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バカは馬鹿を呼ぶ  作者: ナガラ
クラナド王国
8/8

馬鹿はやはり厄介者でした

やっと主人公がスキルを使います。・・・ひとつだけですけど

この世界には魔物という危険な存在がいる。

そいつらはSS,S,A,B,C,D,E,F,と危険度によって分類されている。

話は変わるがリンドン王国とはクラナド王国から西に森を抜けたとこにある。

街道らしきものが一応あるものの、リンドン王国を半分囲むようにして生えている森、通称『魔の森』に入るのだとしたらそれなりの覚悟と準備が必要なんだとか。

なぜなら森に住む魔物がそこらの魔物とは段違いの強さを持っているので――クラナド王国周辺は主にEクラスで強い魔物でもDクラスに対しこの森は最低でもCクラスといえば分かるだろうか――この森がリンドン王国を守る天然の要塞にもなっているほどだ。

ただこの『魔の森』の本当に恐ろしいのは――


「アンデットっつーのは昼でも活動できるものなのか?」


「勘弁してください!そんなのはここだけでさあ!」


馬車とその周りを固めるように配置された騎馬兵達が森の中を駆けている。

それを追ってくるのは四体。

全身が炭化したかのような真っ黒で男か女かは判別できない。

だがどれも俺の身長を飛び越して二メートルはある大柄な体躯。

そんな奴等がアスリート選手も真っ青な速度で全力疾走してくる。

『ラージアンデット』それが奴等の名前だ。

ここ魔の森は空気に含まれている魔力の密度が凄まじいらしく、この森の中では放置された死体は一時間もすればアンデットとなり、そんなアンデットは真昼間でも活動可能とか。


「二十四時間いつでもいけますってことか。働きすぎだろ。」


あと動く死体(アンデット)があんなに素早いのは反則ではないだろうか?

もっとこう、ゆっくりと追ってくるものと思ったら、思いっきり腕を振って走ってきてる。

走る姿勢がやけに整っているのが腹立たしい。


「そんなこと言ってる場合じゃないですぜ。さっきから馬と同じ速度で走ってきやがる。このままだと馬が倒れちまう。それに王子、アレが見えますかい?」


俺のリンドン王国までの警備を担当している近衛隊長がラージアンデットの一体を指差す。

兜で顔が良く見えないが声からしてかなりあせっているのが分かる。

最後尾を走る一体。だがそいつからはうちの自慢の妹をも超える魔力が溢れ出ている。

まだ魔力の質というのが良くわからん俺でも、あれが禍々しい雰囲気を放っていることぐらいは分かる。


「ああ、見える。」


「多分あいつが親玉なんでしょうけど残りの三体が壁になって攻撃が届きません。」


「さっきから攻撃を受けてもすぐに再生してるしな。」


『ファイアーボール』で上半身が消滅しても下半身は走り続けてものの十秒で再生したからな。


「隊長さん。この馬車の後ろ半分を吹き飛ばせるか?」


「できますが・・・その、いいんですかい?」


「構わん。このまま死ぬよりかはましだ。」


「わかりやした。・・・『エア』!」


隊長さんがスキルを発動した途端、馬車内で暴風が発生しそのまま先程まで俺が座っていた座席が吹き飛ぶ。


「さて、見通しが良くなったところで、だ。ちょっとこの剣貰うぞ。」


と言いつつ、隊長さんが帯剣していた剣を抜く。


「ちょっ、いつの間に!」


ムドウさんの特技の一つ、スリ。

うむ、相手に気づかれずに剣をスルとは腕は落ちてないようだ。

こんなところで前の世界で培った技術が役に立つとは思いもしなかった。


「はっはっは、良いではないか!いくぞ!」


スキル『自己改造』

この一ヶ月と少し俺は自分のスキルを十全に発揮できるよう自室などで密かに修練を積んできた。

そしてわかったのがこの混神からもらったスキル『自己改造』は自身の魔力を消費する、またはその代わりとなるものを用意するなどして、文字通り自身の容姿や骨格はては臓器にいたるまで自分の身体を好き勝手できるということだった。

このおかげで今の俺は容姿は違うものの中身(・・)を徹底改造し前の世界の俺と同じ性能を持つことに成功した。

そして今魔力を消費することで全身の筋肉をさらに強化する。

身体全体から力が漲る。

ついでに骨格もいじり今の俺はただ剣を投擲する(・・・・)ためだけの存在となる。


「せいっ!」


うなりを上げて剣が発射される。

剣は一番前を走るラージアンデットの腹を貫通し、そのまま本命である親玉もろとも地面に突き刺さった。

だがそれでもまだ動けるのか親玉は手足をばたつかせもがいている。

ただあの様子ならば当分はこちらを追うことはできまい。

そして腹を貫通したもう一体はそのまま再生することなく身体が徐々に崩れ最後はもとから何も無かったように消えた。

そのまま馬車は走り続け、馬車を追っていた残りの二体も形が崩れ始め消えてゆく。

その頃には俺の身体も元に戻っていた。

このスキルの欠点は時間がたっても元に戻ることなく、戻そうとするには改造した同量の魔力を使って改造し直す必要があるのでやたら魔力を消費することだ。

ほんと疲れるんだよね、うん。


「・・・なんとかなりやしたがあれ、王国から支給された剣なんですけど・・・・・・。」


「経費で落ちるだろう、多分。」


「多分て・・・まあいいですけどね。良く分かりませんが王子のスキルのおかげで俺達が助かったんですから。ただこれからどうします?」


混神からもらったスキルについては相手が良く分かっていなかったことに安堵しながらもこれから、という言葉に疑問を持つ。


「だから結婚しにリンドン王国へ・・・・・・あ。」


馬車だ。

今の馬車は後ろ半分が剥き出しの状態である。

このまま一国の王子が他国へ行くのには少し、いやかなり格好がつかない。


「・・・いまうちの国で流行っている馬車と言えば・・・。」


「次の日からクラナド王国は変人の集まりって言われますね。俺は辺境にある村出身ですからそこらの貴族と違ってどうとでもなりますけど王子がそんなんではいけねえと言う事ぐらい俺でも分かります。」


「ん?・・・あー、なるほど。そういう事か。やっぱり無理があるな。なら関所で事情を説明して代わりの馬車を用意してもらうか。この際、別にそこまで派手じゃなくとも構わんからな。」


「そういう事でしたらなんとかなるでしょう。それまでは王子は休んどいてください。」


「そうするかな。またあいつらが来たら知らせてくれ俺がなんとかするから。」


「勘弁してくだせえ。それじゃどっちが守ってるのか分からねえですよ。」


肩を竦める隊長さんのその姿がやけに様になっていた。

それから二時間ほど馬車を走らせ、魔の森を抜けようやく関所にたどり着く。

事情を聞いた向こうの兵士が顔を真っ青にしながらもう日も落ちるからこのままここに泊まって欲しいとのこと。

なんでも夜道は魔物が活発化するのでここが一番安全なんだとか。

まあ他国の要人が自国で無事だったとは言え危険な目にあったからな。そちらとしてもこれ以上問題を起こしたくないのだろう。

別にこれをきっかけに何か要求する気などないんだが・・・。

そもそも俺はこの世界に来て欲しいと思ったことがない。

宝石類など金銭に関しては無頓着なほうで食事とかも食えさえできれば味は気にししない。

スキルに関しても神の加護――悪神のは置いといて――があるので今はそこまで必要としない。

女はいまのところ興味なし。まあ、いまから婚約相手に会いに行くがだからといって何か期待するほどのものはない。

以外に思われるかもしれないが別に自分はハーレム好きというわけでもなく、それより一人の女を愛するべきと思っている。

だからこれから会うリンドン王国の女王様が気に食わないときはどうするべきか少しばかり悩んでもいる。

閑話休題。

そんなこんなで関所に泊まることとなった夜。

一応護衛ということで隊長さんと相部屋である。


「やっぱり俺はお忍びという形なのか?」


「ええ。いまのクラナド王国は勇者が魔王を倒したからかなり注目されてますから。今まで猛威を振るってきた帝国が俺たちを危険視してる程です。だから今回王子にはリンドン王国の女王様と婚姻することで同盟を結ぶつもりだったんですが・・・。」


「確実にばれてるな。」


「やっぱそう思いますか?部下の手前あまり言いたくなかったんですけど。」


「そうしかないだろ?昼間のアンデットにしたってどう見てもおかしかった。ただひたすらに馬車に向かっていたこともあるが何より死体が残らなかった。あれは長時間外部から魔力に犯されたか人工物である証拠だよ。」


ラージアンデットとはそもそも死体が皮膚はもちろんのこと中身にいたるまで完全に魔力に犯されたものだ。

だがそれでも一ヶ月はそのもととなった死体があの黒い体躯の中にあると言われている。

そして魔術で用意されたものは最初から死体をもってない。魔力によって形作られるだけだ。

死体を用意する手もあるがそれでも製作中(・・・)に死体は術者の魔力に耐え切れず内部から崩壊する。

なによりラージアンデットは分類上Cクラスであっても戦闘能力はDまたはE程度しかない。

あれらが危険視される理由は奴等に触れるものは徐々に腐ってゆくその特殊なスキルを持っているからだ。

だが魔の森ではそんなちんけなスキルにやられる魔物など皆無だ。

見つければ即瞬殺である。

よって魔の森でラージアンデットに会う確率は少なくそしてあの森では一ヶ月も生存(?)不可能なのだ。


「恥ずかしい話ですが俺はそういう話はてんで駄目でして。ただ、あれが魔術師の仕業ってことはわかりました。」


「それが分かれば十分だ。問題なのはどこのどいつが俺を狙ってきたかということだ。」


おそらくリンドン王国ではないだろう。

この国も者なら魔の森のことも詳しいだろうし、ただ危険度が同じだからという理由でラージアンデットを使役するなどしないだろう。


「やっぱり帝国じゃあないですかい?いまここで王子を殺して得するのはあそこぐらいでしょう。」


「だよなぁ。それと、後は我らがクラナド王国ってとこだな。」


その発言に隊長さんは目を大きく見開く。


「なんですかそりゃ!?」


「声が大きい。静かにしろ。」


「・・・・・・なんでうちの国がでてくんですかい?それこそなんの利益も無い。どころか大損ですぜ。」


「真剣な顔で言われると照れくさいな。」


「当ったり前でさあ。王子は俺みたいな元村人でも気さくに話し掛けてくれるし、無茶なことも言わねえ。こんな王子はそうそういませんぜ。」


「わかったわかった。ただ俺がそう思った理由だがな・・・・・・物言わぬ偶像ってとこだな。」


「そりゃ一体なんです?」


「よく演説とかでもあるだろ?死んだ人間をだしにして我々が彼の意志を引き継ごうとかなんとかいって他の連中を誑かすアレだ。そいつ個人の意志ってのはそいつしか、いやそいつ自身も理解できないものだ。それを他人が引き継いだって絶対にどこかで齟齬が生じる。そういうもんだ。」


「つまり王子を殺してその後王子の意志を継ぐとかいって自分のいいようにしようとする奴が王国にいるってことですか。」


「多分貴族あたり、いや王族もありだな。この話を伝えにきた王妃は・・・微妙だな。あの人はただのいたずら好きな人だから。自分とその周りさえ無事ならどうでもいいとか言いそうだし。」


「なんか、こう、やるせないですね。」


「ま、このまま女王様がいる城に引き篭もればひとまず安心だ。今は明日のことに集中しろ。」


「そうですね。今日みたいなのが起こったときはさっさと休むのが得策です。」


「そうだな。・・・・・・ちょっとトイレに言ってくる。今日のことをいま思い出すと腹が痛くなってくる。」


「ははっ。そりゃそうでしょう。今日はいささか王子には刺激が強すぎましたからね。」


「まったくだ。平和に過ごすのが一番無難だというのにな。」


ほんと俺にちょっかいなんぞ出すから無難に生きられない。








~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~












「こちら影これより任務全うする。」


『こちら梟。了解。目撃者はいらん、全て消せ。』


「了解。」


闇夜にまぎれて音も無く関所に近づく影がいた。

森の中にいる魔物は一匹も彼らを感知できずにいる。

今、彼らはただ目標を殺害するためだけに今関所にいる者を皆殺しにしようとしていた。

慈悲などない。

ただ彼らは職務を全うするのみ。

そして彼らは油断はしていなかったが確信はしていた。

昼間のアンデットの対処を見て彼らはありえないことだがもし正面から戦っても勝てると考えた。

王子が使ったスキルは一時的な身体向上。そしてその効果は短く王子はそう何度も使えない。

不意打ちならば相手は殺されたことに気付かないまま死んでゆく。

そう予想していた。

そう、だから――


「暗殺者ってのはどこにでもいるがここのは駄目だな。錬度が低い。俺のところので言うならまだガキの方が使える。」


ソレの声に反応できなかった。

一瞬の硬直。

すぐさま反応したのは彼等の中でも隊長格とされる者一人だけだった。

声のあるほうへと素早くナイフを投擲する。


「うん。もう少しがんばろうか。」


そんな声を後ろから投げかけられた。


「――――あっ。」


見れば先程までついてきた部下達の眉間にはナイフが突き刺さっている。

そのナイフはどこにでもありそうなもので実際はそこらのものとは比べ物にならない程の切れ味を持つ。

そう彼がいま投げたナイフとまったく同じ物だった。


「スリは俺の特技の一つでね。少しばかり君のお仲間から拝借させてもらった。」


彼はゆっくりと姿を現す。

『暗視』のスキルを持つ彼でさえその存在は見えているにも関わらず希薄に感じる。

目を離せばそのまま消えてしまうかのような錯覚に襲われる。

彼は関所にいる誰でもなかった。

黒髪に黒目、背丈は目標と同じくらいだがそれだけだ。

そんな得体のしれないナニかがゆっくりと近づいてくる。


「君の周りの仲間、それに君達より少し離れていた多分彼らも君らの仲間であろう人はもう既に死んでしまった(・・・・・・・)が運良くまだ君は生きている。」


どうだ話し合いをしようじゃないか。

ソレは彼にとっては理解できない存在だった。

仲間が死んだ。

自分を除いて全滅。

予想外の出来事に軽く混乱する彼を無視してソレは喋り始める。


「まずは自己紹介。俺の名前は・・・・・・そうだな。テロリスト、テロリストと呼んでくれ。以前はそう呼ばれていた。」


てろりすと、彼の脳内にはそんな名前など無い。

ただ奴は危険だ。

理論とかそんなのではなく、彼が今まで培ってきた経験が、本能が、奴は危険だと叫んでいる。

彼は必死に最善の手を考える。


「さて君の名前はなんという?できればこんなくだらん事を決意した馬鹿のことも教えて欲しいのだが?」


今だ。

彼とソレの距離は未だ十歩程度の空があるがそれで十分。

そこは彼の間合いだ。

スキル『空絶』。

魔術に分類されるスキルは量に違いがあれどすべて魔力を消費するスキルだ。

その結果優秀な魔術師は相手の魔力の微細な変化に気付くことでスキルの使用を感知することができる。

ただこの『空絶』は魔力を消費しない。ただ相手に詰め寄って切りかかると言う単純な動作である。

ただその速度は弓より放たれた矢よりも速い。

感知できない最速の一撃必殺、もちろん身体を酷使することとなるので代償は高くつくが今は別に構わない。

こいつさえ殺せば後はどうとにでもなる!


「遅い。」


結果。

彼の刃は届かず。

スキルを発動すると同時に彼のナイフを握っていた右腕は切り落とされ。

そのまま流れるような動作で。

彼の喉を切り裂いた。


「――――――。」


声はでない。

変わりに血が留めも無く噴き出る。


「スキルを発動する瞬間、身体が無意識に動こうとして一瞬だが動きが止まる。そいつは戦いでは致命的だ。いくら速く動けるからってその前が棒立ちなんざ意味がねえ。」


意識が薄れてゆく中。

ソレは一人何か呟いていたが彼にとってはまったく持って理解しがたいものだった。

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