第6話・銀色の槍、短剣
「というわけで、今から貴女には戦闘を行ってもらう。もちろん装備は与えるさ、どんなのがいい?」
天使がそう尋ねると、セレネの周囲に多種多様な武器が現れ、回り出した。
片手剣と盾に、両手剣、短剣に斧にメイス、ナックルに槍に弓、そして刀などがある。
セレネは、その中の1つを手に取った。
「ほう? 短剣にするのか」
セレネは、手に持った短剣を眺めながら頷く。
「それじゃあ次は防具を——」
「いらない」
セレネは天使の言葉を遮って言う。
「……面白い。いいじゃないか」
天使が言葉を続ける。
「これで装備は決まりだな。そしたらあとは、どんなモンスターを出すかなんだが……」
その言葉を聞いたセレネは、天使のことを指差した。
「どうした? 私のことを指差したりたりして?」
天使は不思議そうにしながらセレネに問いかけてくる。
だからセレネは、強く、言い切った。
「ワタシは、天使さんと、戦いたい」
その言葉に、天使は大きく目を見開いた。
「………………」
「………………」
お互いに無言の時間が続く。
天使が、指をパチンと鳴らした。
そのままゆっくりと目を瞑る。
唐突に、セレネは閃光に襲われた。
セレネはあまりの眩しさに、天使と同じように目を閉じた。
少しして、天使の声が聞こえる。
「待たせたな、セレネよ」
その言葉に、セレネはゆっくりと目を開ける。
セレネの視界に映ったのは……
純白の鎧を装備し、右手に銀色に輝く槍を持った、天使だった。
天使が、槍の先をセレネに向ける。
「さあセレネよ……いつでもかかって——」
天使が言い終わるよりも早く、セレネは地面を蹴り上げた。
静寂に包まれていた闘技場に、金属がぶつかり合う音が響く。
「ははっ! なんて速さをしてるんだ!」
セレネが全力で斬りつけた短剣を槍の柄で防ぎながら、天使はそう叫んだ。
短剣が力づくで押し戻され、セレネは宙に飛ばされる。
すぐさま刃が迫るが、空中で腕を振るい、攻撃を弾いた。
セレネが地面に着地すると、天使が口を開いた。
「まさかこれほどまでとは……」
銀の槍がセレネに向けられ、輝きを増す。
「さあ、楽しもう!」
そう言うと、天使は全力で駆け出した。
続けて、セレネも短剣を構え、地を蹴る。
再び、短剣と槍が空間を震わしながらぶつかり合う。
火花が飛び散り、お互いの刃が弾かれる。
(………………楽しい!)
全力で振るう短剣が、何度も天使の槍とぶつかり合う。
キーン!
セレネの短剣が大きく弾かれた。
「ふっ!」
すぐに短剣を左手に持ち変え、追撃するが、天使が振るった槍に防がれてしまう。
セレネは脚を上げ、天使を蹴り飛ばそうとする。
「ッ!」
蹴りは天使の腹部にあたり、天使が少しバランスを崩す。
(今だ!)
セレネは天使に向かって飛び込み、短剣を振り下ろす。
先ほどよりも大きな金属音が反響し、セレネの体は反動で上空へと打ち上がった。
しかしながら、天使も反動で大きく体がぶれる。
その様子を見たセレネは、空中で瞬時に体を翻した。
そして、一言呟く……
「『空蹴』」
セレネが思いっ切り蹴ったことで、空気が大きく振動する。
天使目掛けて、セレネは落雷の如く降下する。
そして……
短剣が地面にまで振り下ろされた……
「まさか……私の槍が綺麗に斬られてしまうとはね……」
天使は、見事に真っ二つになった槍を片手に持ちながら、「とほほ……」と惚ける。
「あはは……」
自らが振り下ろした短剣が、スパッと槍を切断したのを思い出したセレネは、思わず苦笑いをした。
「あ、そういえば……」
ふざけた仕草をしていた天使が、何かを思い出したかのように呟く。
「貴女、『空蹴』をちゃんと使えてたな。遥かに予想を超えた強さだったばかりに、すっかりそのことが抜けていた。元々はスキルを試すための勝負だったな」
「……忘れてた」
『ふふふっ』
どちらもが元々の趣旨を忘れていたことが可笑しくて、2人して笑ってしまう。
「ふぅ……それじゃあ、これで転移する前の事前準備は終わったな。この世界の惑星ーアルカディアへと転移することが出来るのは、貴女の世界で、明日の午前9時だ。というわけで、今日は解散なんだが……せっかくだし、もう1杯、紅茶を飲んでいくか?」
その問いかけに、セレネは力強く頷いた。