表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第二章:美少女魔法使いを育てる
13/601

第十三話:現実は時に想像を超える

「レインさんの過去かぁ。強いのにも理由があったんですね」

「……それはお前も同じだ。お前はこれから世界最高の魔法使いになるだろう」

「5年で、なれるでしょうか」

「当然だ。お前の隣に居るのは俺、魔王をも倒せる男だ。常に越えられない目標となってやる」

「あはは、戦ったこともないのに。でも、強さだけは認めてあげても良いでしょう」


 二人は平原を歩く。

 相変わらず青い花を咲かせ続ける魔法使いの少女と、常に周囲と少女を見極め続ける青年。

 町からジャングルの手前にある街までは馬車も出ていたが、彼らは徒歩を選んだ。

 まずはサニィの訓練が最優先。時間もないのにのんびりとした旅ではあるが、二人共が納得している道筋だ。

 いつかは危険な場所にも踏み込むことになる。サニィの体力作りも兼ねた徒歩修行は、いずれにせよ必要なことであった。


「本当に徐々にだが毎回確実に伸びていってるな。魔法ってのはそんな簡単に成長するものなのか?」

「分かりません。魔法の修行って、基本的に師匠に見せてもらって、それを真似することから始まるんですよ。イメージが大事って言われるのはその為なんです。知らないことは出来ませんから」

「正確と言っておきながらやはり曖昧なものなんだな」

「地形の把握とか、そんなことは今まで考えられたこともないのかもしれません。何しろ超常の力なのですから、殆どが才能だと思われてるのが魔法なんです」

「そういうものか」


 なるほど。確かにトリックが分からなければマジックですら魔法だ。

 それを公然と、使っている本人すらイメージの力だけで起こしていると考えているのであれば、納得がいくというもの。優れた教師であったサニィの父親であっても、そのイメージを伝えるための言葉が上手い。そういったものだった。それを知ったレインはその日の夜、更に具体的な方法に出ることにした。


「さて、先ずは切断の魔法だ。無駄を省こう。少し待っていろ」


 焚き火を起こし、そう言うとレインは一瞬にしてサニィの視界から消え去る。

 それは単純に移動速度を追えなかっただけだが、そんな速度で動くところをまともに見たのは初めてだった。巨木の森の訓練では気がついたらいつも助けられていたし、いつの間にか狩りを終わらせていた。

 しかし、ここは平原。遮るものなど何もない中で突然姿を消されると流石に驚くものがある。

 瞬間的に探知の魔法を使って周囲を探ると、一つの青い花の様な物体が凄まじい勢いでこちらに移動してきていた。


「ひいっ!」


 思わず悲鳴を上げてしまうが、その物体は近づくにつれ徐々に速度を落とすと、その手に一匹の野うさぎを持っていた。もちろんレインだ。


「ん? 何を引きつった顔をしてるんだ?」

「え、えと、初めてレインさんの瞬間移動を見たので、思わず探知したら勢いが怖くって」


 正直に話すと、レインはハハハと笑いながら、「ただ全力で走っただけだ」等と言う。

 完全に魔法を超越した人外な速度に恐怖を覚えながらも、ふとサニィは気づくことがあった。


「あれ? 探知の魔法ってなんでしょう」

「どういうことだ?」

「そんな魔法、私知らないのに」

「なるほど。もう一回使ってみてくれ」

 

 言われてもう一度サニィが使うと、レインは「ほう」と関心する。

 サニィには一時的にレインが青い花の様に輝いて見えている。

 そしてどうやら、レインにも何かが見えたらしい。


「思わぬ副産物だな。見える範囲に花を咲かせる。常に地形を把握し続ける。どこまで届くかを計算し続ける。花をイメージする。そして俺に追いつきたい。そんなイメージが、新しいイメージを生んだらしい」

「ってことは、もしかして」

「ああ、知っている範囲内の俺を探し出すことができる。どうやら俺は隙だけなく好きも見えるようだ」

 

 ぼっと音が聞こえるかのように瞬間的に真っ赤になるサニィ。

 そして手足をバタバタさせると、「嫌い!」などと叫ぶ。

 それを見ていつもの様に笑うレイン。当然の如く再び雷が落ちる。


 暫くの轟音が響いたあと、サニィがようやく落ち着くとレインは口を開いた。


「まあ、今は俺だけだが、いずれ他の物も見えるようになるだろう。そして、好きが見えると言うのは冗談だ。お前の視線が花を見ている時と同じ状態になっていた。集中の仕方が花を咲かせるために地形を把握している時と同じだった。まあ、結果的には当たらずとも遠からずだろう?」

「もう! 違うから! 早く切断の魔法のコツを教えて!!」


 結局のところイメージを掴んでしまったサニィだが、まだ心を許したわけではない。

 そんな言い訳をしつつ、熱くなった体を冷ますために手で顔を仰ぐ。

 相変わらず最低男は笑っているので雷を落としてやりたい所だけれど、強くなりたいので仕方ないから話を進める。何せ目の前の男の言う訓練で、確実に強くなっている。悔しいけれど!


「仕方ないから聞いてあげます! 感謝してくださいね!」

「ああ、ありがとう。それでは、刃物の話をしよう」


 そうしてレインは刃物について語り始めた。

 実際にうさぎを捌きながら、より効率的に切り裂く方法。刃物によって変わる切り方。そして断面。それらを教えていく。

 そして、食事を済ませたあとは一度使った巨木を切り裂いた魔法の改善点、構え方。

 レインが見たところ、サニィに向いているのは円の動きだった。直剣ではなく、曲刀で、文字通り回す切り方。

 レインもその方法を見せ、地面を30m程切り裂く。

 刃の形状もレインの指南によって徐々に上達していき、最終的にはその日のうちに地面を6m程も切り裂けるまでになった。先日から徐々に出力を上げているサニィの魔法は、既に通常の剣士であれば足元にも及ばないほどに成長していた。

 最も、比較対象が【アレ】なので、あまり実感は無かったが。


「ともかくこれで、お前も多少の近接戦闘が出来る様になったというわけだ。もちろんまだ体の運びはぎこちないし、防御が達者なわけでもない。しかし魔法使いの弱点であるパニックに対処するには、これは有効だろう。咄嗟の時は切り裂いてやれ」

「ふ、ふあい。わかりましゅた」


 夜になって猛特訓をしてしまった為サニィはふらふらだ。

 少し張り切りすぎたかとレインは反省する。しかしサニィ自身、レインの過去を聞いてやる気を出したのも事実だった。それに、彼女のマナの限界は一向に訪れない。


 しかし、明日は流石に少し遅れても仕方がないか。

 そう思いつつ、その日は眠りにつく。


 残り【1816→1815日】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ