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避難

時刻は深夜。


風呂も夕飯もトイレも武器整備も済ませ。今、僕は二日ぶりくらいのフッカフッカのベットで横たわっている。


ZZZZzzzz。


隣からは快適な寝息が聞こえる。


モソッ。


そんな心地よく奏でられている寝息を横に僕はゆっくりと立ち上がった。

そのまま防具も全て外した格好で。

動きやすい布製のズボンと同じく布製のシャツといったコスチューム。

音を発てないように僕は外に出るためのドアノブをソッと回した。


テクテクと宿の廊下を進みフロントを出て、宿屋を出る。


静まり返った町。

所々に出店が出ておりうっすらとした光が見れる。その殆どは深夜限定にレアアイテムやボロアイテムを混ぜて売るうっさん臭いアイテムシュップだ。


勿論。値段は馬鹿じゃねぇの!って言うくらいの値段。


そんな出店を早足で通りすぎて目的地。

フィールドに繋がる道へと足を進める。

そして。第一フィールドに辿り着いた。

漆黒の空間に夜限定の虫モンスターが所々このフィールドに生息している。


団子虫みたいなモンスター。

蛾みたいなモンスター。

カナブンみたいなモンスター。


第一フィールドのモンスターは弱小モンスターの虫モンスターを中心にしたフィールドだ。

それと第一フィールドの敵は此方から仕掛けなければ絶対にバトルにはならない。

だから。僕はこんな武器も持たない格好でいても何の危険性もないのだ。


しかし。普通。フィールドとは敵と闘い、経験値を貰うべき場所。武器も持たずに行くような場所ではない。

なら。何故?僕はこんな広大で誰もいない場所に一人武器も持たずに来たのかというと……。


僕は大きく息を吸い…


「寝れるかーーーーーーー!!」


僕はこの上ない大きな声で叫んだ。


主人公の隣で寝れるわけないだろー?


小学校の修学旅行でも寝れなかった僕が。

つい二日前くらいに会った人となんか寝れるわけないだろーーー!?



☆◎※△□★〜


後は言葉にならない感じでギャーギャー喚き散らした。


*********


ハァ。ハァ。ハァ。


ずいぶんの時間喚き散らし、ようやく落ち着き始めた。こんなに喚いても誰一人迷惑を掛けない。

モンスターは僕の声なんか夜風が吹いているかの如くてんで気にしていない。ってか、届いてさえいないのかもしれない。

まぁ。それが狙いでこの場所を選んだんだけど。


「さて。そろそろ帰んないと。さすがに一睡もしないのはマズイな。」


僕は宿に帰るべく後ろを振り返った。


そのタイミング。


「みつけた!!こんな所に居たか?」


息を切らし安堵の表情を顔に刻んでそう言ったのはつい数時間前まで僕の横で寝ていた人物。


『主人公』天野流だった。


「えっ!?何で?流が?」


僕はさっきまで叫んでいた内容を流に聞かれていないか心配で動揺しながら流に問う。


「それはこっちの台詞だ。こんな所で何してんだ?」


流は僕の全体を眺め言った。


「えっ、えっと。それは。」


こんな格好じゃ独りかっこよくレベル上げに勤しんでいたという言い訳もできない。


「何だよ?悩みか?」


質問に答えないでいる僕に流は更に質問を重ねてくる。


「いや。それは違うけど。」


「なら。何だよ?」


流が苛立ちの表情を見せている。


えーい。これしかない。僕はそう思い、口を開いた。


「さっ。散歩だよ。」


引き吊った笑みを刻みながら僕は言う。


「散歩?こんな夜中にか?」


「そう。散歩だよ。何か寝れなくてさ。夜のフィールドってどんな感じなんだろ〜?って。」


「でっ。ここに居るわけか?」


そう。そう。と言うように僕は首を縦にコクコク振る。

流は若干の疑惑を感じ取れる視線を向けた後

「まぁ。取り敢えず宿に戻ろうぜ。」

と言った。


フーッ。

取り敢えずは一波去ったことに僕は胸をさし下ろす。

別に叫んでいただけで何も悪いことはしてないので話しても問題は無いのだが、何か恥ずかしい。内容も内容だし。


僕は適当に誤魔化せれたことに内心で再度ガッツポーズを作り、流の後ろ姿を追った。


*********


散々第一フィールドで叫び、大した会話も無しに僕達二人は宿に戻った。今は始めと同じ、僕の隣で流が横になっていると言う状況。

まぁ。それに関しては言うことは特に無いのだが。


問題は現在(いま)だ。

振り出しに戻ったならまだしも。状況は更に悪化してしまった。


「なぁ健生?起きてるか?何かしゃべんねぇ?」


そう口にしたのは勿論。僕のパーティーリーダーであり、ルームメイトである天野流だ。


そう。僕を探しに外に出た流の眠気はその時に一緒に出て無くなってしまったのだ。

よって。僕は意識のある流と何とも言いがたい空気の中を共にしていた。


Z…ZZ……Zzzz………z。


自分でも分かる程の下手なイビキ。


「何だ?寝てんのか?」


そんな筈はない。勿論。僕は起きている。

しかし。ここで起きている事を流に感知されてはいけない。

悪いけど『主人公(あんた)』と仲良く話す気は毛頭ないのでね。


僕は寝たふりをしながら内心でそんな事を流に言ってやった。


うっ!?


そんな事を思ったからだろうか?神は僕に天罰を下した。


トイレに行きたい。


僕の内心での会話はまだ続く。


何なんだ一体?幸先が悪すぎるぞ最近。

まぁ。しかしトイレに、行きたいのは事実。。ここは冷静に考えなければ。

この宿屋のトイレは清潔で、部屋に付いている。トイレに関しては何も言うことは無い。

ここで問題になるのは隣だ。

先程話し掛けてきたのだ。完全に起きている。証拠にイビキが聞こえない。

ここで僕がモソッ。と起き上がりでもしたら。必ず。

「何だ?健生起きたのか?寝れねぇんだよ。何か話そうぜ?」

みたいな事を言ってくるに違いない。


それだけは避けたい。

恐らく僕は断れずにそのまま流の提案に乗っかってしまう。僕はそういう奴だ。

流はグイグイくるタイプだし。


ならどうする?


選択肢は二つ。


一。我慢する。


これに関しては自分の自制だけが要求される。流が寝静まった頃合いを見計らってコッソリと行く。それが一つ。


二。腹くくってトイレに直行。


これに関しては自分の「演技力」プラス「自我意志」の強さが要求される。


作戦はこうだ。

始めにモソッ。と起き上がる。この時、目なんかを擦り今まで寝てましたよ。みたいな事をアピールしなければならない。


そこで声を掛けてきたら

「あぁ流?起きてたんだ?夜更かしは明日に差しつかえるよ。」等と言おう。

最後は言うか言わないか。どちらでもいいが実に眠そうに言うのがポイントだ。

声を掛けられなければそのままトイレにノッソノッソと行けばいい。

最後。用を済まし、ベットに帰るとき。

始めに声を掛けてきたら恐らくはそのまま寝れる筈。

しかし。掛けられなかったら。

始めと後が入れ替わる。

それがもう一つ。


さて、どうする?


こんな事を考えている今でさえもう限界に近付いている。

言ってはいないが最悪の選択肢「漏らす」のだけは阻止しなければならない。

どちらにしろ双方かなりの難易度なのは確か。


ひっ!?やっばい。


もう。動かないと出てしまう。男の排尿なんか誰も望んでねぇよ。勿論、僕自身も。

早くしなければ。


自然と「我慢」の選択にしているがもう駄目だ。諦めるしかない。

未だに流の寝息は聞こえないし。

意を決しろ。僕。


そう心に一打ち入れ僕はモッソっと立ち上がった。


第一関門。


「ファ〜。」


欠伸を一つ。我ながら欠伸の演技は完璧だと思った。

次に目を瞑る。

まだ流は話し掛けてこない。


と言うことは僕の全てが終わった頃に話し掛けてくることになる。

僕はそう推測し緊張をほどかないようにトイレへと向かった。

トイレの明かりをつけようとした瞬間。僕は異変に気付いた。


明かりが点いている?


まっ、まさか!?


思った時には既に遅し。トイレの扉がゆっくりと開かれた。


「あれ?健生起きたのか?起きたついで何か話そうぜ?寝れねぇんだよ。」


待ってるからな〜。と僕の有無を聞かずに流は部屋へと帰っていった。

棒立ちに立ち尽くしていた僕だが一先ずトイレに入る。用を済ませ、水を流し言った。 全力で。


「そんなのアリか!?」


そんな健生の声は水の音にかき消され流には届いていなかった。


**********


どうやら流は寝ている僕に気を遣ってくれて静かにトイレに行ったのだと。

僕は尿の抑制に頭が一杯だった為に流が抜け出た事に気付かないでいた。

流がいないのに欠伸なんかし、一目散にトイレに駆け込みたかったのに目なんか擦り。馬鹿みたいだ。滑稽すぎる。


「……………。」


「……………。」


灯りを点けて向かい合っているのはいいが。(本当は全然よくないけど。)


なんなん?この羞恥プレイ。


何故に流と無言で向かい合わなきゃなんないんだ。

帰りたい。即行 我が家に帰りたい。

そんな事を思い、顔をうつ伏せていると流が声を掛けてきた。


「取り敢えず。暇潰しになるゲームでもするか?」


ゲーム?


この何もない状況でゲームと言えばしりとり。

じゃんけん。指すま。とか言ったのもあったな。

とにかくそんぐらいしかない筈。

まぁ。この変な空気よりかは何千倍ましになるか?

とか思っていたら。


「ここにトランプあるからスピードでもするか?二人だし。」


と言って流は着ていたパーカーのポケットからプラスチックの箱を取り出した。


「何でだー!?」


とか会って間もない『主人公』に言える筈もなく。僕は無理に笑い

「いいけど。何で?そんなん持ってんの?」

と聞いた。


「あぁ。この服、あっちの世界で着ていたものなんだけどな。偶々、ポケットの中に入ってたんだ。」


「あぁ。そう。」


僕はかなり突っ込みたいのを我慢して無気力に言い放った。


********


「また。俺の勝ちな。」


「うっ。」


六回目の勝負が終わり流が嬉々とした声音で言った。

六回やって勝敗は 健生の一勝 五敗。 流の五勝 一敗 。

といったものだった。


そして負けた僕が次こそ勝ってやるとトランプをシャッフルしていると。

ある感情に気付いた。


楽しい?


いや。まさか。向かい合っているのは『主人公』だぞ。そして僕はそんな『主人公』に敵意を剥き出しにしている『モブ』だ。

そんな関係おかしい。


五回ほどシャッフルを済ませ僕はトランプを静かに床に置いた。


「おい。おい。まだちゃんと混ざってねぇだろ?」


そんな僕の行動を見た流が早口で言った。


「ごめん。もう止めねぇ?」


僕はトランプをプラスチックの箱に仕舞いながら言う。


「何だ?勝てないから嫌になったのか?」


「違う。嫌なんだ。あんたとこうして和気あいあいとしてるのが。」


僕は流の顔を見ないように呟く。


「そうか。」


そんな僕の言葉に。普通なら怒ってもおかしくない言葉に。流は静かな一言を口にした。


「何で?何で?そんなこと言うんだよ。」


僕は声を絞り出す。


分からない。この『主人公』は分からない。何を思っているのか?どんな奴なのか?

分からない。

僕はこの『主人公』の優しさに呑まれてしまう。そんなことになったら『主要人物』なってしまう。僕がなりたいのは『主人公』なんだ。


僕がそうやって頭を抱えていると。穏やかに流は言った。


「死にたいんだ。」


「へっ!?」


僕は顔を上げる。


「少し話すな。」


流はそう前置きしゆっくりとベットにもたれかかった。そして天井を眺め静かに両目を閉じたのだった。


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