Anima Transizione ~魂転移ゲーム~
カタ。カタ。カタ。カタ。カタ、、、、、。
薄暗い部屋。キーボードを叩く音だけがその空間内に響く。
その周辺には幾多の栄養ドリンクやら簡易な栄養食品のゴミが散乱していた。そんな空間の主は今は目を充血させながらノートパソコンの画面だけを眺めていた。
今、何時だ?
この部屋の主である僕。鈴木健生は右上の壁に吊るされたデジタル時計に目を移す。
明かりという明かりは目の前にあるノートパソコンから漏れる薄暗いそれしかない。目を頑張って凝らさないと見えない。
午前一時過ぎか?
「うっ、うぁ〜。」
キーボードから手を離し、座ったままの姿勢で大きな伸びをする。
電源を落とさずに僕は静かにパソコンの画面を閉ざした。
パチッ。
部屋の電気を点ける。
「うっ、まぶっ。」
今まで微力の光しか見ていなかったので部屋の膨大な光に目が追い付かなったのだ。
次第に目が慣れ始める。汚い僕の部屋が嫌でも目に入ってきた。
そんな部屋に一瞥し、僕は誰に言うでもなく呟いた。
「さてとっ。ご飯でも食べるかな。」
**********
「はぁ~。久々にこんなに食べたなぁ〜。」
と言えば。まるでご馳走でも食べていたかのようにとらえる人もいるだろう。
しかし。僕がいま食べ終わったものはそこまでのご馳走でもないし、ましてや量もそんなに多くもない。
僕が食べたのは近くのコンビニで購入した一個496円のカツ丼だけなのだから。後はお茶。
しかし。今の僕にはそんなコンビニ食でもご馳走と思える程になってしまっていた 。
今までの食事があまりにも味気ない物ばかりだった為に。栄養食ばっかりだった為に。
何故に僕がこんな駄目人間になってしまっのか。
その経緯から話していきたいと思う。
えっ?そんなのどうでもいい?聞きたくもない?
グスンッ。グスンッ。聞いて下さいよ。
僕。このところ独りだったから誰かに話を聞いて貰いたいんだよ。直ぐ終わらせるから。
てか。このくだり前もやったよね。
本当すいません。
ゴンッ。(頭を床に叩きつけた音)
*********
時を遡ること5日ほど前。
前の話で話したと思う。とにかく僕は暇だったのだ。それで他人に意見を聞こうとパソコンを開き書き込んだのだよ。
<家で出来る生き甲斐を探しています。どんな意見でも受け付けますのでお願いします(__)>
みたいなことを書き込んだのだよ。
まぁ。それに関しては良かったんだ。
その後がいけなかった。
書き込んだ後。更新にも時間が掛かる。それまで暇だ。結果。寝た。
一時間位したらそこそこのコメントがあることを期待して。寝たんだよ。
ちゃんとベットの上で。携帯のアラームを一時間後に設定して。
ぐっすりと。ぐっすりと寝た、、、、、。
寝ちゃったんだよーーー。
気が付いたら太陽が沈んでるではないか。
もうそりゃー焦ったよ。
テンパりすぎて始めにしたことが何故か机の上に置いてあった教科書開いたからね。
それから冷静になるまでに多分、15分位は掛かったと思う。
焦ってもしょうがない。寝ちゃったもんはしょうがない。時間は返ってはこないんだ。
僕は恐る恐る。いや。嘘。普通にパソコンを開いて電源を入れた。
早速。僕が書き込んだ掲示板を開く。
と。
ドバーーー。と皆の意見が。コメントが。画面上に広がっているではないか。
それはもう予想外の数の意見が。画面上を支配している。
「うっ、うぅ。」
短い声を漏らして僕は取り敢えず一番始めに書いてあったコメントを眺めた。
ありがたいんだけどね。
<生き甲斐?って何だろう?僕的にはアニメ観賞ですね。>
次。
<本気で悩んでるのwwwww。受ける(爆)>
次。
<私は音楽を聴くことですかね〜。
○○○○とか○○の曲が大好きなんです。>
次。
<アニメって言えば今期のアニメはつまらないよな。>
次。
<えっ?僕的には今期いいと思うんだけど。>
次。
<その曲、私知ってる(笑)>
次。
<〜。>
次。次。次、、、、、。
カーソルを下へ下へともっていく。
しかし。どんなに下にもっていこうと先が見えてこない。
次第に面倒になってホイールを長押しし一気に一番最下に下げる。
やっと。一番最下に到着。
<そう言えば最近見つけたネトゲで神ってるの見付けたんだけど皆やらない?>
そこにはそう書かれていた。
そこでまた新たなコメント。
<タイトルは?>
数分後。
<Anima Transizione.>
「アニマ トランシジイオン?」
僕は慣れない単語を呟いてみる。
数分ボーッとしているとまたコメント。
今度は一気にきた。
<何それ聞いたことない>
< 私、それ知ってる。楽しいよねアニマ。>
<アニマすごくいいよね(^o^)/特に全て無料ってのが(笑)>
<〜。>
<〜。>
「おい。おい。何だよ?皆して最終的に雑談になちゃってるじゃん。僕の質問ガン無視じゃん。」
僕は改めて画面に目を移した。
「ん〜............................?アニマ?かっ?」
そう一言 つぶやき僕はマウスを手にとった。
***********
「Anima Trnsizione」通称「アニマ。」
美しいグラヒイックと飽きさせないコンテンツ。
そういったもので作成日まだ3ヶ月程にも関わらず高い評価を受けている本格的 VROMMO(仮想現実大規模多人数オンライン)。
しかし、このゲームの醍醐味はそれだけではない。
「セトルーゴ」という数多のプレイヤーが集まる集会所のような場所から行ける場所がそれぞれ三つ。
一つ「光の国」
次に「闇の国」
最後に「深緑の国」
その国から行けるフィールドにはそれぞれのモンスターがいる。下位なモンスター〜高位なモンスターが。
フィールドの奥深くに行けば行くほどモンスターの強さは上がり難易度も高くなる。
そんな三つの国の最深部のモンスターを倒すことが多くのプレイヤーが思っていることで目的だった。
後はこのゲーム。始めに役職を決める。
【セイバー(騎士)】
【ランサー(槍使い)】
【アーチャ(弓使い)】
【ガンナー(銃使い)】
【ファイター(格闘家)】
【ホーリー(魔法使い)】
【ビースター(獣使い)】
以上。七つの役職を選択。
ソロでやるのもいいがパーティーを組んでやるほうが効率がよいので多くのプレイヤーがそれぞれ七人パーティーを結成している。
最後にこのゲームが3ヶ月という短い期間で何故にこうも人気がでたのか?
だが。
このゲーム。
「アニマ」には課金制度が無いのだ。勿論ゲーム自体が有料とかそんなのではない。全くのタダ。無料でプレイ出来る。
その癖、他の有料ゲームにも劣らない美しいグラヒイック。飽きさせない内容。豊富な武器。等等。
なのにタダ。
これだけでは人はなんの躊躇いもなくアクセスするだろう。
しかし。このゲーム。製作会社不明・製作者不明。といった感じにこのゲームに関する情報が全て不明だった。
当然。怪しいと疑う者もいた。
が。そんなものは欲には勝てない。
始めほんの少しだけプレイ。それが多くの人をこのMMORPGに招き入れた理由である。
始めは皆 疑い、プレイを躊躇っていたが一人。また一人。といった感じにユーザーは増え続けた。
今ではアクセスユーザー15万人といった数値にまで至っている。
チートといった裏技めいたものはまだ発見されていない。
課金制度無し。
己の技術とパーティーのチームワークだけが要求される。それが多くの人間がこのゲームの虜になった大きな理由である。
そんな15万人といったユーザーの中にこの僕も仲間入りしていた。
「さてっ。風呂にも入ったし栄養ドリンクの装備は十分だし。やりますかな。」
そう言って僕はノートパソコンを開いた。
「あれ?」
電源が切れている。
「おっかしいなー。確かに電源は入れっぱなしで閉じたのに。」
少し奇妙に思ったが僕は直ぐに電源を入れた。
ウィィィン。
という機械音と共に電源が入る。
「早く。早く。」
完全に中毒者だ。
パスワードを入力し急いでネットに繋ぐ。
そして毎度お馴染み「アニマ」のタイトル画面からログイン。
「は?」
又も予期せぬ事態。
画面上にダーと数字やら英語やらが流れ始めたじゃないか。
「おい。おい。ふざけんなよ。」
3時までに「セトルーゴ」に行かなきゃ行けない。
バグ?故障?
確かにこの5日間ほとんどパソコン起動させていたけども。
こんな時に。
第一。故障なんかしたら両親になんて言われるか。
今は三週間の結婚記念日旅行とかいって二人共いないけども。
帰ってきて直ってなかったらヤバイ。
このパソコン。去年の誕生日に無理を言って買って貰ったもの。
「大事にしなさいよ。壊したら弁償してもらうからね。」
母さんにそう言われた時は適当に「はい。はーい。」とか言ったが..................現在。
「ヤバイよ。ヤバイよ。」
僕は猛烈に焦っていた。両親に叱られる。
約束に間に合わない。
そんな負の思考が交互に僕の頭を埋め尽くす。
叩いたり。適当にキーボードを打ちまくったり。電源を落とそうとしたけど全てが駄目だった。
まだもなお続く英数字の流れ。
そうこうしていると時計は2時半を越えようとしている。
うぅ。僕がこれまで積み上げてきた人望と信頼が。
僕はガクリッと肩を下ろし完全に諦めた。
もう無理だ。と。
しばらくそうしていると画面上に変化が感じられた。僕は伏せていた頭を上に上げる。
「おぉ。」
英数字が消えている。
僕は表情を少し明るいものにし感激の声を漏らした。しかし。
「ん?」
今度はズラーと日本語が画面上に広がっているではないか。
第一項。
プライバシーの管理
・他のプレイヤーのプライバシーを侵害する行為。または侵害の恐れがある行為を当サイトでは固く禁じております。
第二項
法的罰則
・法律に触れる行為またはそのその恐れがある行為を当サイトでは固く禁じております。
第三項
ゲーム内での禁止事項
・当サイトではチート等の卑劣な行為を固く取り締まっています。
「なっ、何だよ?これ?今頃こんなんやるのかよ?」
僕は三項まで目を通して深い溜め息を吐き出した。
「しかも長えーな。これ。」
はぁ〜。
久々に長文を眺めたせいであろう猛烈な眠気が襲ってきた。
ゴクッ。ゴクッ。
机上にある栄養ドリンクの缶を傾ける。
「そう言えば時間は?」
チラリッ。と時計に目を向ける。
「やっ、ヤバッ!!3時過ぎてるじゃん!!」
僕は急いでマウスを手に取る。第四項から
まともに読まずに一気に最下位までもっていく。
以上。第百項目。「承認」「承認しない」
の所で止まった。
僕は迷わず「承認 」にカーソルをもっていきダブルクリックする。
すると画面が変わり砂時計が出現。
早くしろ。早くしろ。と心で念じ待つこと三分ほど。
「了承しました。直ぐに実行に移ります。」
画面にそんな文字が現れると同時に僕の意識は現実世界から無くなった。
次回は一週間後くらいに投稿したいと思います。
次回も宜しくお願いします\(__)