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7.我輩、ぶいちゅうばぁになる!

 ……要約すると、こういうことらしい。


「つまり、布団を押し入れに片付けようとしたらモニターとパソコンを見つけたと」


「そうだ!」


 俺の問いにミサは胸を張ってドヤ顔。

 何がそんなに自信満々なのか、全く分からん。


「で、電源の付け方とか何も分かんなかったけど、その辺は神の力で付けたと」


「ふふん、どうだ凄いだろう? 我輩は、もにたぁに勝ったのだ」


 今度は鼻を鳴らして得意げ。

 モニターに勝利宣言をする神とは……果たしてそれはほんとに誇らしいことなんだろうか。


「で、なんか触ってたらYouTubeを開いてて、おすすめに出てきたVtuberのライブを見ていたと」


「うむ、そのぶいちゅうばぁとやらがなんとも眩しくてな。流石、我輩と同じ神の位を持つ者だ」


 いいですかミサさん。そのVtuberがファンたちに神って言われているのは、あくまでも比喩表現です。あなたみたいに本物の神ではありません。


「……で、そうやってVtuberを神と勘違いして、供物料として10万円スパチャしたと」


「ふっ、感謝の言葉はいらぬぞ。当然のことをしたまでだ」


「そうかそうか…………感謝なんてするかぁぁあああああ!!」


 相変わらずドヤ顔を辞めないミサに対して、俺は思わず叫んでしまった。

 ……お隣さん、ここ2日間本当に申し訳ありません。


「な、なんだ急に叫んで……感謝の言葉はないのか!」


 俺の魂の叫びを聞いたミサは目を丸くしている。


「あるわけないだろ!? お前バカか!?」


「なっ! 神にバカとは無礼だぞ!」


「バカ以外の何者でもねえよ! お前が使ったのは来月の生活費全部だぞ!?」


「それの何が問題なのだ!」


「まずお前に飯を食わせることができないんだよ!」


「……は? ん? はぁ……!?」


 事の重大さを段々と理解してきたのか、ミサの顔がみるみる青ざめていく。すると、ミサの表情に連動するように、部屋の空気が徐々に冷えてきた。これも神の力なのか……?


「だーかーら、今日の野菜炒めが最後の晩餐だ」


「ぐはっ……!」


 そんなことお構いなしに、俺はミサにとどめを刺した。


「やっと……やっと、まともな食事にありつけるようになったというのに……それを我輩は自分で手放したというのか……?」


「自業自得だ、反省しろ」


「ひどいぃぃぃっ! 貴様いじわるだぞ!」


 ミサは涙目になりながら、ぷくっと頬を膨らませて抗議してくる。……ちょっとかわいいな。昨日まであった神の威厳はどこに行ったんだよ。


「お前……そうやってかわいい顔したら俺が許すと思ってるだろ? 今日の俺はそんな甘くないぞ」


「そ、そんなぁ……我輩、ここ最近はお腹も空いて、涙も枯れ果て……」


「枯れ果てたのは俺の財布だよ」


「うぅ……」


 自分が取り返しのつかないことをしたとようやく理解したのか、ミサは力なくぺたんと床に座り込んだ。


「……ふっ、ふふふふふふ」


「ミサ……?」


 かと思えば、ミサは急に目を細めて笑い始めた。……なんだろう、とてつもなく嫌な予感がする。俺の第六感がミサを止めろって訴えかけてきている。


「な、なあ、俺もちょっと言い過ぎたよ。お前が反省してるなら俺もこれ以上は……」


「我輩……閃いたぞ!」


「閃かなくていいから! 絶対ろくなこと閃いてないだろ!」


 ミサはさっきまで親に怒られた子供みたいに落ちこんでいたが、今度はいたずらを思いついた子供のように不敵な笑みを浮かべている。


「我輩、ぶいちゅうばぁになる!」


「…………はい?」


 ミサは何を言っているんだ? Vtuberになる?  ……いや、多分聞き間違いだろう。きっと、うに軍艦になるって言ったんだ。語感も似てるしな。なんだ、ミサはうに軍艦になりたかったのか~。


(……いや、もっと訳分かんねえな)


「だーかーら、我輩もぶいちゅうばぁになる!」


「なんでだよ!」


 聞き間違いじゃなかった。この神はVtuberになりたがっているんだ。


「一応聞くけど……動機は?」


「ふっ、ぶいちゅうばぁとやらは供物料を信者たちから捧げられるのだろう? 我輩は神だぞ? 現代のやり方に(のっと)り信者を作り、供物料をもらうことなど容易(たやす)いことだ」


 こいつはVtuberを何だと思ってるんだ。


「それに、我輩は今ちょーっとばかし信仰が足りぬ。我輩は信仰心を集める、貴様は供物料を貰える。双方にとって得があると思うのだ」


「なる……ほど?」


 ただ、後半部分はちょっとだけ説得力がある。曲がりなりにもミサは1000年以上生きている神だ。ここ最近は信仰を失ったみたいだけど、逆に言えばここ最近までは大勢の人に信仰されていたはずだ。そして、その信仰は現代で言うフォロワーだ。そう思うと、ミサがチャンネル登録者の多いVtuberを神だと勘違いするのも仕方がない気がしてきた。


(……もしかして、神ってVtuberに向いているのか?)


「どうだ、名案だろう?」


 何回目か分からないミサのドヤ顔。だけど、今日初めてこのドヤ顔が憎めない。

 ……でも、Vtuberは素人がすぐに始めれるほど甘くない。


「まあ、ミサの言いたいことは分かった。……だけど、Vtuberってのは色々準備が必要でさ、今日明日でなれるものじゃないんだよ。それこそ準備に数百万かかることもあるし」


 俺は言葉を選びながら現実を教える。目をキラキラさせているミサを、できるだけ傷つけないように。これは、人間の文化に興味を持ってくれたミサへの、俺なりの気遣いだ。


「隼人」


 ちょっと気まずくなって目を逸らしていた俺に、ミサは真っすぐ視線を向けてくる。


「我輩の辞書に不可能という文字は無い! 我輩に任せておけ」


 そう言ってミサはにやりと笑った。

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