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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第十二章:仲間を探して
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第百六十四話:修行の裏の騒動

 ところでウアカリの女戦士達だが、レイン保護令が出たからと言ってすぐに大人しくなることはなかった。

 相変わらず常にレインを囲う様に人だかりが出来ていたし、その格好は日に日に過激になって行った。

 直接襲うことはなくともサニィは十分に不快な思いをしただろう。

 それを見たクーリアは、見せしめにサニィが捕まえた友人の一人をイリスの能力で廃人にした。

 首長の友人という立場を使ってレインに少しでも近付こうと裏で動いていた不届き者だ。サニィがトイレに行った隙にレインを襲おうとした所を、サニィのトラップによって捕獲された。


 広場に、その友人が分厚い防護服の様な服を着せられ、手足を縛り上げられ、感情の抜けた顔でぼーっと虚空を見つめながら涎を垂らすのを見て、ようやく事態は沈静化した。

 恐怖政治によって。


 それを見たサニィは流石に可哀想だと思ったのだろう。もっとすっきり解決しようと大武闘会の特別編を開くことをクーリアに提言する。


 ルールは、サニィ対レインが欲しい者全員。

 ウアカリでは強さが絶対だ。クーリアがその様な大会を開くと宣言した以上は、ウアカリが勝てばレインはウアカリのモノとなる。

 ウアカリのモノとなれば、後は全員で順番に楽しめば良い。


 そうして、大武闘会は始まった。

 今回に限っては、クーリアは不参加だった。


「さて、力自慢の皆さんを、正面から叩き伏せてあげましょう」


 そんなサニィの一言が、開始の合図。

 サニィの見た目的には、何一つ変わらない。

 しかし、その魔法は既に発動している。徹底的な身体強化、巨大な群れのマナの動きを読み取り、思考を加速させる。相手のあらゆる攻撃をその時々に応じて硬質化した肉体で全て受け止め、その攻撃の隙を突いてのカウンターで撫でる様に一撃。

 当てられた相手は、糸の切れた人形の様に倒れ伏す。もちろん、倒れた相手の生命維持は怠らない。

 参加者約1700人を、全てそんな戦闘方法で倒し切った。


「うぅあー、いたたた」


 大会後、サニィは全身が痣だらけになっていた。流石に1700人を相手に最初から最後まで集中力を維持することは出来ず、何度も有効打を受けていた。

 もちろん、得意な戦法で戦えば、この十倍の数の戦士が相手でも余裕だっただろう。

 それでも、この聖女は、戦士達に対して戦士の様にに見える技を使うことに決めていたらしい。

 サニィは、その怪我を魔法では治さなかった。


 大会終了後、サニィの怪我が癒えるとクーリアの提案により、エキシビションマッチとして、クーリアイリス姉妹との戦闘を同じ方法で行うと、彼女はこの国に於いて神であると認められた。

 それはどうなんだと、サニィ本人は恥ずかしそうに言っていたが、ウアカリ族の上位1000人を一人で倒した者は神なのだというよく分からないしきたりによって、彼女の地位は盤石のものとなった……。


 戦神、それが、ウアカリでの彼女の称号。

 その称号を持つのは、ウアカリの長い歴史でも魔王を倒したヴィクトリアとフィリオナの姉妹のみ。


 ともかく、レインは神の供物となったことで、ようやくこの地で安息を得たのだった。


「なぁクーリアよ、俺は魔王を倒したんだから戦神としてそっとしておくって選択肢はお前らにはなかったのか?」


 騒動が沈静化を見せた後、レインはそんなことを尋ねる。答えはこうだった。


「ウアカリにとってそもそも男は神だからな。だからここでは男は殺人窃盗以外の全てが許される。戦神は、そんな神々を独り占めする為の制度の様なものだよ」

「そうか。全然分からん」

「もちろん、戦神の供物となっても、男がその気を起こせば自由だ。あくまで誘ってはいけないってのが徹底されるだけ」

「お前のそれは誘っているに入らないのか?」

「アタシはあくまでイリスの特訓を保護者として見守っているだけだ」

「ものは言いようだな……」


 イリスの特訓をするサニィをベンチで見守りながら、レインは溜息を一つ。

 肌が触れ合う程近くにクーリアが座っているのを、最早諦めている。

 サニィも魔王問題が解決してからは、その程度は許すことにしたらしい。レインが動じていない以上は 自分の勝ち。実は常に視界内に居てくれることが、問題が解決してやっと分かった。だから安心。ずっと側に居てね。

 そんな考えが新たに湧き上がってきていると夜、布団の中で言っていた。


 ――。


 ちなみに廃人にされたクーリアの友人は、大会前、イリスの治療を受けて治った途端に再びレインに襲いかかって廃人にされていた。

 まあ、流石に自業自得だろう。


「レインさんが欲しいなら私に勝って下さいねっ」


 廃人の友人の耳元でそう囁くサニィに、廃人の友人は焦点を合わさずあうーと一言、よく分からない言葉を返して、涎を垂らす。


 惜しむべきは、その廃人の友人こそが平時なら、見た目で言えばウアカリで最もレイン好みだったことだろうか。


 ――。


 ここ、ウアカリには三人の優秀な戦士がいる。

 一人はヴィクトリアの再来、現首長のクーリア。

 一人は唯一の魔法戦士、妹のイリス。

 そしてもう一人はその廃人、首長クーリアの友人にして二人が初日に泊まった宿の受付嬢ナディア。勝つ為ならなんでもする本当の邪道戦士。

 この三人が、現在のウアカリでは最も強い三人となっている。


 廃人ナディアへ向けてサニィが放った一言によって、この三人が更に高め合うことになるのは、たまたま起きた偶然だった。

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