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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第十四章:取り敢えずで世界を救う
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第百九十四話:ある奇怪な事件

 最近、エレナの魔法が強くなっている。

 幻術は本物と見まごう程だし、人心操作の魔法も、あの『たまき』という女狐には流石に劣るものの、ルークがかかる程になっている。


「エレナちゃん、最近の成長凄いね。安定もしてきてるし」


 先生として、褒められる時は褒めるのも重要視なことのひとつだ。少なくどサニィは先生だった父親から、そうやって教わって成長してきた。


「いいえ、私は褒られることはしてません」


 ところが、エレナはそれを正面から否定する。


「どうしたの? 魔法の威力も安定性も本当に凄いんだけど」


 なので、とりあえずは聞いてみる。


「私は、最近イリスさんに嫉妬してるんです。ルー君をとられるんじゃないかって」

「あ、あぁ……、なるほど。ちょっと二人で話そっか。私も嫉妬の経験なら負けないし」


 何やら分かってしまう悩みの結果、エレナは急激な成長を始めたらしい。

 その内容はこうだった。


 ルークとイリスは実力が似通っていて、ルークが対物理戦闘を学ぶのにちょうど良い相手だ。

 年齢もルークが12歳に対してイリスは15歳。

 見た目的にも少しエキゾチックながら、エレナよりも美人と言える彼女はとても優しく、魅力的なお姉さんに見えてしまってもおかしくない。

 それに、あのビッチどものウアカリ出身。

 いつルークを取られてしまってもおかしくはないのではないかとヒヤヒヤしている。

 だから、かなり特殊な自分を除いて二人が仲良く鍛錬しているのを見ていると、どうしても負の魔法が強くなってしまう。


「私は以前、淫魔のことでルー君に迷惑かけちゃったし、捨てられちゃうかも」

「だから魔法で心を支配するイメージが強くなっちゃってるわけか」

「はぃ……」


 しゅんとするエレナを見て、以前の自分を思い出す。露骨に凶暴化してしまった自分とは違い、見る限りエレナは十分に取り戻せるレベルだ。自分の負の感情にもしっかりと向き合っている。

 それならば、少し気は引けるが、確かめてみようと思いエリーに念話で話しかける。以前ルークとエレナが開発した魔法だ。ドラゴンが得意としている、思考を相手に飛ばす魔法。


『エリーちゃんエリーちゃん、ルー君って今何考えてる? 念話だから思えば伝わるよ』

『イリス姉のおっぱいが見えそうって思ってるよ』

『……ま、まぁおとこのこだもんね』

『あ、見えたけどでもエレナ姉の方が良いって』

『え? どういうこと?』

『お姉ちゃんやイリス姉よりエレナ姉の方がおっきいって』

 エリーの言うお姉ちゃんとは、サニィのことだ。

『…………ちょっと後で説教しとくね。ありがと』

『はーい』


 エリーの無垢な返事に、サニィは黒い感情を滾らせる。久しぶりに魔王モードになっても良いのではないかと思ったが、それはなんとか抑えて。

 その変化に、エレナは少し緊張する。


「エレナちゃん、ルー君の心、支配しちゃおうか」

「へ?」

「あの子、割と女の敵だから、もいじゃおうか」

「え? い、いや、それはまだだめですよ!」

「今ね、あの子イリスちゃんのおっぱいのこと考えてるから」

「……殺しましょう」


 そうして、今まであまり教えることが出来なかったエレナに、サニィは魔王化した際の黒い感情やその他を叩き込んだ。エレナはルークとは違う方向に天才だ。

 そんなサニィの全力の黒い部分を、全力で吸収した。


「思えばあの男は、最初先生に会った時には毎日先生のことを話しながらデレデレしてたんですよね。あの時も思い出せば常に視線は先生の胸にあった気がします」


 もちろん、それはただの被害妄想だ。

 実際に多少デレっとしていたことはルークも認める所ではあるだろう。しかし常に胸に視線など行ってはいない。サニィには胸がない。


「そうだね。どうすれば良いか分かるかな?」


 ルークは大きい胸が好きだと言うことを隠したままにエレナを煽る。


「わたし以外の胸を見たらもげる痛みを!」

「そう。その意気。その域の痛みを!」


 ――。


「なあ、ルーク。あれは何をやってるんだ?」

「なんでしょうね。先生とエレナだけで特訓ってことは、僕じゃ難しいイメージの修行でしょうか」


 何やら夜まで盛り上がっている二人を見て、残されたレインとルークは少し寂しく話し合う。

 イリスはレインを警戒している為、クーリアが居なければ近づいてはこない。もちろん、ルークを奪うつもりも全くない。

 彼女の好みは姉の様に頼れる人、だし、ウアカリの呪いとも呼べる男好きを発症しているわけでもない。


「サニィは時々わけの分からないことをし始めるからな。それじゃないと良いが……」

「エレナも少し前から魔法は強くなってたんですけど元気がなかったんですよね。先生が上手く励ましてくれたんでしょうか」


 何も知らない二人は、黒い炎を滾らせる二人を心配しつつ、話を続ける。

 ルークの空間魔法のヒントを得る為に、再びレインにと師事を受ける中、二人の女は暴走を続けた。


 ――。


「ルー君、ちょっとこっち向いて」

「ん?」


 ある日の朝、エレナは背後からルークに近付くと、その肩に手を当てる。返事をしながら振り返るルークの頰が突き出された人差し指に押されてぷにっと形を変えると、エレナはあははと笑いながら、何処かに走っていった。


「ん?」


 何がしたかったのか、分からない。まあ、可愛いけれど。そう思うルークは、エレナの魔法にかかっていた。


「先生、成功しました」

「うん、ちゃんとかかってるね。あとは様子を見てみようか」


 その魔法は強力だ。その代わり、相手が完全に油断していないとかけることが出来ない。

 その為にルークの頰を後ろからつついて、隙を作り出した。


 サニィは制約をかけることによって、その効果を増幅する術を思い付いていた。呪文の様なもの。開発するタイミングがおかしいと思えなくもないが、怒ったサニィは怖い。

 それは誰もが知っている。


 それは、エレナに惚れる魔法ではなく、他人を良いと感じると股間がもげそう感じる魔法。確実な効果を、エレナは自身の胸を使って実証していた。

 自身に魅了をかけ、無理やり関係のないマルスを好きになることでもげそうに感じることは実証済みだ。

 それをサニィが乾いた顔で見ていたのは、まあ別の話として置いておくことにして、マナを感じたサニィがかかったと言うのであれば成功は確実だ。


 しかし、一切の効果は表れない。


『エリーちゃんエリーちゃん、今ルー君何を考えてる?』

 思わず、サニィはエリーに助けを求める。

『イリス姉のおっぱいが見えそうだって思ってるよ』

『それで?』

『へ? あ、見えたけどエレナ姉の方が良いって』

『…………』

『お姉ちゃん?』

『あ、ありがとエリーちゃん』


 効果が出ないことに怪訝な顔するエレナの隣で、サニィはがくりと膝を折り、両手を地に付ける。

 つーと一筋の雫が頰を伝う。


「先生、先生?」


 不安げにそう呼ぶエレナにも、サニィは最早反応しなかった。


 ……。


「エリー、サニィは大丈夫なのか?」

「なんか、負けたって」

「どう言うことだ?」

「エレナ姉には完敗だって」


 いまいち的を得ないエリーの言葉に、レインは考える。

 しかし、全く意味が分からない。思い当たる節すらない。

 エレナが対人が強いとはいえ、サニィに勝つのは不可能だ。マナを感じるサニィには、つまるところ本気を出せば如何な魔法も効きはしない。

 だからこそ、負ける要素が見当たらない。


「レインさん、私の胸をどう思います?」

「素晴らしいと思うが」


 次の日、サニィの質問にレインは真顔で即答する。


 結局のところ今回の件もまた、サニィの奇怪な行動が産んだよく分からない事件なのだとレインが知ったのは、レインの発言にこの世で1番と言える様な嬉しそうな顔をしたサニィを見たルークの股間がもげそうになってのことだった。

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