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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第十二章:仲間を探して
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第百六十七話:叫び

「君のせいでウアカリに行く気が失せてしまったよ」


 突然、サンダルがそんなことを言う。

 美女好きで、別にレインが手を出してもいない場所でなら、問題はないだろう。だからこそ修行の成果を確かめるついでにからかったのだ。

 そう思っていたところにこんな発言。


「私はまだまだ弱い。君どころか、聖女様にも手も足も出ないとは……」

「それは俺のせいじゃないだろう」

「いいや、君のせいだ。私は強い自信があった。顔も君より良い。なのに、君に弱いことを気付かされた。更に、聖女様みたいな天上人に好かれている。総合すると、男として負けている」


 自分に対しての怒気を滲ませながら、サンダルはぼやくように言う。


「何が言いたいのか全く分からん」


 対するレインはあっさりした物だった。


「俺は美女より世界よりサニィが大切なだけだ。その為にお前達に魔王を押し付ける。まともな男ではないと思うが」


 そんなレインに、サンダルはふんっと鼻を鳴らす。


「それは君の傲慢な考えさ。少なくとも、私は一人として本当に守りきれる力を持っていない。本当は分かっていた。だから、大勢の女性に頼るんだ」


 奇しくも、それは誰も知らないヘルメスと全く同じ悩み。かの英雄も、かつては自分は全く傷付かず魔王を倒した。親友だった多くを守ることも出来ずに、仲間の全員を犠牲にして。

 だが、レインには、少なくとも生きてる間だけはサニィを守り切る力がある。たった一人しか守る気がなくとも、たった一人だけは確実に守りきれる。それだけの力を持っている。


「だから、そんな弱い癖に女性女性言ってる自分が、急に情けなくなってきた」


 そんな風に、目に見えて肩を落とす。


「あの、それって私のせいなんじゃ……」

「君のせいじゃない。この男のせいだ」


 サニィがサンダルを簡単に気絶させたことが、男の自尊心にとどめを刺したことは間違いない。しかし、男はそれを否定する。


「この男のせいで、……私のせいだ」


 流石に、サニィには何も言えない。


「レイン、君はいったい、なんで強くなったんだ?」

「俺の体は」

「体の話じゃない。なんで自分は死んじゃうのに、死んだ後に生まれる魔王に備えることなんか出来るんだ?」

「そういう話か。……愛するサニィが、次の魔王を止めたがっている、ってのはどうだ?」

「模範的な回答だけど、弱い」


 レインの言葉を、切って捨てる。

 だから、その心の内を、少しだけ話す。

 

「俺は魔物が、許せんのだ。お前には、これだけ言えば十分だろう」


 何が十分なのか、それは伝わらない。

 しかし、レインがそこで切ることには何か意味があることを、サンダルは流石に分かっていた。


「あー、もう、分かった。全く分からないけれど、分かった。ともかく、私は修行不足で、君には私がそのうち理解するだろう秘密がある、と。そう受け取ろう」

「理解が早いな、友人1号」

「こう言う時だけ友人面しないで欲しいな。私は君が本気で嫌いだ」

「俺はお前の凹んだ姿を見て愉悦に浸っている」

「君はほんとに……」


 どうやら、それで解決したらしい。

 男の友情は訳がわからないと思いながら、サニィはお茶を淹れる。


 結局、サンダル自身、止まる気はない。少しばかり、自信を失っただけ。

 別れてから、必死に努力してきただろうことは、噂や住みかや、そして技を見れば一目瞭然。レインのやるなと言う声に、本気で嬉しそうな顔をしたのを、その場の誰もが見ていた。

 だからこそ、不意打ちとは言えサニィの魔法に全く対応出来なかったのが悔しかったのだろう。弱音を吐いてしまったのだろう。


「さて、修行の邪魔だ。そろそろ行ってくれ」


 そんな一言が聞ければ、それ以上、言えることは無かった。


「また来る」

「もう来なくて良い。私は君を超えるまでは君に会いたくなんかない」

「ツンデレですか?」

「もう、聖女様まで変なことを言わないで下さい」

「じゃ、その目標の本気の実力を私が教えてあげましょう」

「サニィ、余計なことは言わなくて良い」

「……教えて欲しい」

「あなたの目標は、ワイバーン700匹を、――」


 ――。


 赤土の大地を、二人は進む。

 結局のところ、サンダルは随分と強くなっていた。レインの壊れない剣【月光】でなければ、その刀身は粉々、レイン自身も真っ二つな威力の一撃だった。

 もちろん、そんなシンプルな一撃でレインを倒す事など不可能だ。しかしそれでも、レインを地面から浮かせ、弾き飛ばすだけの威力を持っていた。

 それだけで、どれだけ賞賛すべきことなのか、サニィだけは知っていた。


 だからこそ、もっと上があるという意味を込めて、それを伝えた。

 魔王を一人で倒す男は、そんな強いんだぞと、レインの友人だからこそ、伝えたかった。


「でも、やっぱ余計なことしましたかね?」

「分からん。しかしまあ、中途半端な力と覚悟しかないなら、ここで潰れてリタイアした方が良い」


 その目標の大きさを聞いて気を失ったサンダルを放置したまま、二人は赤土の大地を進む。


 ――。


 残された男は、叫ぶ。

 美女を抱きたいと。今からウアカリに向かいたいと。奇跡的に助けた美女と、運命的な恋がしたいと。

 あの男の様に、くそう!

 一頻り叫んだ後、男は決意する。


 格好付ける分も、修行に回そう。とりあえず、発狂寸前までは、そうしてみよう。


 そうして男は、もう一度、力の限り叫んだ。

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