(3)ヒカリの特訓③~初遠征の前に『探査魔法』を覚えましょう~
先生たちに、私たちの実力を見せてから遠征のための準備で一旦外の世界に出てから約2時間後。再び、精神と〇の部屋にあるいつもの広場に、私たち17人と、アルフレド先生、ケミイラ先生、カイベール先生の3人が集まった。これから広場を囲む結界の外に遠征に向かうのだ。
現在、部屋の中の時刻は、午前4時を少しまわったところです。たまたま、外の世界から戻ってきたらこの時刻だっただけで、これと言って狙ってみたわけではない。
外はまだ薄暗く、いつから降り出していたのかは知らないが、結構強めの雨が降っている。結構降り続いていたのか、広場がある高台の下の荒野は、あちらこちらに幾筋もの川が出来上がっていた。
遠くの地平線には、雲の隙間から疑似太陽が昇り始めているのが見て取れるので、この雨もあと数時間でやむと思われる。
お気づきの方もいると思うが、現在この部屋の中は、外の世界に近づくようにいろいろと改造されつつある。
疑似太陽もその1つだ。
「白い空と黒い空では味気ない」と、アイリーンがぼやいていたのをたまたま聞いていて、それならばとつい先日創ったのだ。今では、この中でも日の出と日没がある。
当然、太陽があるということは、空気の循環があり、その過程で生み出された雲により、雨の日だって当然存在するようになった。
また、悪戯心が擽られた結果、考えうるあらゆる自然現象を再現してみた。また、ランダムで気候が変化するように設定してあるため、いきなり真夏になったり真冬になったりする。前日までは、汗ばむほどの天候だったはずが、朝起きたら数メートルの雪が積もっている事もあるのだ。
天変地異は、起こると少しまずいので、というか、この中で私たちが暴れるだけで、天変地異のようなことが平然と起こっているので、いちいち設定する必要はないだろう。
こんな感じで、中にいるであろう冒険者たちは、いきなり日の出や日没があったり、突然降りだす雨などに戸惑っている事だろうが、私にはあまり関係がないことなので割愛しておこう。
閑話休題
冒頭で話した通り、現在外の気候は豪雨。遠くのほうでは稲妻が地を穿ち、轟音となって辺りを白く照らしている。一応東に設定した地平線上では、疑似太陽が昇り始めている。
気候の事は別にいいのだが、今日からの遠征の服装として定めた男子は半袖短パン、女子は半袖ブルマでは少し肌寒く感じる。ここにいる全員が、学園指定のジャージを着こんでいるため、全員が感じているみたいだ。
何故だか知らないが、学園で実技の時間に着るジャージには長ズボンは存在していない。そのため、今の私たちの恰好は、長袖のジャージに半袖の体操着、男子は短パンで女子はブルマという格好だ。
これから危険地帯へと足を踏み入れるのに、傘や合羽といった所謂雨具は、行動の邪魔になるだけなので当然身に着けていない。全員がずぶ濡れなので別に構わないだろう。
これから約1週間、屋根と壁にない場所で暮らすため、大量の食料や日用雑貨などを用意している。しかし、私たちの周りには、そのようなものは一切ない。
3人の先生を除き、ここにいる全員が、空間収納魔法『空間収納』を使うことができるので、皆自身の空間収納にそれぞれの荷物を格納してあるのだ。先生方には、ストレージアルスライムの布袋を貸し出してあるので、やはり手ぶらである。
おはようございます。ヒカリ=サギミヤです。
先生たちの前で行った、総当たり戦による乱取りで、皆の実力が結界の外に出ても大丈夫なまでに上がっていました。よって、今日からは、結界の外に出て訓練をしていこうと思っています。
弟子たちの前で私は、とある訓示をします。
「今日からは、広場を囲む結界の外で、訓練をしていこうと思っています。結界の外には、安全領域は存在しません。
そこで、みなさんには、数種類の『気配探知』という魔法を覚えてもらいます。
気配探知には大きく分けて、『魔法気配探知』・『魔力気配探知』・『感覚気配探知』・『魔導具による気配探知』の4つがあります。
1つ目の『魔法気配探知』は、無属性魔法の1つで、動物や魔物、モンスターですら出来る個体があるほど簡単なものです。魔力の塊を放出して、反射して戻って来るまでの時間差と戻ってきた量で、敵や対象物の距離と大きさを知ることが出来ます。ただ大きさと距離がわかるだけなので、敵の強さなどのステータス的なものを知ることはできません。
この方式の気配探知は、少しの訓練で誰にでも使えることが出来ますが、どうしても魔力の塊を放出するため、敵にも自身の存在を伝える結果になり、余計な警戒を招くことにもなります。また、術者の熟練度に応じて、撃ち出す魔力が大きく変化します。
私的には、2つ目の『魔力気配探知』を習得するための前段階みたいなものと捉えています。
2つ目の『魔力気配探知』は、魔力の塊を放出することは変わらないのですが、その方法が『魔法気配探知』とは大きく違います。魔法気配探知は、魔力の塊を撃ち出して帰ってきた反応で相手を見つけますが、魔力気配探知は、薄く広範囲に常時展開している魔力に、相手が接触した時に起こる波紋のような反応で、相手を見つけ出します。一度相対した相手ならば、魔力の波形を覚えていれば、何が接触したのかも『視ること』が出来ます。
魔力気配探知は、使用する場所によって、風属性と水属性、それと地属性の3つの方法に分かれています。地面の上にいる時は風と地の属性、水の上にいる時は風と水の属性、水の中ならば水属性だけをと使い分けます。
3つ目の『感覚気配探知』は、所謂『第6感』に頼る方法です。『何かが近くにいる』とか、『後ろから敵意を感じる』とかいう『感覚』的なものです。これが出来るのと出来ないのとでは、戦闘時における生存率に大きくかかわってきます。達人の域に達している者ならば、一度でも相対したことのある相手ならば、相手までの距離や大きさのほか、『何が近づいてきているか』まで解るみたいです。
『感覚を鍛える修行』が必要なため、短時間で習得することは不可能ですね。今のあなたたちならば、ある程度は形になっていると思います。
4つ目の『魔導具による気配探知』は、道具を使った探査のため、魔導具が故障すればお手上げ状態になるため、私的にはおすすめはできません。魔導具による探査の基本は、1つ目の『魔法気配探知』と同じ原理を使用しています。
あちこちの商会や魔導具店の店頭に並んでいますが、どれもこれも今1つといったものです。
魔法の蘊蓄はここまでにしておいて、早速実践してみましょう。」
こうして、気配探知魔法を教える私。私に師事している弟子たちは、どうゆう訳か、一度やり方を教えると数時間である程度モノにしてしまう。今回もその例に漏れず、魔法の感覚に優れているアイリーンやイグなどは、教えて30分ほどでモノにしてしまった。一番苦労していたのは先生方だったというのは、本人も含めて少し笑ってしまった。
こうして、広場から出発する頃には雨もすっかりと上がっていた。
雨上がりの清々しい空気のもと、いよいよ結界の外へと繰り出していく。先刻の豪雨で、ずぶ濡れになっている服装は、清浄の魔法で今はすでに乾いている。今後は、濡れたり汚れたりする度にかけていく予定である。また、風邪をひかないように、濡れた直後には『治癒回復』をかけていく予定だ。
「では、いきましょう。」
「はい!よろしくお願いします。」
元気よく挨拶をしてくれるのはいいのだが、何に対して『よろしくお願い』されたのだろうか?私やメーリアなど、結界の外で活動してことがある7人は、今回はサポートに徹する予定で、大きな危険が迫ってこない限りは手出しはしないことになっている。目的地である湖までは、リーダーであるアイリーンを筆頭に、皆で考えて行動するように言ってあるからだ。
アイリーンは、先ほど行った気配探査魔法の訓練で、皆も魔力波が重なり合って変な干渉をしていたことを気づいていた。10人の中で、一番魔力を感知する能力に長けているみたいだ。そのため、リーダーであるアイリーンは、魔力気配探知を1人に限定して行っている。これも訓練だという事で、魔力気配探知をしていないものは、感覚気配探知で辺りを警戒するようにしている。
結界を出て1時間。今のところ魔力気配探知や、感覚気配探知には、魔物やモンスターの気配は探知されていない。だが目の前には、全国の豪雨でできた幅500メートルほどの濁った川が流れている。川底が濁った水で見ることが出来ず、何処が浅くてどこが深いのかも判らない。流れも速く、水棲の魔物が潜んでいる可能性もある。
川の先を見れば、幾筋もの流れが網の目のように出来上がっており、どの流れも数百メートルの幅があった。
さて、アイリーンは、どうやってここを渡河するのだろうか。
これは見ものだと私たち7人と先生3人は、高みの見物と決め込んでいた。
余談として。
私が弟子たちを呼び捨てにするようになったのは、それだけ信頼が出来上がっている証拠だ。お互いに何処か壁のようなものがあった頃は、それぞれが敬称を付けていたと思う。




