寂れたPAで雨宿りする男
俺はろくでもない人生を歩んできた
何も生まず、何も残せず
ただ流されるように生きてきた
深夜に車を走らせる
理由は強いて挙げるならば
明日を考えることが苦痛で
今日を思い出したくないからだ
面白くもない夜景が広がるフロントガラスに
降り出した小雨が飛びつき、弾かれていく
高速に入ったばかりだったので
俺は舌打ちした
雨脚は強まり、気も萎えた俺は
寂れた小さなPA (パーキングエリア) に入った
長椅子に腰掛け、缶コーヒーを握り暖を取る
広く無人の駐車場に
バイクが入ってきた
それはずいぶんと古い型で
俺は懐かしさを感じていた
小さなPAだったので
バイクは俺の近くに停車し
ライダーは横の長椅子でメットを外す
「ちくしょう、急に降ってきやがって」
ライダーは星を隠す雨雲に悪態をつく
俺は思わず声をかけた
「おいアンタ、いいバイクに乗ってるな」
「ああ、いいバイクだろ」
「俺は昔、そいつの色違いに乗ってたぜ」
「ああ、そうかい」
ライダーは素っ気なく答え
手際よくレインウェアを着込んでいく
俺は何か話しかけたい気分だったが
なぜだか言葉が出なかった
ライダーは再びメットをかぶると
バイクにまたがりエンジンを回す
「なあアンタ、もう行くのかい」
「ああ、行かなくちゃなんねえんだ」
「雨はまだ、止みそうにないぜ」
「ああ、そうかい」
ライダーは素っ気なく答え
走り去る前に
俺にひとこと
言い残して行った
「なあ、そのバイク、本当に色違いだったのかい?」
路面の水溜まりを飛沫に変えて
赤いテールランプは遠く走り去っていく
俺は缶コーヒーを飲み干し
ゆっくりと立ち上がる
今のは、亡霊
若き日の、俺
俺は車に乗り込み
PAを出て車を走らせる
雨は止まないが、雨宿りは終わりだ
俺は
俺たちは
走り続けるしかない
生きるとは、そういう事なのだから




