(4)ヒカリの特訓④~初遠征は危険がいっぱい~
今日から始まった、私の弟子たちの遠征訓練。
私たち10人は、『徒歩で移動している巡礼者の護衛』という名目のもと、精神と〇の部屋にある白亜のお城の前の広場から2~3日歩いた場所にある湖の畔まで行き、そこで1泊して再び広場に戻ってくるというコースです。
おはようございます。ここで挨拶をするのは初めてですね。アイリーン=ペンタフェンスといいます。
遠征訓練をするにあたり、ヒカリちゃんからこう言われました。
「今回の遠征訓練では、私を含めた7人と先生方3人は一切口をはさみません。訓練の名目である、『徒歩で移動している巡礼者』役に徹しますので、私たちの行動を含めてすべてあなたたちで決めてください。
ちなみに私たちの魔法の腕前は、基本の4属性は何とか使用できる程度です。」
これにより護衛対象は、ヒカリちゃん、メーリアちゃん、テレサちゃん、リョウコちゃん、マナミちゃん、コトリちゃん、コウタ君。後、学園の実習担当のアルフレド先生、ケミイラ先生、カイベール先生の合計10人です。対して護衛側は、私ことアイリーン、イグリートカーヤ、キーニャ、スミレ、トラバーユ、ナンシーベル、ヘレン、モニカ、ライマール、ルクシードの10人。現在の哨戒担当は、イグである。魔力気配探知を使っての哨戒は、全員で行うと魔力同士が干渉してしまうため、1人ずつ時間を決めて回すようにしている。後の9人は、訓練の一環で、感覚気配探知を使って鍛えている。
結界を出て1時間。今のところ魔力気配探知や、感覚気配探知には、魔物やモンスターの気配は探知されていない。だが目の前には、全国の豪雨でできた幅500メートルほどの濁った川が流れている。川底が濁った水で見ることが出来ず、何処が浅くてどこが深いのかも判らない。流れも速く、水棲の魔物が潜んでいる可能性もある。
川の先を見れば、幾筋もの流れが網の目のように出来上がっており、どの流れも数百メートルの幅があった。
ヒカリちゃんたちをちらりと横目で見てみれば、ヒカリちゃんたち10人は、高みの見物と決め込んでいた。たぶん渡河する方法など、腐るほど持ち合わせているのだろう。
さて、どうやってここを渡河しましょう。
現在の私たちの服装は、学園指定の実習着である男子は体操着の半袖と短パン、女子は体操着の半袖とブルマだ。ついさっきまでは、学園指定の長袖のジャージを羽織っていたのだが、天候が回復し、少し蒸し暑くなってきているので、現在はこの格好に収まっている。ジャージの長ズボンは、そもそも学園での実習着として指定されていないので、私たちは全員持ってもいない。
別に、精神と〇の部屋の中での訓練では、どんな服装でも構わないのだが(ヒカリちゃんも、服装は自由にしていいと言っている)、何故かこの格好に落ち着いてしまっている。どんな服装でも、訓練が終わった後に清浄で新品同様にきれいにできるのだが。だから、学園の制服であるセーラー服でもいいのだが、気分的に受け付けないのだ。現に今度の武術大会では、私たち1年生はともかく、2年生以上は制服で行うことになっている。
まあ、今の服装の事はどうでもいいのだが。
今さしあたっての問題は、どうやってここを渡河するかということだ。1つの流れを渡り切っても、対岸?に当たる場所は20キロほど先だ。泥水に浸かりながら、20キロも歩きたくないのが本音である。さらに言えば、私たちだけならばともかく、護衛対象までも泥水に浸かってもらうのは、やはり憚られる行為だと私は思っている。私が護衛対象ならば、御免蒙りたいところである。
瞬間転移で対岸へと渡ってもいいのだが、この大河?は、これから先もここに存在し続けると思う。ならば、これから先もここに存在す続けるだろう。
「どうやって渡る?これ?」
「手っ取り早く『瞬間転移』でいいんじゃない?イチイチ橋なんか架けていたら時間と魔力の無駄よ。」
キーニャちゃんの問いかけに、ナンシーちゃんが即答します。ナンシーちゃんとは、『ナンシーベル』の略称で、イグ君と同じ理由で名前が少し長いため呼びやすくしたものです。それに対し私は、
「今回は護衛対象が10人もいるから、1回1回空間を渡る『瞬間転移』よりも、設置型の『転移門』の方がいいでしょう。」
「でも、この中で『転移門』を使える人って、いるの?」
根本的な問題を、スミレちゃんが聞きました。
私は、今までヒカリちゃんが言っていたことを思いだします。
ヒカリちゃんは、確かこんなことを言っていました。
「魔法とは、どんなに取り繕ってみたところで、結局は『イメージ』がすべてです。その魔法を使える実力があれば、あとは『どういう魔法を使いたいのか』、『どんな効果を魔法で創り出したいのか』。それを、どこまで『詳細にイメージ』出来るのかがすべてです。
『詠唱』とは、術者の思い浮かべた『イメージ』を『より明確化』させるために唱えるだけにすぎません。言ってしまえば、『詠唱』をするということは、それだけ術者が未熟だということですね。」
ヒカリちゃんが言っていたこのことを頭の片隅に置きながら、私は対岸に狙いを定めて魔法をイメージします。
霞むほど遠い対岸には、無詠唱で発動した『遠見』でしっかりと確認し、対象先を詳細にイメージします。
そして、しっかりとイメージした後私は一言、
「転移門」
と唱えます。
私の目の前には、2メートル四方の黒い空間が表れています。遠見で対岸を見てみれば、同じものが対岸にもあることが確認できました。どうも成功しているみたいですね。
「アイリーンちゃん、これはなに?さっき呟いた言葉は、『転移門』と聞こえたんだけど。」
たまたま私の隣にいたキーニャちゃんが確認してきました。
「そうよ。これは『転移門』そのものよ。対岸を見てみれば解るけれど、これと同じものがあるはずよ。私はさっき確認したわ。
さてお嬢様方、私が用意したこちらの転移門を使って、対岸まで一気に進みましょう。」
対岸に一気に飛んでからは、魔力気配探知の役割が、イグからキーニャに変わります。その後は、数時間おきに魔力気配探知の役割に役割を入れ替えながら湖に向けて歩きます。
鬱蒼と茂る森の入り口で、西?の地平線近く場で沈む太陽を見て、今日の野営地を決めます。今日の野営地は、森に少し入った場所にある少し開けた空間です。手早く野営の準備を終えた頃には、外は真っ暗になっています。
私にとっては初めての野営です。それは、ほかの9人にとっても同じ事で…。
それを知っているヒカリちゃんは、今の時間帯だけは『護衛の任務』という名目はいったん解除され、『子弟関係』に戻っています。今回ヒカリちゃんは、野営の心構えをアルフレド先生に一任しています。
そして、夜寝番が始まりました。
まずは、私とイグ、2人と、講師役としてヒカリちゃんとメーリアちゃん、アルフレド先生がつきます。夜寝番は、夜の間を2回に分けて行われます。後半戦は、キーニャちゃんとスミレちゃん、テレサちゃん、リョウコちゃん、ケミイラ先生となります。
今日の担当者は、明日の夜寝番は免除となります。先生については、3人で回って言いますが…。
「それでは、前半の魔力気配探知の役は、アイリーンが、後半はイグが担当ね。」
「はい。」
「では、はじめましょう。」
それから1時間後、森の中の雰囲気が少し変な感じになりました。ヒカリちゃんとメーリアちゃんは、辺りをきょろきょろと伺った後、
「…何か、いるわね。」
「…そうだね、ヒカリちゃん。」
「…そうだな。アイリーン、何がいるか解るか?」
ヒカリちゃんとメーリアちゃん、アルフレド先生は、『どの方向』に『何がいるのか』が解っているかのようです。私とイグは、気配を敏感い研ぎ澄まして周りを確認しました。
「…こっちの方角ですね。…数は10匹。…この気配はであったことがないので、私には個体名までは分かりませんが、…10メートルクラスの魔物ですね。」
「正解。正確には、『陸王亀』という巨大な甲羅を持つ亀の魔物ね。大きさの平均は、甲羅の部分で全長約10メートル、全幅約8メートル、高さ約15メートル、首と尻尾を伸ばした時の全長が約20メートルね。巨大なものになると、この5倍くらいの大きさのものも確認されているらしいけれど、私はまだ見たことはないわね。ちなみに、討伐ランクはSよ。今回だ、団体さんでお見えになっているようだけれど、基本は単体で行動する魔物ね。
アイリーンにイグ、これからの行動指針はどうするの?」
「…。そうですね。相手は、Sランクの魔物です。1匹ならば、今起きているメンバーだけでもなんとかなると思いますが、10匹もいるとなると無理がありあります。
このまま瞬間転移で逃げてもいいかもしれませんが、帰りの事を考えると、ここで倒しておいたほうがいいかもしれません。あとは、素材という観点からも、臨時収入があるから倒しておきたいです。
これらを考えると、寝ている人たちを起こして討伐してしまいましょう。」
「では、全員起こしてきますので、アイリーンとイグは、討伐する段取りをしておいてください。アルフレド先生は、2人のサポートをお願いします。」
「わかった。」
こうして、10匹の陸王亀の討伐が行われた。2人1組(アイリーンたち10人が主体)で1匹を担当する形で行われた討伐は、アイリーンたちにとってはちょうどいい戦闘訓練となり、
おいしいい経験値を稼ぐ結果となる。
その後は、森の中で、AランクからSランクの魔物に1日2回はエンカウントし、その都度討伐を繰り返していった。
討伐後は、ギルドに持ち込んで換金してもらったことは言うまでもない。
陸王亀ほか、数十種の討伐によって、アイリーンたち10人のギルドランクが、一気にSランクに跳ね上がった。




