嘘つき
「悠はさ、何か好きなものってないの?」
あれから一ヶ月。俺は京と仲良くなって、二人で遊びにいくまでになっていた。
「…いや…特に無いかな……」
「そっかー…あ、あそこ行こうよ!」
…ゲーセン?
「いいよ。あんまお金はないけど……」
大体2週間に一回は遊んでいた。
しかし、それは少しずつ変わっていった。
俺は運動が苦手だったので、京のサッカー部への誘いを断って科学部に入った。
下校時間が運動部と文化部で、大きく違うこともあり遊ぶ回数は、一時期かなり減っていた。
メッセージを送っても、「サッカー部の子に誘われている」と端的に断られていた。
そのまま夏休みが過ぎて、ほとんどメッセージもなくなり、彼はクラスの中心になっていった。俺は、そんな彼に話しかけることもできず…休み時間クラスの男子たちが話している中、自分の席で本を読んでいた。
「…凪野君…だっけ?」
その日本もを読んでいた時に、突然話しかけられた。
「…ん?…あぁうん」
「それって、今アニメ化されたバトル系のやつ?」
「そうだよ」
「僕も読んでんだよね」
「本当?結構小説版読んでる人少ないから話しづらいんだよね…」
「分かる。みんなコミカライズで読んでるからね…」
本当に珍しく会話をしたが、これ以降、彼と話すことはなかった。
その夜、一応入っていたクラスの男子チャットが盛り上がっていた。
『テストもおわったし、今週末遊びにいかん?いける人言って』
『おけ』
『どこ行くん』
『ショッピングモールとか行く?』
『りょ』
………このまま一年間…クラスメイトと関わらないまま終わるのは……嫌だ……
「俺も行っていい?」
チャットに長い沈黙があった。
……ダメ……なのかな……
『いいよ』
京から端的なメッセージが返ってきて、一安心する。
『土曜12時現地集合で』
土曜の12時。
現地に着くと京だけが来ていた。
「あ、悠おはよう」
「おはよう」
「あと、6人すぐ来るから」
「分かった」
その日は、8人でショッピングモールの中を巡った。
俺は流行も全く分からなかったけど、なんとか会話を合わせていた。
…笑顔で…自分の話をするよりも、人の話を聞くように…
ただ、クラスでの居場所が欲しかった。
本当は、この場にいたくないけど……
「また、このメンバーで行こうぜ!」
帰り際、京の話したその言葉に大きな安心感を覚えた。
出来上がった8人のグループラインが、自分がクラスの中のグループにいるという、わずかな安心感と優越感を俺に与えていた。
その後も、月1程で遊びに行くことがあり、カラオケやボウリングなどに行って、そこそこの仲を保っていた。
その月1での遊びとたまに話すということが、自分の中での「友達」がいるという命綱だった。
「悠〜明日8人でカラオケ行こー」
「うん!行こ行こ」
12月
その日は、運動部が部活がなく、科学部が生物実験の関係で活動がある日だった。
「凪野くん、カッター持ってきた?」
「あ…すみません…忘れたんで取ってきます」
「10分ぐらいで戻ってねー」
「分かりました」
化学室から真逆の自分の教室へと向かって歩いていった。
…?
中にまだ誰か残ってるみたいだ。
教室の外のロッカーでカッターを取りつつ中の声を聞いていた。
「…今日どうする?」
「カラオケでも行くー?」
…悠達……
「いいよ、俺暇だし」
「じゃいこーぜ…一回帰る?」
「俺、一回帰るから7人ラインに場所と時間送っといてー」
「…あれ、凪野は?」
「部活」
「丁度いいじゃん」
………その最後の京の言葉が…京の今までの笑顔などの記憶を壊していく。
「えー、そういえばあいつとなんで仲良くなったん?」
「えー…何となく?なんか、あんな奴ってトモダチのフリしたら面白いじゃんw」
「あー分かる分かるw」
「別に…あいつといても何も感じんしw…、別にいてもいなくても変わらんしw」
廊下を駆け出した
…何も考えたくない
……嘘だ…嘘だ…嘘だ………
涙がこぼれ落ちて、トイレの個室に駆け込んだ。
意識がしっかりとせず…自分の体をこのカッター切ってやろうかとすら考えた。
…僕は騙されていた。あの「嘘つき」に
…ただ、気づいた。悪いのは………人をこうも簡単に信じた「自分」であると。
後編は、28日土曜日の12時過ぎに更新します!