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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第十二章:仲間を探して
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第百五十二話:二人は世界の

 二人は夜の街を無言で歩いていた。

 宿を取り忘れた。

 あの後ふぐ料理店をはしごして回るうち、いつの間にか深夜にまでなっていた。

 それでも、満足気な顔のままに、無言で歩いていた。

 リブレイドは小さな島国だ。漁業が盛んで、他の国では食べられない方な方法を使ってでも珍味を探すことに長けている。そのひとつがふぐ料理だった。

 もちろんその味は絶品で、時間を忘れて何件もの料理屋を食べ比べて回ってしまったのだ。

 幸いにも、魔物の素材をいくらでも手に入れる能力を持っている。金なら、ある。

 口から出るのはただ満足のため息だけだった。


 その日は、街の外で、いつも通りの野宿をしながら充実した眠りについた。


 ――。


「おはようございます。美味しかったですね」

「ああ、おはよう。母親があれだけふぐふぐ言っていた理由が良く分かった」


 早朝、未だ余韻が抜けていないのか二人は開口一番その話を始める。

 普段は野宿が多く粗食にも慣れているものの、食に興味がないなんていうことはない。

 今までの道中でも寄った町で名物を食べるのは日常的だったし、気に入ったものがあれば滞在中に何度か食べることも珍しくはなかった。

 それでもそれまでは美味い美味いと言いながら食べていたし、次の日に朝一でその料理をまた食べたい等と言うことは無かった。


「それじゃあ、今日はどこから行く?」

「昨日こっちに来る途中に雰囲気の良さそうなところには目星を付けておきました」

「それなら店が開く前にどこが美味いかも聞き込んでおこうか」

「そうしましょう」


 それが今日はこんな様子である。

 そこに、やはり鬼神と聖女の姿はなかった。そこにあったのはふぐの亡者。金なら、ある。

 その日も二人は、全てを忘れて、生を謳歌することに決めたのだった。


「それにしてもレインさん、意味不明な程食べてましたね。いつもは普通くらいにしか食べないのに」

「ああ、狛の村にはな、飯を大量に食べて蓄えておく奥義がある」

「ええ、なんですかそれ」

「俺にも分からん。まあ、魔物に近い体というか、野生動物の様なものなんだろうな。長期の戦闘にも耐えられるようになっている」


 そんなどうでもいい会話をしつつ、ふらふらと片付けを始める。

 思えば、エリーゼ前女王の時にも、レインの動きは三日三晩通しだったにも関わらずあまり鈍らなかった理由はそこにあるのかと、なんとなく納得をする。

 それと同時に、彼女は呪いに罹っても幸せな5年間を生きられたのだろうか。最後はあれでよかったのだろうか。全てを忘れてと決めておいてそんな思いが浮かんできてしまう。

 魔王の呪いは、そんな二人にとっては必ず世界から排除しなければならない課題であることを、やはり、思い出してしまった。


「呪いを解く方法は、俺の体の仕組みを利用するんだろう?」

「……はい」


 レインの体は陰陽のマナが、その細胞の薄皮によってかろうじて触れ合わない爆弾の様なものである。

 陰陽のマナは、綺麗に混ざり合えば消えてしまう。

 触媒を使った魔法は、拡散系の魔法のみ。分解の魔法とは違い、自分の意思で簡単に消費出来る物のみが、その触媒と成りうる。

 黒の魔王がそれを使ったのは北極点。

 そして、魔王以上の者だけが、呪いを解くことが出来る。


 今までの旅でこれだけの条件を見つけた以上は、方法は一つだけだった。


「だから、ね。レインさんが一緒に死んでくれと言うのを、私も同じく返すんですよ」

「巻き込んですまない」

 なんと返せば良いのか、いまいち分からない。

「何を言ってるんですか。私だって、世界よりもレインさんの方が大切ですから。ついでに世界が呪いから救われるってだけです。……考えてもみてくださいよ。私達のどっちかが生き残ってれば魔王討伐なんてそんなに難しくないんですから」

「……そうだな」

「だから、最後まで一緒に、居てくださいね」


 これから先、魔王の呪いで死ぬ人が多いか、魔王で死ぬ人が多いか、それは全く分からない。

 優秀な戦士は、魔王を残した方が多く死ぬだろう。

 呪いは、長く続くだろう。

 それでも二人の答えは、既に決まっていた。

 

「それはこっちのセリフだ」


 世界の中でも異常な二人は、きっと世界の意思で生まれ、世界の意思で呪いに罹り、世界の意思で出会い、その役割を果たす。

 二人の感情すらもきっと、その中の一部に過ぎないのだろう。

 それでも、それが分かっていても、二人はその道に従うことに抵抗など出来ようもなかった。

 互いに大切なのは世界よりも相手。そうなってしまった以上、ついでに救える世界を、ただ救うだけ。

 それがたまたま、エリーゼ前女王を殺した呪いを解くということ。それだけは、なんとしても解きたいと思っていたから、ちょうど良い。

 しかし結局様々な柵の結果、まだ呪いを解くことができない。

 本質的には、ただ、それだけのこと。


 二人は朝一で考えてしまったそんなことを思い、改めて今生きていることに感謝を捧げると、ふぐを食べるために再び朝の街へと旅立って行った。

 今の生を、謳歌するために。


 残り[868日→867日] 

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