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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第十章:未来の為に
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第百二十六話:母として、子として

 エリーには天性の戦闘センスがあった。

 7歳にも満たない子どもが複数の武器を扱うなんていうことを、考えたとしても実行できるものではない。

 ましてや、それでレインの目をほんの一瞬だろうが欺くなど、オリヴィアですらほぼ不可能だと言える。

 身体能力等の体内マナ含有量はオリヴィアの方が確かに多い。しかしそれでも、エリーはそれを抜く可能性があることは、レインとの手合わせによって証明されたと言える。

 彼女は恐らく、やってみたかったと言う理由だけで、それでレインを倒せる等とは微塵も考えていなかったのだろう。きっと、レインを欺けるとも。

 彼女は多分、少しでもレインに近づきたかっただけ。その為に、師匠を実験台として利用しただけ。考えてではなく、本能で。

 レインに心酔しきっているオリヴィアには、こんなことは出来ようもない。


「師匠、どうすればもっと強くなれる?」

 

 だから彼女は、そんなことを聞いた。

 それに対して、レインが言えることは一つだった。

 あの模擬戦の後、エリーの武器の扱いを一通り見たレインは、ある一つのことに気づく。


「エリー、好きな武器はどれだ?」

「両手剣とメイス、です」

「なるほど。その二つは確かに、既に卓越した技術を持っていると言える。だがお前の総合的な得意武器は槍だ。お前は間合いを開ける程冷静に場を把握出来る。しかし、精神的には短剣が向いている。いつでも相手に突撃して、一気に止めを刺したい。そう思っているところがあるな」

 

 盾で突撃して、相手の視界を潰してからの奇襲、武器を投げる時の冷静さ、そしてそれぞれの武器での戦い方を見ている限り、エリーの動きにはそこに微妙な違和感があった。

 間合いを開けるほどに冷静に見られるものの、いつでも懐に飛び込んで仕留めたい。冷静さの中にそんな意識が混じっており、中距離での対応が疎かになるタイミングがある。そこは両手剣やメイスが好きなおかげか、その技術で補っているが、レイン程の達人が相手であれば隙だらけだ。

 尤も、それはオリヴィアですら分からない微かなもの。


「だから、一先ずは懐に飛び込むことの恐怖と、槍の優位性を教えてやろう。次はその逆、懐に飛びことの優位性と、槍の欠点を教えてやる。それらが分かれば中距離ももっと落ち着けるだろう」

 

 槍は弱点が少ない。とは言え、それは人間が相手である場合だ。身体能力の高いデーモンなんかが相手だと、突きを掴まれることすら普通に有り得る。そのまま引っ張られてしまえば終わり。それで命を落とす槍使いも決して少なくはない。全ての敵を短めの両手剣の一本で倒してしまうレインだが、それは他の武器を知らないというわけではない。

 あらゆる武器を某鍛冶師に作らせては戦闘で破壊して帰ってくるという日々を送っていたこともある。そんな中で、様々な武器の利点と欠点を独自に考えた末、エリーに与える8つの武器を考えたのだった。

 

「あ、でも師匠、大剣も知りたいです。まだ重くて上手く使えなくて」

「良いだろう。俺が実際に見せてやる。あれ、ハンマーにもなるんだぞ」


 エリィに与えた準宝剣【大剣ヴィクトリア】は片刃の巨大な両手剣だ。 

 その峰側には3つの細長い穴が空いている。鍔は独特で、刃と峰の方向に伸びているが先端が上に向かって反って、両端がそれぞれが三日月状になっており、分厚い金属が使われている。それはアダマンタイトに魔王の拳の骨を練って造った、レインの【月光】を除けば最も硬い。戦混ボブと同じ材質で出来ている。


「ほら、こう持てば巨大なハンマーだ」

「おお、大ボブ!! 格好良い!」


 刀身を峰側から持って逆さまにすれば、それだけで巨大なハンマーになる。英雄ヴィクトリアが大剣をその様な使い方をしたという記録はないが、きっとエリーには役に立つことがあるだろう。そんな風に考えて造った剣だったが、予想以上に喜ぶエリーを見ると、理由はともかく微笑ましい。


「この鍔の先端で突き刺して振り回すことも出来るな。骨に引っ掛ければ相手は逃げることも出来ない」

「な、なにやら怖い話をしてますね……。お久しぶりです、レインさん」


 サニィが出かけた後、新たに借りた大部屋にエリーの全ての武器を持ってきていた。そこで大剣の利用方法についてレインが力説していたわけだが、一人の少女が入ってくる。

 身長140cm程度。年齢は14歳程に見える。極淡い金髪で、ツリ目がちな瞳の色はワインレッド。エリーの母親であるアリスだ。余談ではあるが年齢は27歳。エリーゼ26世と同い年だ。

 彼女はとにかく働いていた。死の恐怖を紛らわすため、時間さえあれば何かをしている。もちろん女将や大将は心配するものの、やつれるわけでもないアリスを見ては、何も言えずに居た。そんな時に同じく呪いに罹っているレインが戻ってきたのならばと、少しだけ時間をかけて覚悟を決めると、ここにやってきたのだった。


「久しぶりだな、アリス。エリーは優秀だぞ。将来はオリヴィアと並んで世界最強だな」

「ははは、そうですか。それは良かったです。それに、王女様と縁が出来たこともとても嬉しいです。本当に何から何まで、ありがとうございます」

「気にするな。俺は自分の後継者が欲しいだけだ。それにアリス、もう少しの我慢だ。お前は母親としての責を果たせ」

「……もちろんです」


 レインが何を言っているのかアリスには理解出来なかったが、その瞳が絶望に満ちていない以上、きっと理由があるのだろうと思う。

 エリーは自身の母親だからか、アリスの考えは微細な所までは読み取れない。だからこそ、彼女はアリスが呪いに罹っていることを知らない。何となく常に何かに恐怖していることは分かっているものの、それから守り通すためにも強くなる。そんなことを強く願っていた。

 

「まずはお母さんを守るために。師匠の教え、やっともう少しで達成できるかも!」

「そうだな。それじゃ、早速訓練に行くか」


 そんな風に少しだけ無理に頑張って見せるエリーの背を見て、母親は涙を堪えながら仕事へと戻るのだった。

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