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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第十五章:帰還、そして最後の一年
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第二百九話:帰省と旅立ち

 ディエゴとの挨拶も済ませた後、四人は王都を発ち再びブロンセンへと戻って来た。

 まず向かうべきは当然家だ。 


 宿屋『漣』


 エリーの第二の実家と言うだけではなく、最早血の繋がった家族の一人も居なくなってしまったサニィとレインにとっても、今は世界で一番居心地の良い場所。

 それはもう、二人の家と言っても過言ではない。


「エリー! お帰りなさい!!」


 戻るなり、アリスが跳ねる様に出迎える。

 全力でエリーに飛び付き、エリーはその小さい体で母の愛を全力で受け止める。

 アリスにとっては約一年ぶり、そして残され時間も一年と少しだけ。

 この一年弱の間に、女将はそれとなく呪いは二人がなんとかするということを伝えていたのだが、不安が消えることはあり得ない。

 だからこそ、アリスは全力で飛び付いた。

 どちらが子どもか分からない位に嬉しそうに。


「すまないなアリス。エリーはずいぶんと強くなったぞ」

「いえ、ありがとうございます。この子の為に……」


 泣きそうになるのを堪えながら、アリスは言う。何人かの客が騒ぎを聞きつけ、こちらを見てはあれがアリスちゃんの娘かと言っているのが聞こえる。

 自慢の娘がいると話していたのだろう。客達の目も暖かい。


「お帰りなさいみんな。今日はご馳走にするわね」

「わーい! ただいま、女将さん。あ、お母さんも、ただいま」


 母親の強襲に挨拶を忘れていたエリーは女将を見てそれを思い出す。


「やはりここは良い宿だな」

「そうですね、女将さんアリスさん、ただいま」

「お帰りなさいレインさんにサニィちゃん、オリちゃん」


 オリヴィアが王女だと言うのは秘匿事項の為、女将は王女をこの様に呼ぶ。

 最初は流石に困惑していたが、この女将のことだ。すぐに慣れ、オリヴィアにとっても居心地の良い空気が作られていた。


「ただいま」


 そう答えるオリヴィアも、実家の様に自然だった。


 ――。


 それからの1ヶ月ほど、四人はゆったりと修行をしながら色々な話をした。

 レインの出生やその体の構造のこと、サニィの故郷のこと、3年間の旅のこと、サンダルという英雄候補である友人のこと、ドラゴンが南の大陸に現れたがすぐにその友人が討伐したこと、そして、これからのことを少し。


 エリーに教えるべきかどうかは最後まで悩んだが、これは教えないということを三人で決め、隠し通した。

 せめて彼女が、もう少し大きくなる時までは。


 強く隠すことは彼女には伝わらない。

 不意に思ってしまえばそれも伝わってしまうが、流石に彼ら程の勇者達が、それを悟られることはなかったらしい。


 彼女は元気に言う。


「いつかわたしも師匠の様に強くなるから、また修行して下さい!」


 一ヶ月後、二人の最後の旅立ちの時、エリーはこう言った。どうしようもなく、純粋な顔で。

 まだ一年ある。

 だから二人は最後にもう一度、旅の思い出を振り返りつつ同じ道を辿ろうと決めていた。

 誰にも会わず、魔法で姿を隠し、本当に二人きりで。

 それで、そのまま……。


 最後の旅は、これからの世界を本当に任せられるか、見守ることを含めて。


 でも、そんなことをそんな純粋な顔で言われてしまえば、仕方がなかった。


「ああ、必ず戻る。1年後だ。だからその時までに、オリヴィアは超えておけ」


 そう、答えた。


「はい!」


 そう答えるエリーは、本当に元気だった。


 たった1年でオリヴィアを超えることなど無理だと知りながら、それでも、師の様になると、娘の様なこの弟子に言われてしまえば、もう一度戻ってくることを、拒否など出来まい。


「オリヴィア、しばらく任せる」

「はい。レイン様、お姉様、お任せ下さい。わたくしも負けませんわ。行ってらっしゃいませ」


 そう寂しそうにしながらも気丈に振る舞うオリヴィアを残して、二人は旅立った。


 最後の日まで、後365日。

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