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第7話・お使いと晩御飯

「ふっふふっふ〜ん♪」


離れたところから、美月の鼻歌らしきものが聞こえてくる。

雪華はゆっくりと、ゴーグルを取り外した。


「う〜ん……」


大きく背伸びをしながら、雪華はベッドから上体を起こす。

首を回して時計の方を向くと、『16:03』と表示されていた。


「ふわぁ〜」


雪華はベッドから降りると、大きなあくびをしながらリビングに向かった。


リビングに入ると、キッチンに美月の姿が見える。

すると、雪華の気配に気付いたのか、美月が振り返って雪華の方を向いた。


「あ、お姉ちゃん。おはよー」


「ん、おはよ」


雪華は、美月に挨拶を返す。


「戻ってくるの遅かったね、もう4時だよ? あ、そうだ……」


美月は何かを思いついたような仕草をする。


(……悪寒がする)


「お姉ちゃんさ、お使い行ってきてくれない? 今日、千切りキャベツ持ってくるの忘れてたんだよね。あと、なぜか冷蔵庫に中濃ソースがないから、それもお願いね」


「………………」


「返事は?」


「……はい」


(ワタシ、お姉ちゃんのはずなのに……何で勝てないんだろう……)


雪華はなぜか、涙が出そうになった。

しかし、妹の頼みを断るわけにはいかない。

雪華は買い物に行く準備を始めた。


支度を済ませると、雪華は玄関に向かう。


「美月ー、買うのはソースとキャベツでいいんだよね?」


雪華は最終確認として、美月にそう尋ねる。


「いや、合ってるんだけど、お姉ちゃん……」


なぜか美月は呆れたような顔をしている。

雪華は頭にハテナを浮かべた。


「どうかしたの?」


「どうかしたのって……何でお姉ちゃんパーカーなんて着てんの?」


「おかしい? ワタシの服装」


「うん、おかしい」


美月に服装をおかしいと言われてしまう。

雪華は自分の服装を確認した。


ダボっとした黒のスウェットを履いて、薄めの生地の黒パーカーを着ている。

靴もシンプルな黒スニーカーで、首にはお気に入りのヘッドホンがかけてある。


どこもおかしな格好ではないはずだ。

ちなみに、ヘッドホンは外に出たらつける。


「今、5月だよね。暑くないの? それに、全身真っ黒だし」


「別にいいでしょ。それじゃ!」


「あ、ちょっと!」


雪華は美月の前から逃げ出した。

あのままだと、話が長くなった気がする。


結局、エレベーターに着くまで、雪華は走った。


「ふぅ……行こ」


エレベーターから降りると、雪華はヘッドホンを装備し、お気に入りのボカロを流しながら歩き出した。






買い物を終えた雪華は、家に向かって歩いていた。

突然、誰かに肩を軽く叩かれる。


雪華が後ろを振り向くと、目の前には1人の女性がいた。

胸元まで伸びた綺麗な茶髪の似合う美人で、少し不安そうな顔でこちらを見ている。

音楽を止めて、ヘッドホンを首にかける。


「あの、財布落としてましたよ」


そう言った女性の手には、雪華の財布が握られていた。

雪華はぺこりと頭を下げて、それを受け取る。


すると、女性の後ろの方から小さな声が聞こえてくる。


「うわーラブコメしてるよ、ゆり姉。相手めっちゃ美人さんじゃん」


「このまま流れでナンパしちゃいなよ」


「お前ら辞めとけ。後で姉さんに怒られるぞ」


彼女の後ろにいたのは、2人の女の子と、1人の男だった。

1人の女の子と男は容姿が似ているため、兄妹だと思われる。


「ごめんなさい、私の連れが……」


3人の会話が聞こえたことで、彼女はバツが悪そうに雪華に謝る。


「いえ、別に……財布ありがとうございます。では」


彼女にそう言うと、雪華は振り返って再び歩き出した。

ヘッドホンを付け直し、ボカロを再生する。


(綺麗な人だったなぁ……まあ、もう会うことはないだろうけど……)


そんなことを思いながら、雪華は帰り道を進んで行った。






『いただきます』


雪華と美月は、晩御飯を食べ始める。

テーブルには、雪華がお使いで買ってきたソースが置かれており、千切りキャベツはお皿に盛られている。


すでに外は日が沈み、真っ暗である。


雪華はソースを手に取って蓋を開け、晩御飯の主菜であるとんかつにかける。

その時、美月が喋り出した。


「そういえば、お姉ちゃんにキャラメイクのこと聞いてなかったっけ。どうだった?」


雪華はとんかつを箸で持ち上げながら答える。


「面白かった」


「……それだけ? 感想が幼稚園生から変わってない……」


「美月、その時まだ生まれて1、2年でしょ。覚えてるわけないじゃん」


雪華は口に入れたとんかつを飲み込むと、そう返した。


「いや、あくまで例えだから。何か他に感想ないの?」


美月も、とんかつを口元に持っていく。


「ん〜……あ、天使さんと少しだけ、どんぱちやったよ。天使さんの槍を一刀両断した」


雪華は自信満々な表情をしてそう言う。

その言葉を聞いた美月の箸から、とんかつがぽろっと落ちた。


「……? 美月、何で宇宙猫みたいな顔してるの?」


美月は口を半開きにしたまま、まるで思考が停止したかのような表情をしている。


「はっ! 脳が思考を放棄してた……」


「あ、美月帰ってきた」


少しして、美月が宇宙空間から帰還した。


「お姉ちゃん……なんで天使なんかと戦うことになるの……」


「え、それはね——」




〜〜説明中〜〜




「えぇ……どうしてそんなことになるのよ……ってお姉ちゃんが悪いんだろうけど」


「何で決めつけるの……」


「だってお姉ちゃんだもん」


美月は少し怒ったように頬を膨らませながらそう答える。


「それにしてもお姉ちゃん、よく戦えたよね。私がベータ版をプレイし始めた時なんか、剣をまともに振ることすら出来なかったから。周りもそんな感じだったし」


「そうなんだ。ワタシ、いつも以上に動けたよ? 久しぶりに全力で動けたから、すごく楽しかった」


雪華が嬉しそうにそう言うと、美月は納得したような表情になった。


「そういえば、お姉ちゃんってラノベっぽく言うと、リアルチートだもんね……」


「いつも力をセーブしてる」


「大変だね……お姉ちゃん」


「うん。たまにイライラしてくる。今日は少しだけど全力を出せて楽しかった」


その言葉に美月は苦笑いを浮かべる。


「そういえばさ、私が小学校1年生くらいの時だっけ? だからー、4年前かな?」


美月が懐かしそうに昔のことを話す。


「何かあったっけ?」


雪華も思い返してみるが、特に何かがあったような記憶がない。


「私とお姉ちゃんのことを襲おうとした男4人を、私が『もうやめようよ!』って止めるくらいまで、お姉ちゃんがボコボコにしたこと」


確かにそのくらいの時期に、男たちが美月のことを襲おうとしたから返り討ちにした記憶はある。

結果としては、雪華の圧勝に終わり、相手側の全員が全治8ヶ月の大怪我を負うことになった。


「そんなこともあったねー」


「いやいやいやいや! 何でそんな軽いの! お姉ちゃんもその時まだ小4でしょ!」


「そうだっけ?」


雪華は惚けたようにそう言う。


「……お姉ちゃん、もうご飯作りに来な——」


「それだけは勘弁してください……」


「……よろしい」


こんな会話をしながら、今日の食卓は過ぎていった。

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