表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第十三章:帰還した世界で
178/601

第百七十八話:最初の英雄【白の女王エリーゼ】

 アルカナウィンド女王アリエル・エリーゼは、グレーズ王国の姫勇者オリヴィアに、建国の女王、初代エリーゼを重ねていた。

 初代エリーゼも故郷が滅ぶ前は小国の姫。

 元々弓の名手であった彼女の能力は風を感じ操ること。決して強風を起こせるわけではないが、その効果範囲は広大である。

 伝え聞く限りでは、そうであったらしい。

 国の為に世界の為に、理由はどうあれ、ボロボロになってまで戦う姫というものが、アリエルにとっては何度も母から聞いた女代エリーゼの姿そのものの様に思えて、憧れを持つに至った。

 

 もちろん戦い方はまるで違う。エリーゼは弓を中心にした遠隔戦闘を得意にしていたのに対して、オリヴィアは瞬時に間合いを詰める近接戦闘に特化している。オリヴィア自身、必中の能力を持っているので弓が苦手なことは有り得ないのだが、その抜群の身体能力は引き絞り狙いを定める弓よりも、近接戦闘に向いている。

 とはいえ、どちらもがボロボロになりながら戦った姫と言う事は変わらない。


「オリヴィアさん、格好良かったなあ、変態だけど」

「アリエル様はあんな風にはなれないですよ?」


 呟くアリエルに、レインのことに対しての仕返しとばかりの様子でライラが返す。ぺろっと舌を出しながら。

 それに少しばかりむっとした顔をするものの、今はライラの私室、取り繕う必要もないのだが、達観した様にこう呟き返す。


「まあ、妾も子どもじゃないから分かってる」

「うんうん。ちゃんと私達が守るからね」

「え?」


 その返事は、少しだけ予想外だった。

 才能の限界。それが戦闘に関しては低い位置にある。そういうことだと思っていた。


「あら、何も分かってないですね、女王様」

 

 こんな時にとばかりに女王様呼び。それを聞いて、もう一度考え直す。

 そんな風になれない理由は、才能が無いからではない。

 思いつくことは簡単。理由はもっと、根本的な所だった。

 

 アリエル・エリーゼは、英雄エリーゼではない。


 ――。


 最初の英雄【白の女王エリーゼ】は、小国の姫君だった。

 確かに最初は。宮廷内で弓の鍛錬をしていたし、風を感じ、操ることで百発百中の精度を誇っていた。

 上手く風に乗せることで、射程も通常では届かない距離まで遥か遠く。その風を操る精度と高い視力によって、通常の勇者では点の様にしか見えない鳥すら平気で撃ち落としたと言う。

 そんな弓の名手で、姫だった。


 彼女の国は、唐突に滅びた。

 理由は魔王の出現。元々近くに住んでいた緑色の巨大なドラゴンが、突然力を増し国を襲い始めたのだ。

 しかし迅速な王の命令によって、彼女だけは守られた。

 あらゆる何もかもを犠牲にしてでもエリーゼだけは守りきれと、そんな命令によって。

 国を出た時には、既に護衛は10人以下に減っていた。全員が重傷を負っており、動けなくなった者から置いていった。

 そうして、何度も魔物の襲撃を受けながら隣国に亡命を果たした時には、残りは三人。

 その三人も、亡命した先では既に、戦闘など行えない程の怪我を負っていた。


 魔王はエリーゼの故郷を皮切りに、ゆっくりとだが確実に、世界を蝕み始めた。

 

 そこで、近隣のあらゆる国々が結託し世界初の魔王討伐隊を結成するに至る。

 もちろん、そこに行き着くまでに様々な諍いもあったにはあったものの、亡国の姫君が立ち上がったということを旗印として利用することによって、無事、魔王討伐隊は結成された。

 エリーゼは元々、争い事は得意ではなかった。

 しかし、世界があの魔王によって危機に瀕していると言われれば、どこか責任を感じてしまい、利用されるということ理解しながらも殆ど流されるままに討伐隊に参加することになったのだった。


 つまり、彼女の周囲には既に、本当の意味での仲間は、居なくなっていた。


 魔王との戦いでは、エリーゼは常に最前線に配置された。

 もしも彼女が最前線に立って死ねば、それはそれで都合が良い。

 誰よりも勇敢な亡国の姫君は美しい英雄譚にもなるし、そんな姫君を見習って武勇を語るチャンスを得るためにとばかり、馬鹿な者共が張り切ることになる。

 彼女は出来れば、死ぬことが望まれていた。


 ただ、彼女は死ななかった。

 常に風を読み、危険を察知して魔王と向き合う。

 幾度にも渡る遠征から得た行動パターンから弱点を探り出し、遂には、魔王をほぼ独力で地に落とすことに成功する。

 もちろん、何度も何度も戦場に駆り出された彼女は、それが落ちた時には流石に、ボロボロになっていた。

 それでも、魔王が落ちると同時、彼女はそのボロボロの体に鞭打って、誰よりも先に剣を抜き、飛び出していった。


 それが、その場に居た全ての英雄達の心に、響いたのだった。


 そんな話が、初代エリーゼの英雄譚。

 そしてその後、彼女の栄誉を認めた多くの人々が、多くの英雄が、彼女の為にと亡国跡地を立て直し、彼女を女王として起こしたのが現在世界最大の国、アルカナウィンドである。


 ――。


 27代目女王、アリエル・エリーゼは、初代エリーゼではない。


 それはつまり、今の彼女には守ってくれる仲間がたくさんいるという事だ。

 周囲を見渡せば宰相ロベルトがいるし、騎士団がいるし、侍女達が、そして身代わりになる為に生きているライラがいる。

 そして、彼女を指揮官として結成される、魔王討伐隊の仲間達がいる。

 だからこそ、アリエル・エリーゼは、初代エリーゼの様にはなれない。


「ふーん、ふうーん」

 

 理解は出来るものの、納得はしたくない。幼き女王の心中は、そうだった。

 だからこそ、こう続けた。


「ライラは妾の身代わりとかなっちゃダメだから」

 そんな、わがままを言う。

「何をおっしゃる」

 もちろん、そう返す。

「良いから、死なないでね」

「アリエル様次第ですね」

「良いの! 頑張るから、頑張ってね!」


 そんな無理やりな我儘に、取り敢えず身代わりの侍女は、はいはいアリエルちゃんと頷くことにした。


これで七英雄の話が出揃いました。

実は初代エリーゼの話を書き忘れたと思って、ちょうど良い所で旅を中断しようと考えた話がここまでとなります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ