プロローグ~スキー研修に行ったら異世界に飛ばされました~
今日は、私たち鷺宮学園高等部2年生のスキー研修初日。学園では、3年に行うが以外修学旅行に次いで大きな行事の1つだ。
10台の隊列を組んだバスが、関越道を雪国新潟へと向けて走行している。隊列の長さは、車間距離も含めて約1キロにも及んでいる。当然その隊列の中には、同じ方面へと向かう普通車や観光バス、トラックなどが交じっている。
長い関越トンネルを抜ければ、そこはもう雪国。
「光莉!今日からのスキー研修、楽しみだね。私、昨日の晩はあまり眠れなかった!」
少し前まで惰眠を貪っていた隣の席の少女が、光莉と呼ばれた少女に声をかける。
「…、うん。そうだね、寿李、この関越トンネルを抜ければ、すぐに目的地のスキー場のある越後湯沢だね。寿李は、スキーはどんな腕前なの?」
光莉と呼ばれた少女は、窓の外を流れるトンネルの黄色い照明をぼんやりと眺めながら、友人である寿李と話していた。
「いいなあ、光莉は、スキーの腕前も指導者レベルだから。私なんか、スキーの腕前は、初心者に毛が生えたもんだよ。スケートなら4回転半まで行けるんだけどなぁ~。」
ケタケタと笑いながら、寿李は、ポッ〇ーを齧りながら光莉に話しかけている。光莉も、相槌を打ちながら、寿李からポッ〇ーを貰いつつ、スキー研修の話題で盛り上がっていた。
その時、バスが大きく揺れた。出口まで続くトンネルの黄色い光が消え、排気ガスで灰色になったトンネルの壁が、突然漆黒の闇へと変わる。バスは漆黒の闇の中を、何かに引き寄せられるように進んでいく。
そして今度は、窓の外の景色が突然真っ赤に染まり、不意に高温の熱気がバスの中を襲った。
トンネルを超えれば雪国…のはずが、抜けた先にはどこまでも続く草原が広がっている。
舗装された道路から、いきなり未舗装のデコボコ道、いや、道路ですらない大地にタイヤを取られ、バスは、右に左に大きく蛇行運転を繰り返していく。光莉は、突然襲ってきた大きな揺れに、躰を持っていかれないように、目の前の手すりにしっかりとつかまり、衝撃姿勢を無意識に取っていた。衝撃姿勢を無意識に取れた者たちは、大きな怪我もなく無事だったが、そうでない者は、大きくバウンドするバスに体を持っていかれ大変なことになっている。
不意に大地の段差を飛び越えたバスは、大きくバウンドしながら大地を駆け抜けていった。幸いにもバスは、横転することなく大地を走り抜けていく。バウンドした影響で、車内のありとあらゆる荷物が散乱し、乗客である光莉たちの頭上に降り注いでくる。阿鼻叫喚の地獄絵図と化したバスの車内。
大地にある何かにタイヤを取られたバスが、突然横滑りを始めて“長い斜面”を下りていき、横転する手前で大きな岩に側面をぶつけてやっと停車した。