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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第十一章:南の大陸へ
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第百四十四話:新たな魔法の使い方

 集落を出て三日程、サニィは早速新しい魔法の開発に取り組んでいた。

 代々彼らの集落に伝わるシャーマンの魔法、呪術は、全て村に伝わる定型文を口にし、それにマナを乗せることで魔法の効果を発揮する。

 彼女曰く、その言葉の意味を意識に刻み込み、それを唱えれば必ず同じ効果が認められる。

 それは言ってみれば、魔法の行使に必要なイメージと道具の双方を言霊の一つで代用することで、常に一定の効果を発揮する魔法を作れる、ということ。

 サニィ自身、魔法を使う時にはイメージを補助する為に言葉に出して現象を呟くということをしている。

 それを、更に洗練させていけば、言葉の一つで魔法を行使することができる様になる。そういうこと。

 彼女達の呪術は特別な道具を使わずとも、それだけの魔法の増幅を行なって見せたのだった。


「だから、言葉を、言霊を利用したイメージはそれだけ強力ということになりますね。パッとイメージするのには向きませんが、遠距離で強力な魔法使いを作る為にはこれが向いているかもしれません。新発見です」

「それは唱えている間にイメージする必要は無いのか?」

「言葉の意味をそれを覚える時に同時に覚えこむのだそうです。だから、その場ではイメージしていなくとも、言葉に出すだけで深層意識から引き出せるのかと」

「なるほど、少しだけ時間はかかるが確実な方法というわけか」

「はい。威力も、下手に道具とイメージで行う魔法より強力です。しかも、唱え続ければずっと効果が蓄積するものもあるので、強くてどうにも攻撃が当たらない敵を、気付かれない様にだんだん弱らせていく、みたいなことも出来るかも」


 サニィのおかげで、北の各国の魔法技術は飛躍的に進歩を遂げていると聞く。しかしながら根本はやはりイメージが重要であって、言ってみれば、いまだに全てが才能だ。

 むしろ、頭が悪ければサニィの理論を理解出来ず、才のあるものとないもので、むしろ大幅に差が開くことにもなっていると言う。

 当然ながら、全体的には大幅な成長ではあるものの、才能の無い者が悲観的な意見を口にし始めるという事態も、まあ、それまではよりは少しだけ多いらしい。


「だからこれはむしろ、凡人の為の魔法ですね。呪文を唱えることによって、簡単に規模の大きい魔法を使う。彼らはきっと個人で戦うことは出来ないでしょうけど、大砲の様な役割は果たせる様になると思います。

 あ、シャーマンの方々に敬意を評して、この魔法の言葉を呪文と名付けてみました」

「呪いの文か。まあ、シャーマンらが呪術と呼んでいる以上問題はない、のか? まあ、それはともかく、大砲的な扱い。確かに現状よりはマシだろうな」


 現状の集団戦における魔法の扱いは、鎧で固められた騎士相手の小口径の拳銃的な扱いだ。

 騎士、勇者の方が強いし、居るに越したことはないけれど、どちらかと言えば火力よりも補助の役割が強い。

 そんな中でサニィの母親が王妃専属の護衛になれたのは、その戦術故だという。

 出力は弱くとも超常現象を起こせる以上、可能性はいくらでも作れる。

 いきなり怯えた様子を見せたので油断すると、服が濡らされたと思った瞬間雷撃を喰らったと言うディエゴの話が、その工夫を物語る。

「ま、まあ、お母さんは良いじゃないですか。卑怯だろうがなんだろうか勝てば良いのよ、って確かに言ってましたけど」

 ディエゴの話を聞いてそんなことを言っていたサニィの顔が引きつっていたのは面白かった。

 そんな、なんでもしなければまともに戦うことすら出来ないことが多かった者達が、大砲としての役割を果たせるというのであれば、それは革命となる。


「だから、その為の呪文を考えないといけません。ちょうど分解の魔法を禁術にするのにも役立ちますし」


 分解の魔法は危険すぎる。時間もかかるし、自分よりも強い者を分解するのは困難だが、弱い者であれば一方的に消滅させることができてしまう。文字通り、消し去ってしまえる。

 サニィの転移はそれの応用だったが、分解して戻さないということができることが知られてしまえば、悪用する者が出てくるかもしれない。

 なので、転移の魔法そのものを呪文専用の魔法にしてしまえば良い。

 もちろん、頭の良い人はからくりに気づくかもしれないが。

 その為、サニィは村に伝わる呪文の内容を手書きで写し、その解読から始め、オリジナルの魔法を作り出してみることにした、というのがこれまでの話だ。

 さて、試してみますと前置きをして、杖をレインに渡すと、両手を前に掲げて言葉を紡ぐ。


「とりあえず、大気の水よ、その姿を表せー、ぱしゃぱしゃー」

「……」

「あれ、何も起こりませんね」

「シャーマンの呪文が何を言っていたのか俺には全くわからなかったが、そんな変な呪文で良いのか?」

「なんか凄い複雑な言い回しというか、魂を司る精霊よ、この者にその力を分け与え、魔の者を滅せよ、ってニュアンスのことを言ってま、あ、今発動しましたね……」

「…………」


 何が悪いのか、それは明白だった。

 サニィには、ネーミングセンスがない。

 それは、ここでももちろん発揮された。なんだ、ぱしゃぱしゃーって。

 ここにオリヴィアが居なくて本当に良かったと思うレインだった。

 もちろんこれから先、サニィが転移の呪文を完成させるために、人生の大半を使うことになるとは、この時のサニィは思ってもみなかった。

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