殺戮天使
ナントカ王国は国家存亡の危機に瀕していた。帝国軍がすぐ側まで迫っている。
ウンタラ王はワラにもすがる思いで、神に祈った。
どうか、この国を救いたまえ!
すると、目の前に、白い翼を持つ美しい青年が現れた。金色の髪、蒼穹の瞳、背には三対の翼。まさしく天使だ!
ウンタラ王は直感した。祈りが通じたのだ!
「国を救えとは、また大きな願いだな。それだけの願いを叶えるためには、支払う代償も大きい。それでも国を救いたいか?」
「勿論だとも!」
「されば1万の命を捧げよ。その命は同胞のものでなければならない」
「馬鹿を言うな!」
ウンタラ王は迷わず突っぱねた。
「さればひとつの命を捧げよ。その命は大切なものでなければならない」
「他に方法はないのか?」
「ない」
天使はキッパリと言った。
王は悩み抜いて、決断した。三番目の娘の命を捧げよう。上の二人に比べれば、いくらか器量が落ちる。その小さな命ひとつで国が守れるなら、安い代償だ。
奇跡が起こった。帝国軍が敗走したばかりでなく、ナントカ王国に有利な条件で講和を結ぶことが出来た。
ある晩、また天使が現れた。
「約束の命を貰いに来た」
「何を言ってるのだ? 命ならば、もう捧げたではないか」
三番目の娘を失ったのだ。これ以上、代償を支払う謂われはない!
「何か勘違いしていないか? 俺は、大切な命を捧げよ、と言ったんだぜ?」
「だから娘の命を捧げたではないか!」
「それは、おまえにとって大切な道具という意味だろう。おまえが大切にしている命はただひとつ、おまえ自身の命だ」
そう言うと、天使は手を伸ばした。ウンタラ王の首に、強い圧力が掛かる。触れてもいないのに、喉が潰れそうだ。
そうか、分かった!
「貴様は悪魔だ!」
それがウンタラ王の発した最後の言葉となった。喉が潰され、徐々に意識が遠のいていく。
「どっちが?」
その悪魔は、蔑むような眼差しで、ウンタラ王を見つめていた。