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雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第九章:英雄たち
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第百十話:幕間の伍

「ルー君、思ったんだけど、魔法で飛ぶことって出来ないのかな?」

「魔法で飛ぶ? まあ、いくつか方法はあるかもしれないけど、危ないぞ?」

「どうして?」

「マナが切れたら死ぬか大怪我だよ」

「あ、ああー。でも、出来るには出来るよね?ほらっ」


 霊峰の麓、サニィから教えを受け、随分と成長した二人の生徒はふと思いついたかの様にそんな話をする。

 人が空を飛ぶ、魔法なんていう超常現象を起こす彼らにとっても、普通の人達にとっても、それは夢の一部だった。

 今までそれを試そうとした者はいくらか居る。互い建物や崖から飛び降り、空を飛んで無傷で着地する。魔法を使えばそんなことは出来るだろう。イメージをすれば簡単だろう。マナの関係で長時間は出来ないものの、少しならば出来るだろう。

 そんな風に思って挑んだ者達は、すべからく失敗していた。

 鳥の様な翼を作れば飛べるだろうか? それは無理だ。鳥は最大限に軽量化されているのに対し、人間はそうではない。比率を人間大にしたところで、飛べるものではない。体重を軽くすれば? 紙飛行機を飛ばすのと同じように、上手くバランスが取れなければ難しい。

 では、空中から糸を吊り下げるイメージをすればどうか? それも無理だ。空中にある糸は一体何処に繋がっているのだろうか。星?月?それはどれ程の距離があるのか、今の時点では解明されていない。


 だから、魔法使いは空を飛べなかった。

 それらの現象を起こす為に、想像しうる限界を、保有するマナで補うことが不可能だったからだ。

 先程の翼の案では、10秒程も滑空すればマナ切れを起こし、錐揉みして墜落する。

 糸で吊るす案では、そもそもそれを現象として引き起こす為にはイメージに無理があり過ぎて発動すらしない。


 しかし、目の前の少女は浮き始めた。

 かつての好奇心旺盛な大人の魔法使い達を嘲笑うかの様に、地面からふわふわと。


「えーと、なんで浮けてるんだ?」

「え? だってルー君だって水玉浮かすでしょ?」

「は?……あ、確かに」

「それと一緒。思い通りに動けってだけだよ」

「いや、そんな簡単に出来たら苦労はしないよ」

「やってみてよ」


 エレナの話によれば、ただ自分を遠くから見て、魔法で操るイメージをするだけ。それだけだと言う。自分を浮かせるのではなく、他の物体を浮かせる様に。他の物体と同じ様に、手で持ち上げる様に。


「いや、無理だよ。自分を遠くから見るってなに? 幽体離脱でもするのか?」

「いやいや、自分を自分で持ち上げるだけだよー。足下に見えないマシュマロ出現、みたいな」

「は? 余計意味が分からない。分かるように言ってよ」

「全くルー君は頭良いのに頭固いよ」


 二人の魔法は対称的なものだった。ルークは考えに考えて、物理法則を重要視した所に、魔法というアシストを使ってその効果を増幅するのが基本。一方、エレナは余りあるイメージを魔法に乗せて具現化するのを得意としていた。言ってみれば、脳内がお花畑と言うわけだ。


「ふふ、飛行魔法ならわたしでもルー君に勝てるね。これ、意外とマナも使わないよ。自分を持ち上げてるだけだし。体重を軽くすればもっと簡単」


 そう言ってふわふわと漂うエレナに、負けず嫌いなルークは遂にキレた。


「くそっ! 僕がエレナに負けるなんて! 絶対に飛行魔法を完成させてやる!」


 それから数日、ルークは自分の部屋へと引きこもって考えた。

 そもそも、何故自分達はこの世界に立っているのだろうか。この世界は魔王が出現する以前、大気にマナが存在しなかった時代には平面だと考えられていた時代があったらしい。世界の果ては巨大な滝になっており、落ちたら帰ってこられない。そう考えられていたらしい。

 しかし、現在ではそんなことは簡単に否定されている。真っ直ぐ世界を進み続ければ、いずれ同じ所に戻ってくる。世界は球状なのだ。

 ならば、何故そんな球状の大地に人は立っていられるのだろうか。世界の反対にいる人は、何故落ちないのだろうか。

 そう考えれば、答えは簡単だった。


「殆ど全てのものは世界の中心に向かって引っ張られている? それなら、霊峰に登ると空気が薄くなるのも納得がいく。と言うことは……」


 そう気付き、その力を遮断するイメージをしてみた瞬間、突然吹き飛ばされそうな感覚がルークを襲い、慌てて魔法を解除する。


「……なんだ今の……」


 世界は回っている。それに気付くのはもう少し後になる。ルークは世界のあらゆる力を解除するイメージをしてしまい、吹き飛ばされそうになったことにも、まだ気付かない。

 分かったことは、世界に逆らうことはかなりヤバいと言うことだけだった。


「それなら、逆に世界の中心に発生する力を……えーと、重力とでもしておくかな。天井に重力を、とりあえずここの倍」


 ふわっ、がしゃーん「おぐっ」

 ふっ、どしゃーん「うぶっ」


 天井に叩きつけられるルーク。その衝撃で魔法は解除され、すぐさま床に叩きつけられる。床に散らかっていた物も全て同じように天井と床に叩きつけられ、部屋は大惨事となる。


「く……な、なんのこれしき……」


 ルークは恥ずかしかった。世界最高の魔法使いと言っても良いサニィに理論を教わったにも関わらず、世界最初の飛行魔法をイメージだけのエレナに奪われてしまったことが。挙句、出来ると思ったことが全く上手くいかない。何が天才か。

 サニィ先生に私を超えるかもね、なんて言われておいて、エレナにすら負けるとは……。


 そうして3ヶ月ほどの修行の後、ルークは遂に空を飛ぶ技術を身につけた。


「見てみろエレナ! 僕は空を飛ぶ魔法を開発したぞ!!」


 その名も【重力魔法】

 自分が思い描いた位置と自分自身の体に重力場を発生させ、自身を引っ張り飛行する。

 場合によってその反対の力、斥力を用いて自由自在に空を駆け巡る。

 鳥の様な飛行とは違うけれど、確実に飛行可能だ!


「どうだ!!」

「わー! すごーい!!」

「だろう!? 頑張った成果があったってもんだ」

「わたしは飛べたからなんだって思ってやめちゃったんだけど、ルー君はやっぱり凄いね!!」

「……へ? 今なんて?」


 飛んでる相手は落とせば良い。

 結局の所、戦いに於いてはそれが一番簡単であることにルークが気付いたのは、蔦の魔法でエレナに引っ張られてなす術なく地面に墜落してからのことだった。

 そう言えばサニィ先生も、飛んでるドラゴンは蔦で翼を絡めとってしまえば落ちると言っていた……。

 そんなことも思い出したものの、ルークは独自に編み出した重力魔法の研究に、これから没頭していくのだった。

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