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両捕食者


僕には時間が無かった。


捜査の手が及ぶ前に早く次の作品に取り掛かる必要があった。

自由なうちに早く作品を作り上げたい、そんな気が急くようなソワソワした気持ちさえも僕は楽しんでいた。


先日の余韻を残したまま、次のモデルを探す為に夜の街へ出た。

一生行く事は無いと思っていた場所、クラブへと向かう。


店の扉を開けた瞬間、遠くに感じていた音が向かい風のようになって体を覆う。

機械的な音の圧にズンと肩が重くなる。

自分とは対照的なその空間に、体が拒絶するのを感じたが、僕は足を踏み入れた。


週末の夜とあって、多くの若者で賑わう店内では張らせた声が爆音の隙間を縫って飛び交っている。


そんな騒音の中で一際大きな声で騒いでるグループが居た。

男女5人のそのグループは、丸いバーテーブルを囲って酒や電子タバコを蒸している。


じゃれあいながら腕に噛み付いたり耳を噛んだり、さらには眼球舐めをして騒ぎ、周囲の呆れの視線を集めていた。

店全体の雰囲気をそのグループが引っ張っているかのようにも見えたが、人々の目は“悪ノリ集団”を見る目でもあった。


テーブルに手を着いてカエルのようにぴょんぴょん跳ねたりする彼らの行動は酒による物では無い、アッパー系の薬をやっているのだと僕は感じていた。

正気というリミッターがあるなら、彼らはそれが外れ掛かっているからだ。


僕は飲みもしないお酒を傍に置いてカウンターに座り、人々を観察していた。

スケッチブックの代わりに、この情景を脳裏に焼き付ける為に。


店内の音楽が縦ノリから横ノリの物へと切り替わる。

多くの人がはフロアから離れ、水分補給へと向かう。

フロアにはカップル達が体を寄せ合い揺れる中、1人で飛び跳ねている女の子がいた。

ジャラジャラとアクセサリーを浮かせ、ヒールを床に叩き付けながら不安定に飛んでいる。

踊り狂うその顔は、心ここに在らず、と言う言葉が相応しい表情をしている。

僕はカウンターに座りながら、彼女の様子を見ていた。


彼女は先ほどの“悪ノリ集団”の1人だ。

他の仲間は潰れて床に座り込んでいる。


周囲はその子と距離を取り、敬遠していた。

周りも気付いたのだろう。

リミッターが外れてると。


その女の子はヘソ出しの小さなチューブトップを着ていて、連続して跳ねていたせいでそのトップスが下がり、胸が露わになってしまった。

彼女は気付いていないのか踊り続けている。


周りの人達はクスクスと笑うだけで、指摘する様子を見せていない。


僕は椅子から立ち上がり、近くにあった誰かのカーディガンを手に取ると彼女に近付いた。


後ろからカーディガンを掛けると、え、と小さな声を上げ、人間の表情に戻る。


「きゃー、やだ、嘘、なんで!?」

瞬時に自分の状態に気付いた彼女はその場に蹲る。


僕は手を差し出した。

「大丈夫?」

店に馴染む為に縛った髪の後毛おくれけが1束、顔の前でぱらりと揺れる。


僕と目が合うと女の子は下唇を噛んで目を細めた。

僕も良くやる仕草だ、笑いを噛み殺す時に。


彼女は手を取ると立ち上がり、そのまま2人で店の外に出た。


「もぉ〜めっちゃ恥ずい、最悪」

そんな事を独り言のように言いながら服を直している。

その間、僕はフェンタニルの入った小袋に親指を入れて、ほんの少量、付着させた。

ミネラルウォーターを開けた時に飲み口に塗り付けるために。


彼女は振り返ると不意に僕の肩に手を乗せて唇を重ねてきた。

そしてべろりと唇を舐められる。


「私、優しい人大好き、ねぇ、お礼させて」

上目遣いで僕を見ながら甘えた声を出す。


僕は歪みそうになる顔を必死に抑えた。

そして、絶対にこの子を家に連れ帰ってやる、と胸に念が込み上げる。


僕は彼女の顎を掴むと口を開き、指を突っ込んだ。

「じゃあ、車まで歩いて?」


すると彼女は挑発するような微笑み浮かべると指に舌を絡めた。


もう、ミネラルウォーターを飲ませる必要はない。



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