ビギニング オブ オン アドベンチャー ~冒険の始まりの~
緊迫した空気がこのセトルーゴという会場に流れ始めた。それもその筈。先刻。ストーラ(この世界の管理者)は言ったのだ。
「この世界での死は本来の死に直結する」
と。
さらにストーラは期限まで加えてきた。
30日。
一ヶ月という短い期間でボス攻略しろと言うのだ。
始めは皆は怒り。喚いていた。しかし。
ストーラの疑似体が消え、それが無意味なものだと皆は気付いた。
そして現在。こうして皆は現実を受け入れようとしているのであった。
「おい、何時までこうしてるつもりだ?ゲームは始まった。今ここで俺達が何をするべきか?分かるだろ?」
黒谷の陰気な声が始めにこの緊迫な空気を切り裂いた。
「パーティーか?」
流は難しい表情をしながら呟く。
「あぁ。そうだ。俺は本来ソロ(独り)プレイヤーなんだが。時間が無い以上は仕方無い。」
「ならば。チームは3つに別けた方がよかろう。国は3つあるのだからな。」
明も会話に加わる。
「じゃぁ。皆。それぞれ七人のパーティーを組んでくれ。」
流の掛け声でこうしてこの会場に動きが出始めたのだった。
今の皆のLvは同じだ。
皆が平等にLv1。初期防具に初期段階の武器。
しかし。役職は本来ネットゲームでプレイしていた時と同じであった。
皆が動き始め各々がパーティー申請を行っている中。僕は尚もまだ一人、この会場の後ろの方でボーッと突っ立っていた。
別に流達の意見に反発しようというわけではない。
ただ。ただ。今もなおショックを受け落ち込んでいたのだ。
僕の役職が。
【アーチャー(弓矢)】でることに立ち直れなかったのだ。
分かってる。僕が【セイバー(剣士)】なんか似合わないことぐらい分かってるんだ。
だが。【アーチャー(弓矢)】って。地味すぎじゃねぇか?
七つの役職の中で最も地味と言っても過言ではないぞ。(総合的に見て)
確かに遠距離系の役職は必要不可欠だ。
しかし。この「アニマ」には【アーチャー】以外に【ガンナー(銃士 )】という名前。道具。響き。等々。が【アーチャー】よりも優れた役職が存在する。実際【アーチャー】より【ガンナー】の方が人気もあり遠距離系の殆どが【ガンナー】だった。
なら。何故に僕はそんな【セイバー】でも無い。
【ガンナー】でも無い。【アーチャー】にしたのかと言うと。
使いやすかったのだ。
僕はネットゲームを今の今までやったことがなかった。
「アニマ」が初めて。ネトゲデブューというやつだ。「アニマ」には役職体験というものがあり、僕はそこで転々と役職を体験した。
しかし、まぁ。初めてのこともこともあり動きは鈍いし。攻撃は当たらないしで、操作が出来ないではないか。
一通りの役職を体験し終えた時。僕は出逢ったのだ。動きもそんなに無い。攻撃コマンドも単純。そんな役職に。
こうして僕は何の躊躇いなく【アーチャー】という役職に就いたのであった。
あった。じゃねぇだろ。いくら僕が『モブ』だからと言ってそりゃないよ。
アー。終わった。色んな意味で終わった。
「ん?健生?」
そんな事で頭を抱えている僕の所に一人のプレイヤーが声を掛けてきた。
何だ?パーティーの申請か?僕は【アーチャー】だよ。分かってんの?数合わせなら他いった方がいいよ。
て、え?健生?何で僕の名前?
そんな事を思いながら僕はゆっくりと顔を上げる。
「えっ!?何で??」
これまで抱えていた悩みなど一気に吹き飛ぶ。
「何で美麗がここに?」
そう。僕の目の前には前章で出来たこの物語りの『ヒロイン』。
この世界では『モブ』である佐藤美麗が立っていた。
「それは私が聞きたいよ。何で健生がいるの?」
いや。いや。僕なんかよりも明かに美麗がここにいる方がおかしいだろ?
だってストーラは言っていた。ここにいる人達は僕同様に午前2時過ぎにログインした者だけだと。
早い話。駄目人間だけが呼ばれたのだ。
しかし。美麗は違う。学校だって明日ある筈だし。ちゃんとした生活を送っている真っ当な人間だ。こんな世界に来る筈がない。
僕は美麗を凝視しながら固まっていた。
そんな僕の状態から推測したのであろう。
「あーもー。忘れちゃったの?健生がこのゲームやってって言ったんじゃん。」
「へっ?」
予想外の美麗の発言。
「私の家。一応厳しいからネットゲームなんかやらせてもらえないの。だから夜遅くに起きてやっていたの。そしたら何か今日はこんな……………。」
美麗も今の状況を理解出来ていないのであろう。後の方はゴニョゴニョと言葉になっていなかった。
しかし。僕は美麗の言い分を聞いて薄れていた記憶がはっきりと戻った。
確かに。美麗にアニマを招待した。確か紹介ボーナスでレアアイテムを獲得するために。
やって下さい。と土下座までしたような。
そんな重大な記憶を忘れていたとは。
「しかし。美麗がまさか本当にやってくれるとはな。」
全てを思い出し表情も元に戻し僕は呟いた。
「えっ!?まさかアレ冗談だったの?」
「いや。そうじゃないけど。」
始めは驚いたが僕は嬉かった。
そんなこんなで僕は知人に再会した。
唯一心を許した僕の『ヒロイン』に。
「そう言えばさ美麗はホーリー【魔術士】なのか?杖持ってるし?」
僕は美麗の持っている古びた木製の杖に一瞥し唐突に言った。
美麗と偶然の再会を果たした今。必然的に美麗とパーティーを組むのは確定している。
「私?」
美麗は自分を指差す。
「うん。でも全然 弱いよ私。」
僕はそんな美麗の言葉を聞いて思った。
弱くても【アーチャー】よりかは役に立つだろ。
と。
「健生はアーチャーだよね。その背中にぶら下げてる弓は?」
空気を読んでいるのか?読んでいないのか?よく分からない美麗のスピリチュアル(精神)攻撃が僕にクリーンヒット。
「うっ、うん。まぁ。はっはっはっ。」
僕は苦笑を口から漏らす。
そんな時。
「おい。あんたら。まだ二人か?」
ど太い声が僕達二人に掛けられた。
「えっ。あっ。まぁ。はい。」
掛けられた人が人だった。僕は妙に緊張してしまう。
そんな僕等に男は一瞥し呟く。
「【ホーリー】に【アーチャー】か?」
短い考案後。
「うっし。お前等こい。」
顔に似合ったどでかい手と手ををポンッ。と叩き男は半ば強引的に僕と美麗の腕を掴んで小走りに走り出した。
「すっ。すいません?どこに行くんですか?」
美麗が早口に問う。
そんな美麗の問いには男は無視して目の前の集団に向かって大声を出した。
「おーい。連れて来たぞ。最後のメンバー。」
「まっ。まさか!?」
男は僕達をパーティーに誘っている。それは始めから分かっていた。しかし。目の前の集団には驚いた。
「うん?あぁ。土居さんありがとう。これで6つの役職が揃ったか。」
青年は立ち上がる。
「宜しく。アーチャーさんとホーリーさん。」
そう言って手を差し出したのは『主人公』の天野流だった。