(1)新たな旅立ちと、とある計画
「光莉、少し相談があるんだがいいか?」
卒業試験から2ケ月ほどが経った日の朝食後、猛が何か真剣な眼差しで、私に相談事を持ちかけてきました。
おはようございます。今宮光莉です。
季節は冬。
日本にいた頃は、あまり見れませんでしたが、屋敷の外は一面の銀世界です。数日前に降りはじめた雪が今日やっとやみ、雪かきは、今朝早く届いたギルドからの緊急指名依頼で、私と智美さんの2人でサクッと終らせてあります。
雪かきと言っても、ファンタジーな魔法が存在する世界。簡単でしたよ。有り余る魔力を使って、町中の通りに積っている雪をかき集めて、瞬間移動で何処かの山奥に捨ててきただけです。建物に積った雪までなくすと、風情がないのでそのままにしてあります。
ちなみに今日は、14446年12月10日です。あと20日ほどで、年越しらしいです。この辺は、地球とあまり変わっていませんね。月日が経つのは、本当に早いです。テラフォーリアに来た日が、14446年3月1日だったので、もう9ヶ月の月日が経っているんですね。
あっ!そう言えば、今日は、智美さんの26回目のお誕生日でしたね。本人も忘れているようなので、あとでサプライズとして祝ってあげましょう。ちなみに私の誕生日は、4月15日なのでとっくに過ぎ去っており、現在は13歳になっています。
閑話休題
何か神妙な面持ちの猛。その後ろには、聡久と仁美が控えています。基本私は、”元クラスメイト”の名前を呼ぶ時は、呼び捨てで呼んでいます。一蓮托生な今のパーティメンバーは、特にそうしています。皆も同じですので、呼び捨てに関しては、誰も文句が出てきていません。智美さんたち大人組に関しては、そうではありませんが。
「何ですか?猛。そんな神妙な顔した相談事とは。」
私は、食後の紅茶を啜りながら、猛の話を聞きます。
「実はよ。前々から考えていたんだが、俺と聡久、仁美の3人でパーティを組んで、世界中を旅しようと思うんだ。幸い、自分の身くらいは、自分で守れるだけの武力は身に付けたしな。あの卒業試験で、ここにいる俺たちは全員Sランクだ。大抵の事なら対処できるだけの腕もある。」
そんな事でしたか。もっと大切なお話だと思っていました。
「それはいい事ですね。自分自身のことです。よく考えての結論ならば、私が反対する理由はありません。私は、3人の計画を邪魔するつもりはありません。少し寂しくなりますが、…成功を祈っています。
でもなぜ、私の許可が必要なんでしょうか?普通ならば年上の…、そうですね。お爺ちゃんあたりに相談する内容だと思うにですが。」
「最初にじっちゃんの所に行ったんだが、『ヒカリちゃんの許可を得ておけよ』と言われてな。じっちゃんの意見は、『お前たち自身が決めた事なんだから、それは立派な進路』だと。」
「なんでみんなは、どんなことでも私に相談してくるのでしょうか?この中では、下から数えたほうが早い年齢なのに。」
「みんなという事は、光莉。まさかこの屋敷にいる”元2年1組”の生徒たち全員が、何らかの相談をお前にしたのか?」
「ええ、ここ2カ月の間に、様々な相談事をされました。」
何かどんよりとした空気になる光莉。仁美は、恐る恐るその相談事とやらを訊いてみる。
「光莉ちゃん、例えばどんな相談事を持ちかけられたのですか?」
「智美さんから”ある計画”に協力してほしいとか、隆行さんと真由美さんが結婚したいから、カランのどこでもいいので家を探してくれとか。結婚の話はともかく、家探しなんかは、本人がどうにかしてほしい問題です。いちいち私の相談しないでほしいです。
まあ、智美さんからの相談事は、私も興味があったので、私と智美さん合同の計画として、今団内輪で話を進めている最中ですが。」
そんな愚痴だか何だかを吐き捨てながら、仁美の問いに答える光莉。たしかに、結婚話が本当ならば、とても嬉しい事なのだが、そんな新居の相談までしていたとは。たしかに、自分たちで何とかしてほしい問題だ。
「それで、光莉ちゃんは、先生たちの新居の相談をどう捌いたの?」
「自分たちの”今後”よりも、そっちが大切ですか?」
「そりゃあ、も・ち・ろ・ん・だ・よ!光莉ちゃん。私たち”元2年1組のみんな”に、あの2人が交際していた事は周知の事実。誰かさんが結婚は秒読み事がクラス中に知れ渡り、どう祝おうかと隠れて相談していたのが異世界召喚の前。つい先日まで、誰かさんのおかげで、結構忙しかったからねえ、私たち。それがやっと終わって少し暇になってきたから、そろそろだとみんなと話していたではない!その席に、光莉ちゃんもいたはずだけど?
そ・れ・で!どうゆうふうに、相談事を解決したのかな?ひ・か・り・ち・ゃ・ん?」
何かに怯えるように、鬼気迫る仁美から離れるように立ち上がり、その場を離れようとする光莉。
何処から出てきたのか、すぐさま光莉を捕獲し、元の席に自らの膝に乗せて座る。そして、両手を光莉の前に降差し、完全拘束に成功する。
流れるような智美の行動で、完全に拘束される光莉であった。
「その話は初耳だね、光莉ちゃん。”最初から最後まで”く・わ・し・く、聞かせてくれないかな?」
光莉は、膝に座らされ完全拘束され逃げる機会を失った事はどうでもいいらしく、
「智美さん、どの話を詳しく聞きたいんですか?先生方の事ですか?それとも誕生日の事ですか?
そう言えば、今日は、智美さんの26回目の誕生にでしたね♡誕生日おめでとうございます!!今晩はお祝いなので、腕によりをかけて料理を作りますので、期待をしていてください。」
私は、膝の上に抱えられながら、智美さんを上目づかいで見ておどけてみる。智美さんは、誕生日のことを言われて少し唖然としていた。
「た、誕生日って何かな?光莉ちゃん。テラフォーリアと地球では、何もかも違うのよね。どうやって日付を特定したの?」
光莉の前で汲んでいる両腕に力を入れて、光莉を締め付けるような動作にでる智美。
「いたい!いたいです!智美さん。」
光莉は、唯一時自由に動かせる両腕で、智美の腕をパシパシと叩く。少し緩んだところで話を始める光莉。
「確かにテラフォーリアと地球では、1年の長さも1日の長さも違います。1日の長さについては、昔に来た天文学者さんたちが、強引に24時間にしたみたいですが…。
まあこの辺は、どうでもいい事です。
ここからが重要ですが、私たちが次元の狭間に吸い込まれた日が、地球時間で1月15日のお昼頃、こちらに着いたのが3月1日の日没前です。この日にちは、私たちがカランに到着した日から逆算して求めました。つまり、私たちがこちらに来た時点で、1月半ほど月日がずれてしまっています。そして、テラフォーリアの1年は370日、地球の1年は約365.25日なので、毎年放っておいても勝手に約5日ずつこちらの方が進んでいきます。
ここまではいいですね。」
大事な事らしいので、この場にいた智美、猛、聡久、仁美は、神妙な顔で頷く。それを見て光莉は、話を続ける。
「あと20日ほどで、テラフォーリアでの新年を迎えるので、その時点での暦のずれを計算して誕生日を特定してもいいのですが、それだと結構大変な作業になるので、ただ単純に、こちらとあちらの日付を合わせました。その方が、みんなも覚えやすいでしょ?」
「ちなみに光莉ちゃんの誕生日は?」
「私の誕生日は、4月15日ですので既に終わっています。忘れていたわけではないのですが、いろいろと忙しくて、優先順位が下だっただけです。なので智美さん。せっかく思い出したので、こちらでのお誕生日会第1号になってもらいますね。」
「…、まあ、いいわ。それで、結婚の話の結末は?」
私は、隆行さんと真由美さんが結婚の事と、新居探しの事を詳しく話していく。
「新居についてお2人は、この2か月間でカラン中を探していたみたいです。しかし、今のカランは住居不足らしく、なかなかといい部屋がないんだそうです。そう考えると、私たちはとてもラッキーだったという事ですね。なのである事に協力してもらう代わりに、新居を提供する事にしました。」
「ある事とは?」
猛が核心をついてきます。
「ここで、私と智美さんの計画が少し絡んできます。」
私と智美さんが、ここカランでやろうとしている計画を、詳しく3人に話した。
「確かに、そういう事を遣ろうとするならば、あの2人はうってつけの人材だな。それで、肝心の2人は、その計画を承諾しているのか?」
「2つ返事でOKを貰いました。結婚は、年が明けた最初の日曜日に、身内だけでこの屋敷で行う予定です。私と智美さんの計画は、現在準備段階で4割くらいの進捗具合ですが、あと2ヶ月ほどで開始できる予定となっています。それまでは2人には、少し不便をかけますが、屋敷の中にある2人部屋で過ごしていただく予定です。
それから、私からのお願いなのですが、猛たち3人の出発の日を、結婚式が終わってからにしてほしいのですが。」
「俺たちはそんなに急いでいないから、別にそれで構わないぞ。隆行さんと真由美さんの結婚は、元2年1組でやり残してきたとこの1つだからな。盛大に祝ってやらないと。
光莉、今日の智美さんの誕生日会もそうだが、結婚式の方も、計画は進んでいるんだろ?」
「ハイ、智美さんの誕生日会の方は、ついさっき思い浮かんだことなのでこれからですが、結婚式の方は、私の中では計画は進んでいます。今日にでも全員に話して巻き込むつもりでいました。」
「そうか。智美さんの誕生日会の方は、俺たち4人でやっていこう。智美さん、悪いが席を外してくれないか?」
私の部屋に移動した4人は、智美さんの誕生日会の計画を、昼になるまで話し合った。