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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第十四章:取り敢えずで世界を救う
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第百九十九話:最愛の弟子は何が為に

「どうしたものか。正直全く考えてなかったな」

「そうですね。でも、子どもには納得する理由を付けてあげなきゃですよ、レインさん」


 レインは途方に暮れていた。今までは能力で相手の心情もある程度予測出来ていたが、一番弟子だからと少し近付き過ぎたのかもしれない。近しい人ほど心が読めない、そんなことはよくあること。

 サニィも仕方がないなと珍しく失敗したレインを慰める。


 エリーをドラゴンとの戦いに参加させることは出来ない。

 アリスが呪いに罹っている以上、それだけでエリーの安全は保証されているものの、危険な目に合わさないのはアリスとの約束だ。

 その為、エリーには不合格を言い渡した所、全力で大泣きした挙句に何処かへと走っていってしまった。

 オリヴィアがすぐに追いかけ、サニィによって見守られている為、危険は全く無いのだが……。


「思えば、ルークとエレナ、12歳の年少組も不合格にしておけば良かったな。と言うか、今迄お前に任せていて気にしていなかったがルークの家は大丈夫なのか?」

「ルー君の家は、彼の頭が良いおかげかなにか知らないんですけど、ルー君の決めたことは全て許されるみたいなんです」

「それは放任ではないのか?」

「あまり深くは話してくれませんから。エレナちゃんのこともありますし、色々複雑で」


 エレナは捨てられたも同然に霊峰の研究所に預けられていると聞いている。

 それがちょうど魔法の発想とマッチしているので深くは踏み込んで来なかったが、確かにそこに更にルークの実家の家庭環境が絡んできてしまえば複雑な問題となる。


「ともかく、エリーの問題か」

「ええ、どうしますか?」

「そうだな、一先ずは英雄の力でも借りてみるか……」


 二人は次に試験を受ける筈だったマルスの所へと向かう。


「マルス、済まないがお前も不合格ということで良いだろうか」

「エリー君のことだね。僕はま、仕方ないね。動くべき時に、自分の意志で動いて良いのなら、今回は諦めるよ」

「……すまないな。お前は本当に英雄で助かる」

「最強の君に褒められるとむず痒いものだけれど、不死なんて力を持つ以上、やれることはやるべきなのさ。それは君だったら同じだろう?」

「……そうだな」


 簡単に話を付けた頃、顔を赤く腫らしたエリーが、オリヴィアに抱かれ戻ってきた。

 走り出した時の姿は流石に全員が見ていたので、みんなが集まる。


「ししょう、わたしもたたかいたい」

 開口一番、エリーはそう言った。

「エリー君、君が居ない間に、僕も試験をさせて貰った。以前は魔王討伐に貢献した僕だけれど、不合格さ」

 それに答えたのはマルスだった。

 レインからは、複雑な感情を感じる。

「マルスさんも……?」

「ああそうだ。僕は本当に弱いからね。でも、君は少し違う。君は凄く強いよ。もう既に、僕じゃどう頑張って勝てない。それでもね、君はまだ若すぎるから師匠は心配なんだ」

 諭すように英雄は言う。

「でも、ルーク君とエレナ姉も戦うよ」

 まだ、納得出来ない様子のエリーに、ルーク自身が答える。


「僕はね、エリーちゃんみたいに心配してくれるお母さんが居ないんだ。家にはお父さんだけ。そのお父さんも、今は別の人と結婚しちゃってね。だから、僕はお母さんの為に強くなりたいんだ。魔物に殺されちゃったお母さんの為にも、ドラゴンを倒さないといけない」

「わたしだってお母さんの為に強くならないと」

 やはり、それだけでは納得しない。


「エリーちゃんにとって一番大切なことは何?」

「お母さんと、女将さんと大将と漣と、ブロンセンと、あとアリエルちゃんを守ること」


 そこまで言って、はっと気付く。

 自分の目的が、ルークとは根本的に違うことに、エリーは今更ながら気付く。


「そう。今ここには、守るべきアリエルちゃんがいるよね。だったら彼女を守ることがアリエルちゃんの使命なんじゃないかな」


 エリーがアリエルの方を見ると、アリエルはルークにちゃんって付けないでと地団駄を踏んで怒っている。その姿は、戦える自分とは違う年相応以下のお子様だ。年上だとは思えない程に弱そうだ。

 全く、確かに放っておけない友人だと、エリーの顔に笑みが浮かぶ。


「師匠、私の不合格って、ライラさんも戦うから、大切なものを守れってことだったんだね」

「あ、あぁ、勿論だ」


 心の中で、マルスが居て良かっただとか、ルークが協力してくれて良かっただとか、アリエルが子どもで良かっただとか、そんな情けないことを思っているのが伝わる。

 そしてその本心は、ただエリーを心配していただけだとも、確かに伝わっている。

 それは、自分の母親と同じような、親から来るような愛情の様だと、心を読めるエリーには、痛い程に伝わってくる。


「ではエリー、マルス、お前達にはアリエルの護衛を命じる。しっかりと務めを果たす様に!」

「エリー様、マルス様、お願い申し上げます」


 まるで当然の戦闘状態が来たかの様にレインの心は落ち着きを取り戻すと、二人に向かってそう宣言する。それに、ライラも続く。

 それに対するエリーの答えは当然、弟子としてのもの。


「はいっ! 女王アリエル・エリーゼの護衛、引き受けます!」


 ビシッと、いつかの別れの様に姿勢を整え元気よく返事をする。

 まだ赤く腫れた瞳は既に守るべきアリエルを見据えて、レインの一番弟子は覚悟を改めた。


 そうだ。自分は戦いたくて戦うのではなく、守りたいものを守る為に戦うのだ。

 それが師匠からの教えで、この三年半ずっと守ってきたこと。

 不合格などと言われて落ち込んでいる暇があれば、全てを守れる師匠の高みに少しでも近付かなければ。


「マルス、ルーク、助かった。オリヴィアもありがとうな」

「なっ……」

「レ、レイン様、ついにわたくしを……」


 そんなことを少し恥ずかしそうに言うレインと、それに驚くマルス以外をエリーは見逃しつつ、放り投げていた武器達を丁寧に拾い上げると、早速とその手入れを始める。

 先ず最初に手入れを始めるのは、大好きな師匠の名前を冠する『長剣レイン』だ。

 そして次は『白弓エリーゼ』と『戦槍マルス』はどっちを先にしようか迷うところ。

 どちらも、エリーにとっては大切な仲間や友達の名前を持つ武器だ。

 戦いでもないのに放り投げちゃってごめんねとエリーが話しかけながら手入れを続ける。


 その時、二つの武器はエリーに応えることを決めていたのだが、それをまだ彼女は知らない。

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