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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第十三章:帰還した世界で
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第百七十二話:唯一、それを言える者

「俺は一体何なんだろうな」

「レインさんですけど?」


 結局、サニィには何があったのかを伝えてはいない。

 流石に祖父が死んだことは伝えたものの、魔王と言われたこと、半分は確信も無く騎士を殺したこと、そして余りにも簡単に、人を殺せてしまうこと。それらを、伝えてはいない。

 だからこそ、サニィはとぼけたようにそんなことを答える。

 

「俺ってのは、この世界にとっちゃどういう存在なんだろうな」

「ああー、そういうことですか。うーん、そうですねぇ」


 相変わらず、とぼけたように、そんなことを言う。

 少しの思案顔。結論は決まっているものの、言い方を考えている、という感じ。

 

「うーん、そうだなぁ、魔王視点からすると、殺さなければならないイレギュラー、です」

「イレギュラーか」

「はい。私もなんだと思います。だからこそ、都合良く、悪く? とにかく、私達は同じ日に呪いに罹った。それは世界の意思とやらが決めたんだと思います」

「それはおかしい気がするが」


 それが本当ならば、一つの矛盾が発生する。

 魔王は、レインが呪いに罹っているということを知っていたということだ。

 死なない体を殺すために魔王を差し向ける意味が分からない。

 デーモンロードの魔王が生まれた理由が、全くなくなってしまう。

 

「私もよく分かりませんけど、そんな感じを、同化した魔王視点からは感じました」

「なんだかよく分からんが、覚えておこう」

「そして、人間側からの視点で言えば、どんな魔物をも倒せる英雄です。人々に希望を与える象徴です。そ、その、わた、わたしの聖女と同じように。魔王は刺激が強すぎますけど、ドラゴンを一人で殺せるってだけで十二分に」

 

 頬を染めながら言う。

 それを見て、自分のことを分かっているじゃないかとレイン。

 魔物殺しのアイコンとしては、鬼神よりも聖女の方が盛り上がっている。

 もちろん鬼神の異常性も認知されているが、聖女の自分を犠牲にして、というものがより強烈に、人々に感動を与えたものだった。


「あ、あとはそうですね。私の視点からすると」

「すると?」


 今度はレインがとぼけたように聞き返す。

 サニィは少しばかり逡巡すると、意を決した様に言葉を繋げる。


「えーと、居ないと困る存在です」

「詳しく」

「えーと、居ないと困る存在です」


 目を回したように、同じ言葉繰り返す。

 以前は好きだから一緒に死のうとまで言ったはずだが、今回のはまた別らしい。


「もう、レインさんは何もできなかった私をオーガから救ってくれて、鍛えてくれて、ドラゴンから人々を守るチャンスをくれて、魔王から救い出してくれて、そして、ずっと一緒に居てくれて……」

「なるほど、俺のおかげで物語のお姫様を体現しているということか」

 

 ぼっ、と音を立ててサニィが発火する。

 赤くなるというレベルではない。発火する。

 仕方がないのでその炎を切り取ってサニィを落ち着かせるために抱きしめることにする。

 全く仕方のない奴だと、しかし、殺すだけしか能がないと思っていたレインは、確かにたった一人だけは守ることが出来ているのだと、その高くなった体温で実感する。

 

「なるほど。まあ、納得した」

「女王様だったり、まだ疑惑でしかない騎士様を殺しちゃったり、解決方法に困ったらすぐ殺しちゃう、邪道にも程がありますけど……。鬼神とか呼ばれたりするのも納得ですし、何故か魔物に好かれたのも意味が分かりませんけど、まあ、半分だけは物語の王子様かなぁと、そんな風にも思うわけ、です、……よ」


 発火を抑えながら、続ける。


「オリヴィアにも、ウアカリでも、デレデレしながらも手は出しませんし、そこら辺もまあ……」


 デレデレなどしていない。

 少なくとも、オリヴィアもウアカリもその様にしているようには思っていないはずだ。


「さて、この話はこの位にして結論に行きましょう。レイニーさんのことを気にしているなら、私はあえてこう言います。レインさんを殺そうとするということは、殺されるということです。なんと言っても、レインさんはほぼ、魔物の勇者と言っても過言のない体なんですから」

「言うに事欠いてそれか……」


 呆れるレインに、サニィはない胸をはる。

 少しばかりイラッとしたので、それを凝視する。


「元魔王が言います。私はレインさんが魔王でも味方ですから」

「……」


 正直、何の解決にもならない宣言だが、救われないと言えば嘘になる。

 元魔王がそう宣言するのであれば、確かにこれ以上なく、味方なのだろう。

 

「まあでも、レインさんは強すぎますから。少しは手加減してあげてくださいよ。殺されないように殺す方が簡単かもですけど、殺されないように制すことも、まあ、ほんの少しだけでも余裕があればしてください。これは、人間として、私が言います」

「……了解した」

 

 サニィは、確かに元魔王だが、誰一人として殺したことがない。

 手を汚すことは全てレインがしてきたし、魔王化した時も、一度たりともレインも殺せていない。

 最も実績の低い魔王は、最も実績の高い英雄を説得するのに、確かに最も適任だった。


 レインはほぼ魔物の体の勇者。奇跡的なバランスの上に成り立っているその体は、英雄と呼ぶには些か凶悪だ。

 そしてサニィは元魔王の勇者。魔王の意思をその身に感じ、人間としての今までも確かに持っている。

 互いに、人間と魔物、どちらの部分も持っている。

 しかし、二人は人間だ。

 本人達がそう思っている以上は、世界にとっては二人は異常な力を持った、史上最高クラスの英雄である。


 何はともあれ結局の所、二人の作った魔王討伐軍はこの先、人々を救うことになるのだから。

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