表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(旧) 逃亡奴隷少女、拾いました……  作者: しゅんかしゅうとう
第1章:ウルスドの森
4/55

第4話:逃亡奴隷少女、助けました…

ボクは咳き込む彼女を観察する。

心臓の鼓動は回復し、自律呼吸もしているが、意識はまだ無い様子。

肺に入った水を排出しようと、反射反応で咳き込んでいるだけのようだ。


あぁ、そうか、傷の手当しないと。いや、その前に濡れた服を脱がして体を温めないと。

魔宝が使えないと、ボクって本当に何もきちんと出来ないんだなぁ。


魔宝具を取り出すため、彼女の首を持ち上げ、首の下に敷いていたローブを取り上げる。

ESPを使いすぎた、体が鉛のように重い。


ローブの左内ポケットにある『心臓のドア』から魔宝具を出そうとしたとき、遠くから人の声がした。

何人かの男たちが、湖岸沿いをこちらに走ってくる。

何か怒鳴っている。


「xxxxxx!! xxxxxx!!」


何を言っているか分からないが、怒っているのだけは何となく分かった。

状況がまったく理解できず、少しパニクる。

意識を戻さぬ彼女に抱きついて、少しでも暖めようとする。

男たちが又何か怒鳴ってる。どうすればいい?


ついに男たちがボク達の直ぐ近くまでやってきた。

ボクは横たわる彼女を抱きしめたまま、顔だけ上げて男たちを観察する。


一人はいかにも御坊ちゃまという感じの、身なりの良い金髪の大柄な白人男性。

ムチを持っていやがる。

その後ろに「ザ・手下」と、言った感じの貧相な服装の男が4人、こん棒をもって・・・

うわぁぁ!手下の一人がナイフを出したよ!!本気か?!


「xxxxxxxxxxx!!!」


え?何?

ボク、ここで殺されちゃうの!?

何かもう、イッパイイッパイなんですけど!

立ち上がる体力すら残っていないのに!


泣きそうになりながら、と言うか泣いてたよ、心の中で叫ぶ。


「テレ・ポーテーション!」


知っている範囲で一番遠く、つまりはボクが転移魔宝で跳ばされた最初の場所へ、彼女を抱えて瞬間移動した。

掛値無しにもうESPは打ち止めだ。

でも、完全に日が暮れるまでに彼女をなんとかしなくちゃ。

このまま夜になったら凍死させちゃうよ。


ボクはローブの内ポケットにある『心臓のドア』から魔宝の皮袋『節制の胃袋ストマック』を取り出すと、横たわる彼女の隣にローブを広げて敷いた。

申し訳無いけれど、もう抱き上げる体力は無いんだ、彼女をごろんと転がしてローブの上に寝かせる。

その際、彼女の背中の傷も確認する。

熊にでもやられたのか、むごい傷跡と、うわぁっ!右肩に焼印があるよ、虐待だ!


ともかく早く濡れた服を脱がせて彼女を暖めないと。

魔宝が一切使えないから、魔宝具に頼るしかないね。

ボクは『節制の胃袋』から『絶縁のナイフ』を取り出す。

このナイフの刃は分子間の結合力を絶縁する。大抵の物は、バターナイフでバターを切るように切れる。


彼女のシャツはボロボロで血だらけだ、もう着ることは出来ないだろう。

遠慮なくシャツを切開して上半身を裸にする。

もしやとは思っていたけど、やはり肌着を身に付けていなかった。


次にズボンを見ると、こちらも左内ももに血の痕が見受けられる。

ベルトではなく、ヒモで縛ってはくタイプのようだ。

腰ヒモを解こうとするが、水を吸って結び目がきつく締まり、ほどけない。


やむを得まい。

『絶縁の刃』で腰ヒモを切る。

急いでズボンを脱がそうとするが、濡れたズボンは脱がし辛い。

いっそズボンも切開してしまおうかと考えたが、ズボンは再利用できそうだから、それはまずいだろう。

脱がしながら傷の場所を確認しようと・・・この子パンツはいて無い。


救命行為なんだから許してもらおう、ノーパン少女のズボンを何とか脱がして全裸にする。

ズボンの太もも内側に血の痕があったけど、傷はどこだ?

彼女の足を広げて太ももの内側を色々と確認するが、傷跡がない。

これは、えーと・・・もしかしたら・・・アレか?

生まれて初めて見た女性のアソコで、生まれて始めて見た女性特有の生理現象が起きているのか。

こんな時の手当ての道具なんて持ってないよ、だってボク男だもの、どうする??


ハンカチを取り出して縦長に折る。これで当て布の代用にしよう。

詰め物を手探りで詰めるのは、初心者にはハードルが高すぎる。

次に、これを固定する専用ショーツをどうする??

この子パンツはいて無いし。

うーん、仕方が無い。

ボクはブーツを脱ぎ、はいていた黒のレギンスも脱いだ。


寝ている彼女の足にレギンスをはかせて、最期に当て布代わりのハンカチを股間にあてがう。

寝ているとお尻にそって、後ろの方までもれそうだな、そう思って股間を色々いじくって、当て布をお尻の奥まであてがう。

レギンスをおなかまで引き上げる。

伸縮性のあるレギンスなら、ムリな動きをしなければズレないだろう。


最期に彼女の全身を『魔宝師のローブ』でくるむ。

本当はローブの上から体をこすって摩擦熱で温めてあげるのが好いんだろうけど、彼女の傷とボクの体力の関係からそれは諦めた。


今のボクは治癒魔宝も使えないから、ローブに織り込まれた『聖金の糸』と『聖銀の糸』の持つ治癒効果に期待しよう。

腹筋も背筋も傷ついていたから、あのままでは上半身を起こすことも困難だろう。

保温効果も含め、今は彼女をローブに包んでおくのが正解なのだ。


 ===


すっかり日が落ちた。月が出ているので、隣に彼女が横たわっている位は何とか見える。

落ち着いた寝息が聞こえるので、彼女は寒さを感じてはいない様子だ。

逆にボクは彼女にレギンスを貸してしまったので、下半身がスースーする。寒い。


今着ている耐魔宝効果のある白銀色の『聖絹の長袖Tシャツ』は膝丈までしかない。

まるで膝丈のワンピースにも見えてしまうが、耐魔効率の関係でこの長さになっているらしい。

その上に内臓を守るため、耐魔・耐物理・耐毒効果のある薄紫の『防岩のベスト』を着て、後は桜色の長袖カーディガンと桜色のネッカチーフ。

アンダーウエアを除けば、これが着ているものの全てだ。


ボクの体は代謝機能が不完全で体温調節が上手くできない。

平熱が極めて低く熱を作ることが出来ないだけでなく、暑いときに汗をかいて体温を下げることも上手に出来ない。

だからどうしても何枚も重ね着をして、レイヤーの数で体温調整をする必要がある。


今はレギンスが無い。足が寒い。とても寒い。

カーディガンを脱いで、ブランケット代わりに足に巻く。

今度は肩まで寒い。

ネッカチーフを解いてショール代わりに肩からかける。


だめだ、上半身も下半身も寒い。

少しでも表面積を小さくして放熱を避けようと、膝を抱えて丸くなる。


「寒い、暗い、怖い、おなかすいた、セイネも見つからない」


夜の森の中、灯なんて一つも無い、真っ暗だ。

月が出てなければ、きっと自分の腕さえ見えないだろう、そんな深遠の闇だ。


膝を抱えたボクの目から、涙がとめどなくあふれ出た。


 ===


膝を抱えたまま少し眠ってしまったみたいだ。寒い。寒い。

このまま寝てしまったら、いよいよヤバイかもしれない。

そんな時、彼女の寝息のリズムが変わったのに気付き目をやった。


彼女は目を覚ましていた。

体を起こそうとゴソゴソ動いて、傷が痛むのだろう「ウッ」とうめいて、顔だけをこちらに向けた。


「xxxxxxxxxxxxxx」


何かを必死に訴えていたが、やはり全くわからない。ボクの知らない言葉だ。

彼女は泣き出した。泣きながら何かを訴えてくる。


「xxxxxxxxxxxx」


ボクはカーディガンを羽織ると、彼女の寝るローブの中に手を差し込んだ。

やわらかい膨らみにも触れてしまったかもしれないが、なんとか彼女の手を手探りで探し当て、そっと握った。


「接触テレパス」


これなら体力を消耗しきった今のボクでも使えるかもしれない。


・・・ボクのコトバが聞こえますか?・・・


彼女はビクッと反応し、おそらくローブの中の手を見ようとしたのだろう、視線をそちらに移し、それから僕の目を見てこう言った。


「xxxxxxxxxxxx」


相変わらず、耳から聞こえてくる音からは何の意味も聞き取れなかったが、彼女に触れた手を伝わって言の葉がボクに届いた。


(あの・・・これって心話なのですか?)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

---------------------------------------------------
小説家になろう 勝手にランキング(投票)

よろしければ何か一言(登録不要)とか、投票とか、お気に入り登録とか、
評価とか、書いた物に対して「誰かが読んだ反応」を頂けると尻尾を振って喜びます。
「読んでくれている人が居る」と実感できる事が、本当に励みになります。


セイネの話はこちら
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ