第二百十三話:魔法使いの躍進
姿を隠してルーカス魔法学校を見に行ってみると、その授業は既にサニィの理論をきっちりと組み込んだ授業が行われていた。
教授達は教授達で、専門家としての意地もあったらしく、その理論は分野ごとにサニィよりも詳しく語られたりしている。
呪文に関しての研究はまだまだ途中の様で、そういうものがあるということ位。
とは言え、彼らのレベルは4年前に訪れた時とは比べものにならない位に成長していた。
「それにしても、蔦の魔法使いが多いですね」
「確実にお前の影響だろうな」
見ると、4人に1人は蔦の魔法を中心にしている様に見える。
「なんだか恥ずかしいものがありますね」
「まあ、あくまでイメージが重要な以上、お前の強力なそれを見てしまえばやりやすいんだろうな」
「ああ、当時にしては限界のやつ見せましたもんね」
そうして蔦の魔法を訓練している生徒を追いかけてみると、花壇へとたどり着く。
そこには蔦魔法研究用と書かれたコーナーがある。
「なるほど、蔦の魔法を使いこなす為にアサガオを育てようって、面白いですね」
「人によってはヘチマとかもあるみたいだな」
「私は小さな頃からうちでずっとお花を育ててましたけど、みんなもこうやって私と同じことを自然とする様になるって、なんだか可愛いです」
サニィの理論では、より強く理解して実感することが重要だ。その為に、植物を育てると言うのはそのままその実感を強化することに繋がる。
小さい頃、日がな一日アサガオの成長をのんびりと眺めていたり、朝に印を付けて夜にはこれだけ伸びてた、なんてことをやっていた懐かしい思い出が蘇ってくる。
「良いなぁ。初めて言いますけどお花も動物も大好きなんですよ私」
「とっくに知ってる」
「あはは、そうですよね」
今迄散々動物についてレインに語ってきたのだ。知らないわけがない。
生徒達が植物を育てているのを見て、サニィはほんの少し寂しそうだ。
「それじゃ、そんな珍しい花や動物でも探しにジャングルに入るか」
なので、気分転換も兼ねて次へ行こうと提案する。
「前回はレインさんのせいであんま見られなかったですからね」
すると、こんな返事が返ってくる。
「いや、十分見ただろう。と言うか俺のせいってなんだよ……」
「レインさんがしっかりドラゴン仕留めてくれないから不安でタマリンしか見た記憶ないです」
「そ、そうか……」
なんだかやたらと興奮していた記憶がレインにはあったが、サニィがそう言うなら仕方ない。
どっちにしろ、好きなだけ時間はとってやるつもりだ。
「よし、行くか」
「あ、ちょっと待ってください」
言って、サニィは建物の方へと歩き出した。
中に入り、一つの部屋の前で立ち止まると、探知で中を確認する。
「さて、中には居ないですね。ちょっと行ってきますね」
そう言うなり、中へと転移していく。
数分後、サニィは戻ってくると「行きましょっか」と言う。
「何をして来たんだ?」
「私が書いた魔法書を手紙付きで置いて来たんです。複製の魔法が使えるとこういう時便利です」
サニィの魔法書。それは旅の間、時間を見つけてはコツコツと書き上げてきたサニィの努力の結晶だ。
サニィの知っている全てがそこには書いてある。
魔法を使うにはより正確に事象をイメージする為に、しっかりと仕組みを理解することが大切だということを始め、陰陽のマナの存在、触媒を使った魔法、呪文、そして魔物の出現方法、何故勇者を優先的に狙うのか、それぞれの魔物に応じた弱点、魔王の目的。
更には、ある日を境に使える様になる各地への転移魔法の呪文。
それら全てが記してある。
既にマナスル魔法研究所とグレーズ王、アリエル、クーリアなどには渡してあるものと同じもの。
後に、『聖女の魔法書』と呼ばれるもの。
一魔法学校には過ぎた物かも知れないが、きっと役に立つもの。
それを、サニィは以前世話になったここの教頭の机にこっそりと置いて来たのだった。
「それじゃ、ジャングル行きましょ」
「ああ、行こうか」
今回の旅は、基本的に見守る為のものだ。
だから、生徒達が随分と成長しているのを見て、挨拶をするのもやめておくことに決めた。
そんな2人が校門を出て姿を表すと、すぐに気付いた教頭が、ひっそりと頭を下げた。
教頭にも、流石に聖女がサニィだということはとっくに分かっている。
金髪碧眼、巨大な白樺とルビーの杖を持った可愛らしい女性魔法使いと言えば、以前の魔法を見ればそんなものはサニィのことだと直ぐに分かる。
だからこそ、もう一度来てくれたことに、教頭は感謝を示した。
「あなたのおかげで、魔法使いでも勇者と一緒に十分戦えるんだと分かったのです。それはとても大きなこと。それだけで、感謝を」
そう言う教頭の言葉が二人に届くことはなかった。とは言え、これから活躍していく魔法使い達のことを考えると、教頭は頭を下げざるを得なかった。
もちろん、部屋に戻って魔法書を見つけた瞬間、教頭が聖女の信奉者を自称することになったのは、ここでは置いておくことにしよう。