蘇る野望
ん?あれ?物語が終わらない。何でだ?
健生は主人公に成ろうとしたがなれませんでした。残念。めでたくは無いけど終わりました。
ではないのか?
だって、このまま物語を進めても僕は主人公を倒せない。
だって、僕にはその気が無いし。気力は折れ、無くなったのだから。
「おい。鈴木。ちゃんとノートとれ。」
「あっ、はいっ。」
先生のいきなりの指摘に僕は慌てノートを開く。
カキカキ。
ノートをとりながらも矢張思う。
やっぱ、僕は『モブ』でこの先も何の変化も無い。何の変容の無い日々を送っていくんだ。
と。
僕はせめてもと握っているシャーペンに力を込める。力を込めすぎたのだろう。
シャーペンの芯が「 パキッ。」と音を発てて折れた。そんな音と重なるように窓が割れた。
パリンッ。という綺麗な音ではなく、パンッ。とただ静かな音だった。
ただ一人。そんな音よりも早く行動していた者がいた。この学校の主人公。剣舞だ。
「伏せろ。」
そう言いヒロイン、婀姫の頭を自身の手で下げる。
ダンッ。
何か硬いものが物凄いスピードで教室の床下に突き刺さった。
弾丸だ。
この教室は一番の階下。ので、床の下は柔らかい土がある地面。被害者の心配はない。
「クソッ。奴等。学校まで狙ってくるとわっ。」
剣舞はそう言いながら婀姫の手を握る。
「来い。婀姫。ここじゃあ被害が出る。」
そんな時の為の『モブ。』
ざわつき役だ。教室中はそんな『モブ』達の声でざわつく。
「キャー。」だとか「何だ?何だ?」とかで。
剣舞と婀姫はそんな『モブ』達の声をバックに教室を出て行った。
数秒の時間差で剣舞の親友の防が
「ちょっと待てよ。俺を置いてくなよ。」とか言いながら教室を出て行った。
言うまでもなく授業はお開き。一時間の途中で僕ら『モブ』は家に帰された。それは先生も同じことだ。
が、しかし先生は先生で主人公とは繋がりがあるので学校に残らなくてはならない。
「何なんだね。あの射撃は?剣舞君。何か知ってる事があるなら教えなさい。」等といった感じのことを言わなければならない。『モブ』にも『モブ』の階級があるのだ。
「はぁ〜。」
帰り道。僕は大きな溜め息を吐いた。吐かずにはいられない。
この世は不平等だ。
主人公じゃなくてもそれなりの人生を歩んでいる者は何人もいる。選ばれた人間は「苦」の人生を知らない。いや、知ってるだろうけども。「苦」よりも「楽しい」方が多いだろう。
「努力」をすれば報われる。
しかし「努力」をしても報われない者なんて数えきれない程いる。「勝ち」があれば「負け」がある。「主人公」がいれば 「脇役」がいる。
この世界には以下で例えたような者の後者が殆どだ。「主人公」よりも『モブキャラ』の方が 殆どなのだ。
僕はそんな『モブ』の一人にすぎない。
ならいいじゃないか『モブ』が普通で「主人公」が異常なんだ。なら僕は普通でいい。人生を普通に生きればいい。
まだ恋愛もしてないしベタな青春もしてない。けど、いつか何年か先、普通の恋愛をして。普通の青春を謳歌するんだ。そう。普通の。それでいいじゃないか。
「主人公」は選ばれた人間の中でも選ばれた人間なのだ。僕にはそんな「主人公」の席を奪いとる権利はない。 運が無かった。努力をしていなかった。努力が報われなかった。ただ。ただ。それだけのことじゃないか。
「あぁ。にしても今日の剣舞はかっこよかったな。学校一。下手したら世界の上位ランクの安城さんの手を握って。護って。」
独り言が溢れる。
「もう刺客倒したのかな〜?さすがにまだかっ。」
止まらない独り言。
「何で三話でこんなシリアスな感じになってんだ。いつも通り馬鹿っぽく陽気でいこう。そうだ。明るく元気に…。あれ?何で?」
僕の両目からは涙が流れていた。
僕は「主人公」になりたかった。
でもそれはあまりにも無謀すぎて確率的にもかなり低くて。
実際、僕の周りには誰もいない。 友達は要るけど 話し友達程度。親友なんかいない。女との関わりも無いし、昔っからの幼馴染みとかもいない。 僕は根っからの『モブ』なんだ。
だから無理なんだ。無理でダメなんだ。
僕なんかが「主人公」になっちゃ。
でも、成りたいんだ「主人公」に。
僕は考えた「主人公」に成るためには何が必要なのかを。答えはまだ出そうにはない。
けど、いつか出そう。
その時 僕は「主人公」になるのだから。