第二の主人公
誰かが唾を飲み込む音が聞こえる程の静寂。皆は思っていた。何故?自分だけが。
何故?自分だけがこんな目に遇うんだ。
と。
「ふっ、ふざけんなよ。」
誰かが小さく呟いた。 それが引き金だったのか。
「そうだ。帰せ!!俺を帰せよ!!」
「出せっ!ここから出せよ!」
「そうよ。こんなこと許される筈ないわ!!」
皆は口々に自分の焦りと怒りをストーラにぶつけ出した。
しかし。そんな皆の罵倒を受けてもストーラは眉一つ動かさずに静かに言った。
「何を今更。貴方方にはちゃんとした同意はとっている筈です。」
「デタラメ言ってんじゃねぇぞ!!」
「そうだ。俺たちは普通にログインしただけだ!!」
「そうだ。普通に、、、、、、、普通に?」
皆の怒声はそこで止まった。
普通に?いや。違う。今日だけなんか違かった。皆は思った。
そんな皆の雰囲気を読み取ったのかストーラは言った。
「そうです。私は貴方方に申請は送った筈です。
第五三項
・貴方はこの世界で一生、住居することを約束しますか?
と書かれていた筈ですよ?」
皆の顔に冷や汗が蔦たる。
確かに、ここにいる大半の者が項目を流し、いち早くログインするために焦って承認をクリックした者達だった。
「総勢132名の貴方方は項目を読んでいない方々なのでしょう?それに関しては貴方方に非があるのではないでしょうか?」
厳しいストーラの一言。皆の表情は一層 恐まる。 皆は確かに聞いた。「一生」この世界に住居すると。それがこの奇妙な静けさを呼び起こしている原因の一つになる。
そんな静かな空間に声を発する者がいた。
「少しいいか?」
そう言って挙手したのは高校生か中学生の青年だった。
そこで僕は思った。こいつがこの世界の。この話の『主人公』か?と。
久々の僕登場である。
どうやら前の章での剣舞との闘いで僕には見極めのスキルが身に付いてしまったらしい。無論。『主人公』『主要人物』『ヒロイン』と言った人物を見極めるスキルである。
例えばあの始めに声を上げた貫禄たっぷりのおじさん。あれは『主要人物』だ。
後は途中でストーラの話を遮った男性。
あれも『主要人物』だ。
だ。だ。だ。だ。だ。
だ。
じゃねぇー。使えねぇよ。こんなスキル。
まぁ。いいや。取り敢えず話を戻そう。
ごめんなさいね。下らない僕の話を挟んでしまい。
「はい。どうぞ。天野流さん。」
ストーラは青年に目を向ける。
「じゃぁ。」
皆の視線が彼に集まる。
「一つだけ聞きたい。あんたの言い分はAIであるあんたらに俺達が感情を与える。つまりあんたらを俺達同様、人間にしてくれ?それでいいんだよな?」
「はい。そうです。」
「なら。俺達はこのゲームの中で一生はいなくてもいいんじゃないか?」
ストーラは少し考え言った。
「そうですね。訂正しましょう。貴方方が私達、AIに全ての感情を享受して頂いた暁には貴方方を元の世界へ生還させることを約束しましょう。」
そこで流と呼ばれた『主人公』は口許を緩め小さく笑う。
「そうか。あんたは俺達を還せれるのか?なら。話は早い。あんたがここに連れてきたやり方。俺達が住んでいる世界では詐欺という行為に値する。」
「さぎ?」
ストーラは流の言葉を聞き、首を傾げた。
「天野流さん。さぎとは何ですか?」
「簡単に言うとだな。詐欺とは不条理な理由で人を騙す事だ。これは俺達の世界ではあんたらの方が罪になる。」
ザワザワと周りがザワつき始める。
「確かに俺達は項目を無視した 。しかし。百の項目を作り、その癖五十三項という位置に最重要項目を提示するやり方はあまりに汚なすぎる。これは立派な詐欺になるんだよ。お分かり頂いたかなストーラさん?」
最後に流は挑発的な口調でストーラへ言い終える。
「…………。」
数秒の無言の後、ストーラは声を発した。
「これは大変失礼しました。成る程。法律と言うものですね。ですが。残念ながら今段階で貴方方を元いた世界へ還すことは不可能です。」
「なっ!?」
流のお陰で安堵に満ちていた皆の表情が一気に変わる。
「何でだ!ふざけんなよ。」
「訳わかんねぇよ。説明しろよ!!」
口々に怒りをぶつける『モブ(ある一定の)』達。
「理由は簡単です。貴方方が私の傍にいないからです。」
「はっ?いんじゃねぇか。お前ならそこに。さっさと出せよ!!」
一人の男性が遂に怒りを有頂天に達し、ストーラに向かって殴りかかった。
すると。
スカッ。と男性の拳はストーラの体をすり抜けてしまう。
「なっ!?」
男性は予期せぬ事態に体のバランスを崩す。そしてそのまま…。
ドシンッ。
音を発てて地面に体を叩きつけた。
「私のこれは疑似体です。本物の私は今は別の場所にいます。」
「なら。さっさと出てこいよ!!」
先程 殴り掛かった男が大声で喚き散らす。
「それは叶いません。私はこの世界の管理者。故に私は自分の意思でここから出ることは出来ないのです。」
「なら。今あんさんは何処にいる?」
貫禄たっぷりの明が問う。
「私はこのセトルーゴの真下。貴方方の真下に在所しております。」
「じゃぁ。あんたへの接触は俺達には叶わぬ夢ってことか?」
黒谷が小さく呟いた。
「いいえ。それは違います。かなりの危険性を伴いますが貴方方は私に遭うことは出来ます。」
「どうやってだ?それから。本当にあんたの所へ行けば俺達は還れるんだな?」
念を押すように流は言った。
「はい。それは確実に約束します。もし貴方方が本当に私の元へと辿り着く事が出来たのならですけど。」
ストーラは意味深な言葉を残し話を続けた。
「では。貴方方が私がいますここへ辿り着くにはですが。貴方方も知っての通りこの世界には三つの国があります。その国からへはそれぞれ違ったフィールドへ。繋ってます。
十フィールド。最後のフィールドに出てくる難易度超級以上のモンスターを倒して下さい。勿論。全フィールドに出てくる。計三体の。
モンスターを倒しますとあるアイテムがドロップします。それをこのセトルーゴの三つに設置されております石柱の上にのっけて下さい。
そうすれば道を示しますので。後はそれに沿って行動して頂ければ辿り着きます。
」
要するにこのゲームのクリアー条件としてはそれぞれのフィールドに出現するボスモンスターを倒せ。そう言うことか?
僕は『主人公』の流や『主要人物』の明や黒谷の後ろで今の現状を把握して、考えをまとめていた。
会場にいる皆がこのゲームへの攻略に向けて盛り上がっている中。ストーラは静かに言い付け加えた。
「尚。この世界で命を落としますと本来の死へと直結しますのでそれはご了承下さい。」
今まで感情という感情を見せなかったストーラの疑似体が初めて悪質な笑みを刻んだように僕には見えた。
第一章から読んで下さっている方も第二章から
読んで下さっている方もここまでお付きあい頂き
誠にありがとうございます。
もう少し説明が続きます。次回も説明になりますが
何卒よろしくお願いします。
感想・コメント共に送っていただけたら嬉しいです
(^^)