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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第十三章:帰還した世界で
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第百七十五話:女王と侍女と

 女王アリエル・エリーゼが魔王討伐に向けて、侍女と共に必死に訓練をしている。

 彼女は立場としては戦闘員ではなく指揮官ではあるが、軟弱である為に迷惑をかけたくない。そんな思いから、日々女王としての仕事の合間を縫って鍛えている。

 そんな健気な姿を見て、アルカナウィンド騎士団の士気は、既に最高に近い程に高まっていた。


 もちろん、母親が死んだばかりで悲しいだろうにという同情の思いもある。しかし、それでも、同盟国の王女の強さを憧れにし、必死に努力する姿は、大の男達の心をとらえて離さなかった。


 ここ、世界最大の王国アルカナウィンドは、初代英雄エリーゼが元々は魔王に滅ぼされた故郷の復興を願って起こした国。代々女王はエリーゼの名を受け継ぎ、民を思う良き王として民衆からの支持も厚い。何より、初代エリーゼの武勇伝を信奉する民が非常に多い。初代エリーゼは国の母であり、代々の女王はその恩を返す為の偶像としての役割も果たしている。

 

 そんな国で、幼き女王は人一倍の努力をしている。

 それを見て、訓練をサボろうなどという者は一人としていなかった。

 更に、彼らは皆オリヴィアの生死を懸けた訓練を見ている。女王があの王女に憧れを抱いているのを知っている。

 そんな状況下で、努力しない理由の方が見当たらなかった。


 いや、一つだけある。

 女王付の護衛兼侍女ライラ、薄緑の長髪を纏めた見目麗しい、騎士達にとってはもしかしたら手が届くかもしれないと思わせる様なアイドルが、レインに惚れているということだろうか。


「ぬおおおおおおおレインさまあああああぁああん!!」

「なあライラ、何度も言うが可能性はないからな?」


 そんな風に、彼女がある意味では女王以上に必死に訓練している様子が、なんともやる気を殺いでしまうという部分だけが騎士達の不満点であっただろう。

 とはいえ、可能性はない。そんな女王の言葉が再び騎士達を救う。

 実際の所ライラと結ばれる可能性などはほぼないのだが、夢を見ることは出来る。


 さて、そんな風に訓練を続けていたアリエルは、程々に強くなっていた。

 元々勇者としての資質が身体能力よりも能力の側に寄っているせいもあって、どれだけ努力しようとも最終的な強さはそこまでにはならない。精々オーガ50体を倒せるかどうかという所までだろう。


 その為彼女には騎士とは別に数人の護衛を兼ねた侍女が存在している。その中の一人が若き侍女勇者ライラである。

 彼女の能力は非常に特殊。近くにいる人物のダメージを肩代わりすることが出来ると言うのがその能力だ。

 彼女は元々、アリエルが致死量の攻撃を受けた際にそれを引受け、代わりに死ぬのがその役目。

 ライラが居る以上はアリエルは一度死ねる。


 そんな役割を与えられているために、ライラは本来恋愛することそのものが許されてはいない。

 その唯一の例外が、呪いに罹っている者だった。

 理由は簡単だ。呪いに罹っている者は5年間、必ず幸せになる。つまり、そんな者と恋愛すれば、その人物が生きている間は侍女が死ぬことはない。それは言い換えれば、女王の安全も保証されると言うこと。

 

「という事で、私はレイン様を押し倒す力を得ます!」

「ま、まあ、好きにすれば良いが」

「お子様のアリエル様には分からなくても良いんです」

「お子様じゃないし!」

「それに、レイン様に想いが伝わらなくても良いんです」

「聞いてよ! って良いの?」

「はい。結局の所、アリエルちゃんの命のストックということだけじゃあんまりやる気出ませんでしたから」

「ちゃんって言わないで! と言うか、妾女王なんだけど。やる気出ないって」

「まあ良いじゃないですか。私がいる限りはアリエルは安全なんですから」


 見た目は清楚ながら、案外毒を吐くのは昔から変わらない。

 能力に呪われていると以前からあまりやる気のなかったライラが、やる気を出している現状は確かに喜ばしいことではある。

 そして、伝わらなくても良いと言うことは、自分の役割も忘れてはいないということ。

 

「今回ばかりは妾の能力も正しい道を示してはくれないし」

「示されたら示されたで凄く嫌ですけどね。私は来る時の為に、自分の人生を謳歌出来る時にはするのみです。レイン様に対して想いを寄せることを許されてるなら、それに全力になるのみ」

 

 いまいち分からないといった顔をする幼き女王に、ライラはふんっ、お子ちゃまめと喧嘩を売ると、再び鍛錬に戻る。

 彼女は、強い。

 元々騎士団のメンバーが相手でも上位に位置する強さを持っていたが、アリエルの訓練に付き会い始めてからはその力をぐんぐんと伸ばしている。

 

「もー、ほんとにライラは女王に対する敬意ってものがない!」


 まあ、能力の関係上仕方ないし、結局は助けてくれるんだろうけれど。

 そんな風に思いながら、ライラと共に訓練を再開する。


「ふ、恋を知らない以上は私には勝てませんよ!」

「うるさい! 私だってレイン兄好きだし!」

「それはただのお子様の勘違いですぅー。本気だったら私みたいになりますぅー」

「何をぉ!?」

 

 アルカナウィンド王城では、そんな二人と騎士団達の訓練が、城内の人々を元気づける日課となっていた。

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