第6話:魔宝石
これが朝モヤと言うヤツなのだろうか?
薄く霧が立ち込める森の中を、柔らかな朝日が満たしていた。
ぼんやりとまどろんでいると、きっと先に起きていたのだろう、彼女がぎゅっと抱きついてきた。
あぁ、そうだ。昨夜はこうやって抱き合って眠ったんだっけ、恐る恐る、ボクも彼女を抱きしめ返す。
ようやく覚醒してきた頭が、彼女がむき出しにした柔らかな2つのふくらみを、ボクの胸に押し付けている事を認識する。
絡ませあった足や、彼女の背中にまわした腕が、女の子の体はどこも柔らかいのだと言う事をボクに教える。
ふと、中学の級友を思い出した。
彼は禁止されていた雑誌を学校に持ち込み、アイドルの水着写真で大騒ぎしていた。
心も体もそう言った方面で未熟なボクには、彼がなぜ騒いでいるのかが理解できなかった。
下着写真・・・見せていけない場所を見せてるから、騒ぐのは分かる。
水着写真・・・見せていい水着を見せてるだけだ、なぜ騒ぐ必要がある?
当時のボク、と言っても1ケ月前、には分からなかったけど、今は分かる。
きっと彼も、女の子の体がとてもとても柔らかいんだって事を知っていたのだろう。
何も言わず、しばらく二人できつく抱きしめあい、足を絡めあい、ほほを擦り付けあい、お互いの感触を満喫する。
・・・それにしてもノドが乾いた・・・
そうボクが考えた時
(お飲み物をご所望ですか?精髪姫様)
彼女に触れている体全体から、彼女の声が響いてきた。
・・おはよう、はい、ノドが乾いています・・
・・それとボクは精髪姫?ではありません、東郷カノンと言います。ファミリーネームがトーゴー、ファーストネームがカノンです。別の国から来ました、この国ではカノン・トーゴーと言う気がします・・
(カノン様と仰るのですね。私はロバート家の奴隷でコスモスと申します。声を出さずにお話しするのは、お伽話のようで不思議な感じです)
・・では、コスモスさん。もうしばらく、このままで居させて下さい。接触テレパスは、接触面が多いほど私の体の負担が小さいのです・・
彼女が、二人の体の隙間を少しでも埋めようとするかの様に、全身でギュッとボクにしがみ付いてきた。ほほを強く擦り付ける。
(カノン様、私の事は単にコスモスとお呼び下さい)
>家畜に敬称を付けるだろうか?
>Mr雄牛とかMiss子ヤギとか呼ぶだろうか?
>奴隷の自分が「さん」付けで呼ばれるなんて、何と滑稽な事だろう!
彼女の心が悲鳴とともに流れ込んできた。
・・わかりました、コスモス。ボクの国には奴隷制度がありません。コスモスが奴隷とはどう言う事なのか教えて下さい・・
(私の母は奴隷です。魔宝使いである旦那様に種付けされ、生まれたのが私です。交配奴隷である私の血統は、第一子が魔宝石持ちが生まれる事が多いそうです)
・・魔宝石持ちとは?・・
(魔宝石を握って産まれる子供の事です。訓練により、魔宝使いに育ちます)
ボクは少々混乱した。
ここに飛ばされてから、ESPは使えたけれど魔宝は一切使えていない。
この地域全体が魔宝を発動できない精霊の加護の外なのかと考えていたんだけど、もしかしたら、あの魔宝実験の失敗でボクは魔宝力を失ったのかもしれない。
・・今までボクは魔宝を使えましたが、ココでは魔宝を使えません。この国には魔宝が無いのかと思っていたのですが、有るのですね?・・
(え?でも今、こうして古代魔宝である心話でお話していますよね?)
・・ボクの国では、精霊の力を借りて行うのを魔宝と言っています。自分の体力を削って行うのをESPと言い、魔宝と区別します・・
・・今使っているのは接触テレパスと言うESPです。接触面が多いほど、疲れが少なくて済みます・・
コスモスが又ギュッとしがみ付いてきてくれた。ありがとう、助かる。
・・コスモスが交配奴隷だと言うのを、詳しく教えて下さい・・
(はい、私の祖母は13で旦那様に種付け頂き、魔宝石持ちの母を産みました。母も13の時、旦那様に種付け頂き、母より大きな魔宝石を持った私を産みました)
(交配が進み、魔法使いの血が濃くなったのだろうと旦那様は仰っていました。私も今月13になり、身篭れる体になったので、旦那様に種付け頂くはずでした)
コスモスは、そこで小さく深呼吸をした。
(旦那様に種付け頂き、魔宝石持ちの第一子、血統保持用に控えの第二子を生んだ後。魔法使い奴隷として売られていくはずでしたし、その為の教育も受けて来ました。魔法使い奴隷は、雄牛10頭より高く売れるのだそうです)
正直、コスモスのあまりの話しに、耐え難く感じていた飢えや渇きすら忘た。
コスモスは淡々と続けた。
(昨日、私の体に気が付いた御坊ちゃまが私に種付けなさろうとしました。でも『奴属の刻印』の為、旦那様のお許しが無いと御情けを受け入れられません)
・・『奴属の刻印』とは?・・
(昨夜、私の治療の際にお気づきに成られたでしょうか?右肩の焼印で御座います・RRの焼印は、見た人に私がロバート・フォン・ロイド様の所有物と知らしめます。火精霊の契約印の為、『戒め』にしばられ契約者の命令には絶対に逆らえません。契約者たる旦那様には、『刻印持ち』がどこにいるか、感じ取れるそうです)
・・えーと・・
ボクは言葉に詰まる。
(私の交配は旦那様の指示でと言われておりましたので、御坊ちゃまを拒絶しました。御坊ちゃまは怒られ、私を家畜用のムチで打たれました。あまりの痛さに湖に身をなげ、全てを終わらせたはずでした)
コスモスがここで息をついた。
(気が付くと私は上等な布に包まれ、カノン様に手を握られておりました)
(奴隷法上、私は逃亡奴隷に分類されることになると思います。つかまった場合、鼻をそがれます。交配には影響しませんから)
人事のように、コスモスは淡々と語る。
・・いくつか質問があります、よろしいですか?・・
(はい)
・・私は魔宝の事故で、ここへ飛ばされてきました。ここはどこですか?・・
(カイン王国ウルスドの森、ロイド男爵領クーニエル村の近くだと思います。私が飛び込んだのがクーニエル湖、その湖畔にクーニエル村があります)
・・今はいつですか?・・
(4の月4日で私が13になったと教わりました。それから数日たっています。王国暦200と何年かです。奴隷は暦を与えられないので詳しくは分かりません)
・・コスモスは今、魔宝を使えますか?・・
(私の魔宝石は旦那様がお持ちの為、使えません)
・・コスモスの魔宝石はどのような物ですか?・・
(火属性のルビーです)
・・では、私の持っているルビーを渡せば魔宝を使えるのですか?・・
ほほを擦り付けていたコスモスの顔が離れた。
彼女はボクの顔を見つめた。
その目は大きく見開かれていた。