思い浮かびなどしなかった。


「ちょ、ちょっと、少し意地悪したのは謝りますからお願い考えてぇ! ちょっと、レインさんどこ行くの!? ねぇ、レインさん、見捨てないで!!」


 そんな慌てるサニィが面白くて、この後何度か先に行くふりをしたのだったが、結局のところ、周囲の魔物は退治しておいたから、これからも皆んなに優しく頑張ってね、といった内容のことを念話して、去ることにしたのだった。


 そんな適当な言葉にも、村人達は以前少しばかり避けたりキツく当たってしまったアリス、エリー親子のことを思い出し、反省した。

 風の噂で、港町で元気に暮らしていると聞いていたので、いつか帰ってくることがあった時、かつてよりも優しくしてあげよう。元はと言えばエリーができた理由は不倫とは言え、かなり強引なものだったと聞き及んでいる。

 だから、女神様の言う通りに、二人の幸せをも願おう。各々、そう誓っていた。


 結果だけ見ればベストだったのだろうが、それを二人は知る由もない。

つい先日までは最後の一年はさっくり終わる予定だったのですが、絶対に書きたいサンダルと狐のシーンを考えているとどうにもそういうわけにはいかなくなりました。

もうしばらくお付き合い下さい。

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