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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第十四章:取り敢えずで世界を救う
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第百九十二話:魔物が拒む者達

『跪け、ニンゲン共よ』


 そうドラゴンが念話で勧告してから10分後、ソレはまあ、言って仕舞えばただの素材と化していた。

 騎士団は国を護る為に強敵を倒す訓練を受けている。誇りを持って、その戦闘に臨む覚悟を常に決めている。もしもそれで命を落としてしまっても、勇敢な彼等は常に称賛されるべきである。

 ウアカリは戦いに美を求める。最も強い者は最も美しい。より洗練された者こそより美しく、だからこそ強いのだ。だからこそ強き男を求め、自らも強くあろうと鍛錬を重ねる。


 では、狛の彼らは。


 その日世界の重鎮達、そして英雄候補達は、狛の村が魔物が拒む者達と言われる理由を、その目で理解した。


 狛の彼らは死に対する感傷が少ない。

 もちろん自身は死にたくないと考えるが他人の死に対しては割と簡単に受け入れられる。

 少なくとも、必ず死者が出るデーモンロードとの戦いが祭りのなる程度には。

 つまり、彼らにとってドラゴンの命など、偉大な敵でも美しい敵でもなんでもなく、所詮は魔物。虫けらと何一つ変わらないということ。


 ――。


 彼等の戦い方は、スズメバチから巣を守るミツバチの様だった。

 とグレーズ図書館の文献には記されていた。

 成る程。いい例えだろう。

 彼等は全員で一斉にドラゴンへと襲い掛かり、ドラゴンが反撃をする暇もない程の攻撃をしかけ、見事に討伐した。

 確かにそれが事実だ。

 しかし、それをミツバチ、弱者の様だと描くのは、些か間違いが過ぎる様に感じる。


 彼等の戦いは、グンタイアリの様だった。

 狛の村の住人達を正しく記すならこうでなくてはならない。

 彼等は全員で一斉にドラゴンへと襲い掛かり、ドラゴンが反撃をする暇もない程の攻撃をしかけ、見事に討伐した。

 そう、強者のままに。たまたま通りかかった哀れな幼竜を、貪り食うが如く。


               アレス著『世界の英雄達』より抜粋


 ――。


 このドラゴンの間違いは、知性が高かったことだ。

 彼は知性が高かったが故に、周囲の魔物達と自分を比べ、自分が圧倒的な力を持つ強者だと自覚してしまった。

 別のドラゴンに出会っていれば、上には上がいることなどすぐに理解出来ただろう。

 しかし、彼は運悪く出会わなかった。

 この世界に生まれた時、この大陸のドラゴンは既に三頭が討伐されていた。

 ちょうど彼の生まれた近所に住んで居た二頭、レインを襲ったエメラルドグリーンの個体と、レインが1分と経たず倒した東門のドラゴンだ。

 彼は多くの魔物を従える内、気付いてしまった。

 この大陸で最も個体数の多い生命は人間であると。

 その中でも、濃厚な陰マナの中に、そこそこ強い連中が居るらしい。彼等は魔物に近しい者であると、ずっと頭の中で響いている声は言っている。

 魔物に近しいならば、従えることも出来るはずだ。奴らを従えれば、勇者を始めとした人間共を駆逐するのも容易であるだろう。無理であれば殺してしまえば良い、とそう考えた。


 50mにも満たないそのドラゴンは、そうして狛の村への襲撃を決意した。

 頭の中で鳴り響く勇者やレインを殺せと言う煩わしい声に耐えつつ、一先ずは戦力確保と、自身の強さの確認の為に。


 ――。


 ライラは驚愕した。

 全員が、自分達と同レベルの強さを持っている。自分は少なくとも、呪われている能力だと親に言われたことがある。そのお陰で、強い力を持っているのだと。

 やる気がなかった時にでも騎士団と比べて上位の力を持っている自分は、アリエルと真面目に鍛錬をしたおかげでトップになったはずだ。今はもう、自国の中でも私に勝てる者はいるかどうか。

 集められた者達は皆英雄候補。それならば自分よりも強い者が居てもおかしくは無い。グレーズ騎士団長ディエゴの話は昔から遠くアルカナウィンドまで届いていたし、オリヴィア王女の力はあの時の修行でしっかりと目に焼き付けていた。

 だからこそ自分は冷静に見て、アルカナウィンド一強い。私に近いレベルの者が多いアルカナウィンドではあるが、私が一番強いのが、客観的に見た事実だった。

 

 それでも、ドラゴンは追い返すのが精一杯だ。

 例え50mに満たないこの個体でも。


 そう、思っていたのに。


 彼らが持つのは栄誉でも、大切な国民でも、美意識でも、勇敢さでも、何もない。

 ただ単に殺す。本当に純粋な、ただの殺意のみでドラゴンを殺す。仲間達がその過程で死んでいくのならばそれは仕方なく、それよりも早く目の前の障害を排除することの方が重要である。

 単純に、そう考えている。


「なるほど。サニィ様曰く魔物のマナを体内に宿す者達……」


 自分と同レベルの者達が居るだけならば、驚愕には至らない。この村の住人が全て合わさっても、サニィには敵わない。もちろん、レインには尚更。

 問題は、自分と同程度の力しか持たない彼らが、ここまで軽々とドラゴンを殺しきってしまうと言う点だ。

 根っからの戦闘民族。殺すことに特化した、魔物に近しい者達……。



 ライラが驚愕するのと同時、ディエゴはしっかりと理解した。

 普段はとても気さくな彼らが、基本的にグレーズ王国には不干渉な理由を。

 訓練時の護衛や宿泊の手伝い、その際の戦闘訓練の手ほどきはしてくれる彼らが、決して騎士団に入らないその理由を。

 そして、彼らに徴兵を強いれない理由を。


 彼らの戦う姿は、正に魔物のそれだった。

 レインに何度か見たことのある殺意の塊。そんなものを民衆に見せてしまえば、それは確かに双方にとって不都合だ。

 騎士団は、国を、王を、民衆を護る為に戦わなくてはならない。

 それに対して彼らは殺す為に殺す。その根本の部分が、確かに【人外】の村だと言われる所以なのだろう。

 

 ――。


 その日の晩は、祭りだった。

 彼らはすぐドラゴンと戦った時のことなど忘れたように気さくないつもの状態に戻ると、各々家に帰り、それぞれ大量の食材を抱えて広場に集まってきた。

 魔物の肉は食べることが出来ない為、秘蔵の酒だったり、そんなものを含めて、色々と。

 1時間前にはあそこまでの死闘を繰り広げていた者達だとは到底思えないような気さくさで、彼らは英雄候補達を巻き込み、祭りを開始した。

 曰く、【守護神追放祭】であるらしい。


「どうだレイン。あの程度なら問題ない」

「お前らな……少しは殺意を抑えろよ」

「それを抑えて勝てるわけがないだろう」

「なら問題大有りだ。精進しろ馬鹿共が」

「いやぁー来年はもうちょいデカいのが来ても大丈夫だな」

「調子に乗ってると俺がお前達を滅ぼすぞ」

「はっはっは、ま、次のデーモンロードは死人ゼロを目指すとするさ」


 そんな村長とレインの噛み合っているのか噛み合っていないのか分からないやりとりを聞いて、なるほど、魔物が拒む者達の理由をよくよく理解したと、英雄候補達は深く納得に至った。

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