表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨の世界の終わりまで  作者: 七つ目の子
第二章:美少女魔法使いを育てる
11/601

第十一話:晴れ後雨の心模様

「今日も晴れですねー」

「そうだなー」


 次の日、サニィは昨日と全く同じことをしていた。とは言え、訓練の内容は少し違う。

 連続して開花させ続けることではなく、より広い範囲を咲かせるということに挑戦している。

 その結果、見た目的には全く同じことが起きているだけだ。


 サニィは現在レインのアドバイス通り、周囲に咲かせるのではなく前方に咲かせることにしている。と言うのも、周囲を開花させれば見えない範囲も開花させることになる。それよりは見える範囲だけを大きく開花させれば効果範囲は広がるだろうと言うのがレインの案だった。

 そして結果的に、それは成功だった。

 花を咲かせる範囲は少しずつではあるが広がって行き、もう一度使うまでに自分から会話する余裕すら生まれてきたのだ。


 人間のイメージと言うものは完全ではない。

 見えていない所をイメージしようとするという事は、無から何かを生み出す事に近しい。実際には見える範囲からの想定や、チラッと見た記憶などからおおよそを引き出すことが出来る。それは魔法事象を起こせる程度の正確さではあるのだが、やはり完全ではないのでロスが生まれる。

 目で見えている現実すら100%でないのであれば、記憶や想像のみではそこからどの程度ロスするのだろうか。

 ただ立方体を立方体だと認識出来る。それは魔法事象を起こせる程度には正確であると言うだけで、それが100cm角なのか101cm角なのかは分かっていない。よって、その立方体に花を咲かせることは出来るが、どの程度の密度になるのかはイメージのみとなる。

 しかし、実際に目にしている範囲に咲かせるのであれば、あの部分は少し密度を濃くしたいな、薄くしたいな、そう言ったことを目視と重ねてイメージ出来るのだ。


 魔法はイメージが重要。しかしそれは想像のみが重要と言うわけではない。

 見える分イメージのロスは減り、サニィの魔法の蛇口はより大きく開くことになった。


「なんでそんなことが分かったんですか?」

「これは勇者の力だな。俺の勇者の力ってのは少し特殊なもので、簡単に言えば相手の隙が見える。だから、お前のイメージが前方に比べて横方面、更には後方が曖昧だと言うことが分かっていた」

「最初に見せた時からですか?」

「ああ、魔法は正確なイメージが必要だとは聞いていたが、それにしては随分と寛容なものだなと思ったんだ」


「あの、詳しく」そう聞こうとした所でそろそろ魔法を使うタイミングが来てしまった。

 レインも「後でな」とジェスチャーをし、サニィの集中を促す。


 そして20km程歩き、遂に巨木の森を抜ける頃、サニィの魔法の出力は15%程も増していた。

 

「どうだ? 限界は感じるか?」

「いえ、まだ伸びそうです。と言うより、まだまだな感じがします。お父さんお母さんが見たらこれでも驚きでしょうけど」

「なるほど。やっぱりお前の中の両親への尊敬は枷になってしまっているかもな。まあそれは良いだろう。ただ、アレだ、なんと言うか、俺をだな」

「倒すつもりで訓練します!」

「ああ、それで良い」


 苦笑しながらも頷くレインに勝利のポーズを見せるサニィ。

 その日はもう少しだけ進むことにした。すぐ近くに町があったからだ。

 再び歩き出した二人は、花の川を作りながら遂に町へと到達する。巨木の森から延々と続く青い花の川は、いつしか有名なパワースポットとなるのだが、それはまた別の話。


「宿は同じ部屋で良いか?」

「ま、だ、ダメです!」


 その日は出会ってから初めて、二人別々に寝ることになった。

 もちろんサニィは無一文になっていたので、レインの金で。


 ――。


 夕飯時になると、二人は近くの食堂で久しぶりにちゃんとした料理を食べる。

 サニィは料理ができないし、レインも余り凝ったものは作らない。と言うより、ここ数日はサニィに付きっ切りだったので、余り凝ることもできなかったのだが。

 

「ご馳走様です」サニィは会計を済ませる前にレインに言う。

「早いな……。どっちにしろ一緒に旅をするんだから気にしても仕方がないが」

「いやー美味しかったです」


 サニィはそう告げる。

 しかし、少女にはその日の料理は余り印象に残らなかった。

 思い出していたのは母親の料理、そして、何度も死んだ後に出された素っ気ない食事。

 彼女にとっての至高の料理は、その二つ。


 そんなことを思いながら、その日彼女は一人で泣いた。

 一人部屋をとったのは、それが理由。

 もはや戻らない家族を思いながら、もはや残り少なくなった命を考えながら、余りにも強いパートナーに並びたいと、そう決心する為に。

 

 残り【1817→1816日】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ