第5章
赤銅色に色づく海面がそのまま夕空に同調し、東京のビル群に大きな赫い落日が隠れようとしていた。夕凪の時刻に、オレとシーは大都会の喧騒から隔絶されたような森閑とした舞浜海岸遊歩道をゆっくりと散歩していた。シーは潮の香りも気にせず、ときおりおすわりをしてその丸くつぶらなひとみで赫い海原の彼方を見つめた。昏くなりはじめた南東の空には、赤く輝く一等星があった。若くして母が亡くなったとき母の精霊が帰郷したと感じた一等星だった。
しばらく行くと、遊歩道の幅が大きく広がり休憩用のベンチが点在している場所があった。ひとりの若い女性がベンチに腰かけていたが、ほかには誰もいなかった。大きな赫い落日が対岸のビル群の向こうへ沈もうとしている光景のなかで、なぜか彼女の存在が異質に感じられた。 ──ちょうど夕映えた彼女の白いハーフコートが巫女装束のようだったからか── まるで彼女が海の彼方の異界からの来訪者のように……
よく見ると手にカメラを持っている。あるいは沈みゆく落陽の風景をフィルムに収めているのだろうか。
オレとシーはそのまま若い女性の前をゆっくり通りすぎた。人なつこいシーは彼女を一瞥した。オレの視界の片隅にも一瞬彼女の姿が映った。彼女はポニーテールだった。思わずオレはふり返った。なぜなら彼女のなかにカナエの面影をみたから……
彼女もベンチから立ちあがりやや緊張した様子で、オレとシーを見つめていた。オレが微笑んで軽く会釈をすると、ポニーテールの彼女も微笑んで軽く頭を下げ、聖玻璃のような澄んだ声で挨拶をしてくれた。やはりいつもポニーテールだったカナエの面影があった。夕映えた彼女の微笑みはカナエのような儚く清冽な眩しさだった。
──こんばんは、とってもかわいい小犬ですね、犬種はなんですか?
──シーズーです、シーといいます!




