(5)光の神子の結婚~史上最大の結婚式~
あれから2年…
長くもあり、短くもあったこの2年。私にしてみたら、アッというまの2年間だった。
12歳で、ここテラフォーリアに流されてしまった私も、今では14歳になった。日本の法律では、まだまだ結婚などできる年齢ではないのだが、ここテラフォーリアでは少し事情が違ってくる。
この星には、数多の種族が雑多に存在し、それぞれの種族によって結婚する…、というか、大人と呼ばれる成人年齢になるのが違う。一番成人するのが早い種族では、なんと5歳になれば成人したことになり、最も遅い種族では、100歳前後となる。そのため、法律などで『〇〇歳になったら結婚してもいいよ』などと明文化することができないため、仕方なく、『経済的に自立できれば、結婚してもよい』となっているのだ。
長々とした前口上に、お付き合いをしていただいてありがとうございます。
ヒカリ=フレクシア=イマミヤといいます。
テラフォーリアに引き込まれてから2年の月日が経ちました。
月日が経つのは、本当に早いですね。
物心がつく前から、ずっと私の隣にいてくれたタケシ。
タケシに、恋心を抱きだしたのは、何時の頃からだったのだろうか?気が付いた時には、視界の端っこにとらえていないと気持ちが落ち着かなくなっていた。時折目があえば、真っ赤になって俯いてしまう事だってあった。遊びと称して、タケシといちゃついたこともある。
しかし、地球での私たち2人の関係は、『主人と従者』という関係。おじいさまやお父様などの私の直径の家族は、私の隠しきれていない恋心を理解してくれていた。そのため、いろいろと骨を折ってくれていたりもしたが、お固い考えに捕らわれている親族やその他諸々が、なかなか首を縦に振ってくれなかったらしい。
そして、あの事件で、ここテラフォーリアに飛ばされる。
テラフォーリアに流れ着いてからの私は、大きく人生が変わってしまった。
一緒に流されたクラスの仲間とは、半分近く仲たがいしてしまい、別々に行動をすることになる。
ここテラフォーリアは、魔物がいて、モンスターがいて、エルフなどの亜人種や獣人種がいるファンタジー小説そのままの世界。まだ見ていないのは魔族と魔王くらいなものか?いるのかどうかわからないが…。
当然魔法だって存在している。初めてたどり着いた街、カランで、一冊の魔導書を買い、読んだだけで魔法が使えた時はすごくうれしくなった。それからしばらくは、王道の冒険者生活を堪能した。初日から大金を手に入れ、側近で家を購入してしまったが。
そして、その年の暮れ、年越しを皆で祝おうと、この町のシンボルである光の大神殿に、仲間とともに赴いた。その際、どこか別空間に引き込まれ、あれよあれよという間に『光の神子』と呼ばれる、『光龍神フレクシア』の化身にて代弁者たる地位を手に入れてしまう。私の仲間だったタケシ、リョウコ、サトミさん、マナミ、ケンジもそれぞれ、『闇龍神ダークネス』・『天龍神シルフィード』・『水龍神ウンディーネ』・『火龍神イフリート』・『地龍神ノーム』の神子となり現在に至る。
そして、つい先日、私の弟子であるメーリア発案のもと始まった私の誕生日会の席で、タケシからプロポーズをしてもらった。
長年の夢がかなった瞬間である。
もちろん、速攻で承諾しましたとも。
そして今日、7月8日。
私はいよいよ、タケシのお嫁さんになる日がやってきた。
いま私は、光の大神殿の中にある『光の神子の屋敷』と呼ばれる建物の自室の中で、真っ白なウエディングドレスに身を包んでいる。
私が今身に纏っているウエディングドレスは、カランに店を構える有名服飾店の「オートクチュル」のオーナーが、自ら仕立てた特注品のウエディングドレスだ。
真っ白な『スパイダークラブ』の糸で織られた生地には、細かな刺繍が白の絹糸で所狭しと施され、光に反射してドレスを引き立てている。背中から床に長く伸びるトレーンには、金糸と銀糸で絡み合う2匹の龍が天に上るように刺繍されている。これは、カランの守護神であり、私を守護する『光龍神フレクシア』を金糸で、結婚相手でであるタケシを守護する『黒龍神ダークネス』を銀糸で模したものだ。
身に纏うすべての小物はスパイダークラブの糸で織られており、手袋や下着に至るまで、この日のために作られた特注品だ。これらすべてが、オートクチュルから私にプレゼントされたものである。
トレーンの裾を持つ4色のドレス姿の4人の女の子たちは、この日のために、カラン中の5歳の女の子の中からから選ばれた女の子たち。この抽選には、カランに住む5歳の女の子全員が参加したらしい。貴族だろうが平民だろうが関係なく、私自らが抽選をした。女の子が纏っているドレスもスパイダークラブの糸で織られたドレスであり、色は緑青赤黄の各魔法の属性を現した色。もちろん特注品であり、ヒカリのドレス同様、オートクチュルの工房が1つ1つ掛けた。
ドレスを引き立てる宝飾品も、カラン一の宝飾店「カマンドール」が、私のためにプレゼントしされたもの。黄金に輝くティアラには、小さいながらも色とりどりの宝石で彩られている。耳飾りや胸飾り、腰まで伸びる長い黒髪に映える髪飾りは、どれも控えめながらも豪華な輝きを放ち、それを身に纏う私を引き立てている。
私やトレーンの裾を持つ女の子たちが履く靴は、白牛を呼ばれる白く光沢の皮を持つ魔物から採られ、カラン一の靴職人が、この日のために制作したものだ。もちろん、私にプレゼントされた。白牛の肉は、結婚式の後にカラン城で行われる晩餐会に出される予定である。
控室で、サトミと話していた私が申し訳なさそうに言った。
「サトミさんの時は、身内のみのささやかなパーティーだけだったのに、私の時は、こんなに派手になってしまったのが、少し申し訳ないです。まさか、神殿と領主様が主催してくれるなどとは、夢にも思っていなかった。」
「ヒカリちゃん、私は籍だけ入れるだけでもいいと思っていたのに、ヒカリちゃんたちが、バーガルの別荘で、パーティーまで開いてくれたのがとても嬉しかったんだよ。その時、結婚式の真似事までしてくれて。
それに今日のヒカリちゃん、とてもきれいだよ。それに今日は、ヒカリちゃんが主役なんだから、胸を張っていかなくちゃダメ。」
「きれいっていても、このドレスも装飾品も、すべてプレゼントされたものだよ。それにサトミさんやリョウコにマナミ、それから、お城の晩餐会で着る私のドレスも、装飾品もすべて、オートクチュルとカマンドールからのプレゼントで1テラも払っていないのが申し訳なくて…。」
「2つのお店のオーナーが言っていたじゃない。『光の神子』であるヒカリちゃんをもてなすのは、カランで商売する者にとっては当然の義務だと。我々は、たまたまドレスと装飾品扱っていたから、プレゼントしたまで。他の神子様の服も、我々が用意するのは、町の同業者からの依頼だと。食料品を扱っていれば、食材を提供しているのだと。
ヒカリちゃんは、ここカランでは、すでに有名人で誰よりも大切にしないといけない存在なんだから、こんな事で渋い顔をしたら、町のみんなに顔向けできないよ。私だって、この後ダーカルに行けば、ヒカリちゃんのように、特別扱いされるんだから。」
サトミは、気にしたら負けだと言うかのように、ヒカリを励ました。
「そうだね。町のみんなの好意なんだから、ありがたく受け取っておかないと、…だめだね。それに、年末年始の時に、神子関連の行事では、開き直ると心に決めたんだから!」
「そう、この心意気。私ももう開き直っているんだから。」
「ヒカリ様、サトミ様。そろそろ式の時間ですので、最終の準備をお願いします。」
城から派遣されている侍女さんが、式の時間を教えてくれた。ヒカリは、侍女に手伝ってもらいながら、最終準備をする。そして、侍女にエスコートされながら、サトミとともに控室を後にした。
大聖堂に続く大きな扉の前で、私は、おじいさまである鳥尾先生と対峙していた。
「お久しぶりですね、おじいさま。
わざわざ、ロンドリアか来ていただきありがとうございます。
光の祭典が始まった初日からずっと、カランにいたことは知っておりましたが、いろいろと忙しく、あいさつができなかったことをお詫びします。」
「なに、別に構わんよ。カランまでは、転移門できたから一瞬だしな。
ヒカリちゃんも光の神子としての職務、ご苦労だったな。
それに、テラフォーリアに来てからは、ヒカリちゃんたちは、ワシの孫みたいな存在じゃ。こちらに来てからのワシの夢をヒカリちゃんは叶えてくれている。それだけで十分じゃ。
ほら、タケシ君が、首を長くして待っておるぞい。そろそろ行こうか。」
「はい、おじいさま。」
顔をシルク製の薄いベールに包まれ、タケシの元へと進む私。式が始まる鐘が鳴り響く中、私は、おじいさまと腕を組んで、大聖堂の花道に敷かれた赤絨毯の上を、優雅にゆっくりと進んでいく。私の後ろには、トレーンの裾を持つ4色のドレス姿の4人の女の子たちが、トレーンに描かれた2匹の龍神の姿を見せるように大きくトレーンを広げながら歩いている。
祭壇の前でヒカリを待つタケシは、漆黒のタキシードに身を包んでいる。私が、光の保護色である白に身を包んでいるのに対して、タケシは、闇の保護色である黒に身を包んでいるだけである。
しかし、コロラド王国では、この先結婚式の衣装が、男性が漆黒の黒色、女性が純白の白色の衣装に身を纏うようになる。またこの挙式より後、各大神殿、とりわけカランの光の大神殿は、結婚式を行うのに数か月待ちとなる人気の式場になる。『光の神子』が結婚式をした大神殿なので、自分たちもその威光にあやかりたいと思う者が後を絶たないからだ。特に今日この日を選ぼうとすると、とてつもない倍率になる。また、私が暇なときは、結婚式を行う祭司をすることもある。
お爺様からタケシにヒカリの右手が手渡され、タケシの引率の下、祭壇の下の壇上へと上がっていく。夢にまで見た結婚式が今、厳かに執り行わられていく。
「本日は、顕現なされている光龍様と黒龍様の下に『光の神子』ヒカリ=フレクシア=イマミヤ、『闇の神子』タケシ=ダークネス=タケシロの結婚の儀を執り行われた事を誇りに思う。…」
結婚式は、大神官による聖書の朗読で幕を開けた。そういえば、半年間神殿に出入りしたいますが、聖書なんてものは初めて見ました。こちらの世界にもあったんですね!
おっと、意識が別の場所に飛んでいました。今は、式に集中です。大事な結婚式です。大切な思い出として、しっかりと刻み付けておかないといけません。
「それではこれより、光龍様と黒龍様の御前において、双方誓いの言葉を宣言してもらう。」
聖書の朗読の後、誓いの儀に入っていく。
「汝、『闇の神子』タケシ=ダークネス=タケシロ。」
「はい。」
「汝は、光満たされる時も、闇満たされる時も、傍らに立つ女性と永遠に過ごしていく事をここに誓うか?」
「はい。私、『闇の神子』タケシ=ダークネス=タケシロは、光満たされる時も、闇満たされる時も、傍らに立つ『光の神子』ヒカリ=フレクシア=イマミヤを最愛の妻とし、永遠に過ごしていく事を光龍様黒龍の御前に誓います。」
「続いて汝、『光の神子』ヒカリ=フレクシア=イマミヤ。」
「はい。」
「汝は、光満たされる時も、闇満たされる時も、傍らに立つ男性と永遠に過ごしていく事をここに誓うか?」
「はい。私、『光の神子』ヒカリ=フレクシア=イマミヤは、光満たされる時も、闇満たされる時も、傍らに立つ『闇の神子』タケシ=ダークネス=タケシロを最愛の夫とし、永遠に過ごしていく事を光龍と黒龍の御前に誓います。」
「汝らに訊く。今、光龍様と黒龍様の御前で誓った言葉を、永遠に守る事を再び誓うか?」
「「はい、誓います。」」
「それでは、誓いの証として、神々の御前の前で誓いの口づけを。」
タケシと私は互いに向き合う。タケシは私のベールを取り、私の肩に両手を回して抱きしめると、ゆっくりと唇を合わせた。長く短い接吻が終わると、大神官が式の終了を宣言した。
「この瞬間をもって、二人は永遠に結ばれた。光と闇が、今日この場で一つになるという事実、世界を昼の夜もなく、あまねく照らして下さる神子様を迎え、ますますの発展を願い結婚の儀を終了する。」
光の大神殿の外では、正装した騎士団が護衛する馬車が止まっており、その中で一番豪華な馬車に私とタケシが乗り込んだ。その後ろの馬車には、サトミさんたち神子が乗り込み、その後ろに、大神官が乗る馬車が続く。その後ろにサギミヤ商会の面々と、来賓の乗る馬車が十数台続いていた。
馬車が民衆の間を、ゆっくりとした速度で進んでいく。私は、通りにあふれる民衆に向けて軽く手を振りながらカラン城に向かっていった
私の膝の上には、2匹の猫が寄り添って転寝をしている。1匹は白猫で、光龍本人であるフレア。もう1匹は黒猫で、黒龍本人であるムーンベルト。
光龍と黒龍が、顕現している時には白猫と黒猫の姿をしていることが多いため、カランでは、白猫が光龍の化身であり、黒猫が黒龍の化身であるという事になり、各家庭で2匹セットで飼われていることが多くなったと聞いている。
あとは、カラン城で行われる結婚披露戦を残すのみだ。




