ルームメート
「うーし。今日はここまでにしようぜ。」
この世界での太陽が傾き始めた頃、流が言った。
今では皆のレベルは平均8にまで上がっている。
この「アニマ」は本来のゲームに関与しているのならレベル1から10までは一日で上がる。
しかし。それは一日中やって、なおかつ何度も蘇生しての話だ。今の状況。自分の肉体が関わっている状況でそう急ぐことは危険すぎた。
ストーラが言うには僕らがこの世界に招来されたのは人体を分子粒子に分解した後、ネット回線を通り「アニマ」の世界で分子化された体を元に戻した。とのことだ。
即ち。
この世界にいるいじょう、僕らの死はこの世界を管理しているストーラによって決められることになる。
死ぬ。
それは現実世界では心臓が止まることを意味する。しかし。この「アニマ」の世界ではそれだけではなかった。
僕らはゲームの世界に来た。しかもRPGの。
と言うことは。必ずHP(体力ゲージ)が存在する。
そのHPが0になるということが即ち、死。
だが。それは心臓が止まるということでは無い。 僕らのHPが0になるということは体が分子粒子に分解されるということなのだ。
ストーラはここに僕達を分子粒子に変換させて来させた。
と言うことは。
ストーラは僕達を何度でも分子粒子に変換出来ることになる。
例えば。僕がニードルピアーにやられたとしよう。その時、僕の体は肉眼では決して見えない分子化される。僕、自身の意思では体を復元することは出来ない。
しかし。管理者であるストーラは違う。
人体をバラバラにすることが可能ならくっ付ける事も可能なのだ。
もう分かっただろうか?そう。ストーラは僕達を何度も蘇生させる事が出来るのだ。
しかし。ストーラはそれをしない。
何故か?
本人が言うには。
「一人に限らせて貰えればそれは可能です。
何故と?では貴方方に聞きます。砂糖の中に食塩が混ざりました。その中から砂糖と塩を一粒も間違えず区分することは可能ですか?
出来ない事もないですが。それはあまりにも時間が掛かってしまいます。貴方方の体の分子は一人一人違います。それが何十人もの分子が空気中に浮遊したとしたら貴方方は自身の分子を余すことなく探しだし、復元させることは出来ますか?
完全に復元させなくてもいいのなら貴方方の蘇生を約束しましょう。どうしますか?」
と言っていた。
僕達プレイヤーは首を縦には振れなかった。
故に、僕達は一度でもHPを0にすることは出来ないのだ。
しかし。そんな状況で一日でLv8という高レベルまで上げることが出来たのは流の指揮故の成績といえよう。
と言っても戦闘フォーメションは前線に近接戦を得意とするファイター(格闘家)・ランサー(槍使い)・セイバー(騎士)が主に敵を攻撃。
ビースター(獣使い)がバディに命を下し、前・後方共から敵に攻撃。
後援でホーリー(魔法使い)が回復中心に。アーチャー(弓使い)が麻痺矢や毒矢等の状態を弱らせる矢を射て援護。
と、まぁ。そんな単純なフォーメション。
だが。流はそのフォーメションを有意義に動かしていた。
攻撃(前方)→回避→攻撃(後方)→回復。とまぁ。そのサークルの繰り返しなのだが。
流は絶妙なタイミングでそれを指揮していた。
国に帰ればHPは回復する。だが、今日はその国に戻ったのは昼食の時の一回だけだった。美麗の回復魔法に要するMPが尽きかけたらアイテムで回復。美麗以外にも必殺技めいた技に使うMPはアイテムで回復していた。
それは時間短縮であり、より早くレベルを上げる方法でもある。流が言い出したその意見に皆は即賛同した。
しかし。その代償というのか?溜まる疲れは尋常じゃない。疲労は寝ない限りは決して回復しない。今日は流の提案で落としたお金の半分を使った宿屋で一晩過ごすことになった。
今日、落ちたお金は皆合わせて58,283ルド。よって約29,000ルド。一人あたり4,500ルドの宿屋になる。 因みに昨夜の宿屋は激安で1,000ルドであった。
しかし。今日はその宿よりも二回り。三回り。 と高価なもの。今日の疲れをめい一杯休められる筈。フカフカなベットの筈。
…………しかし。
「健生?次風呂入れよ。」
そう声を掛けてきたのは我がチームリーダーの天野流さんだ。
「んー…あぁ。わかった〜。」
僕は気の無い返事を返し、のっそりと立ち上がった。
そんな僕の行動を見て流が言った。
「何だ?健生疲れてんのか?元気ないな?」
「いや。大丈夫。大丈夫。少し眠いだけだから。」
そう言葉を残し僕は風呂場へと向かった。
*******
宿屋にも基準というものがある。
昨夜 宿泊した1,000ルドの宿屋は良くて四畳の部屋で固い木製のベットがあるだけ。
もうちょっと。3,000〜5,000ルド位出せば
8〜12畳の部屋。ベットはソファベットに変わり、簡単な机が携わられる。後は。簡単なトイレとシャワー室がある。恐らくは一般プレイヤーはこの宿屋を使っているだろう。
更に8,000〜12,000ルド出せば15〜18畳の部屋。ベットはウッドスプリングルベット。
ソファや机。部屋の飾りとして観葉植物まである。トイレと風呂が区分されキッチンも付く。
料理は各自で飯屋に行くか露店で買わない等しないといけないために自分の好みにあった味を出したい者はこのキッチンで料理しなければならない。
それと。
まだ「アニマ」をネットゲームとして楽しんでいた頃。僕はこのキッチンで攻・防等のステータスを上げる独自のサポートアイテムを生産するために使っていた。多分。現在もその為にもキッチンは使えるのだろう。
そして最後。100,000ルド以上出せば国にそれぞれ存在する城のような所。部屋の広さは想像以上。設備も何不自由ないように創られており、一度泊まれば抜けだせれない。そんなセレブ級の暮らしが出来るとか。
僕は「アニマ」がネットゲームだった頃でさえそのセレブ級の宿屋には泊まったことがないので何とも言えないが。この世界で実在しているのならいつかは泊まってみたいものだ。
今。僕等はそんな上で紹介した中の宿屋の 三段階上の宿屋に泊まっている。
つまり。トイレと風呂が区分されている。
まぁ。一言でいえば普通の額をだして暮らせるアパート。マンションのような部屋。
そんな宿屋だ。
しかし。まぁ。僕等が本日稼いだ額としては58,283ルド。風呂とトイレが区分されている宿屋に泊まるとしたら最低でも8,000ルド必要になる。勿論。一人あたり。
足りなくはない。48,000ルドなのだから。
しかし。宿屋にそれだけの額を費やしたら
夕飯は勿論。明日の回復アイテムやら武器に必要な素材やらが買えなくなってしまう。
結果。ルームメイトを組んで二人で一つの部屋に入ることとなった。
女性は女性同士。あとの残りの男共はくじでルームメイトを決めた。
で。
「あぁ。気持ち良いなぁ〜。やっぱ疲れをとるには風呂が一番だよなぁ〜。」
……。
ピチャッ。天井から湯槽に水滴が落ちる。
シーン。と静まりかえった浴室。
………。
「なんでーーーーーーーーーーーー!?」
ザブーン。と湯槽から勢いよく立ち上がり僕は我慢出来ずに一人虚しく突っ込んだ。
いや。だっておかしいじゃん。いくら前章で運気を殆ど使ったからといって、それはないじゃん。
何で?主人公と同じパーティー組んで同じ部屋で寝過ごさなきゃならないんだよ。
本来なら倒すべき敵なんだよ??
相手なんだよ???
そういう話しなんだよ???? ……… ね?
百歩譲ってパーティーはいいとしよう。状況が状況だ。だけど、ルームメイトって。友達じゃん!『主人公』と『モブ』友情芽生えるじゃん!絶対、闘えないじゃん!
別に風呂無くてもシャワーだけでいいからもう一ランク下の宿屋で良かったじゃん!
そしたら一人一人それぞれの部屋で自由に過ごせたのに。
ああー。何で女って湯船に浸かりたいのかな!んもぉ!!気持ち良いけどねお風呂は!!
そんなことを一人全裸で爆発させていると。
ガラッ!
風呂場のドアが控えめに開けられた。
流が心配そうな顔をして聞いてくる。
「どうした?健生?一人叫んで?」
「いっ、いや。別に。風呂が気持ち良すぎて。ほんとっ。この宿屋で良かったわ〜。」
僕は苦笑混じりでゆっくり湯船に体を戻した。




