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年越しSS

チク……タク……チク……タク……


無駄に広く、薄暗い部屋に、時計の針が鳴らす音が静かに響く。

そこには人っ子1人いない……わけではなく、1人の少女がソファに深く座っていた。


「……もう、こんな時間……か」


少女はそう呟くと、無慈悲にも進んでいく時計をぼーっと眺める。


あと数時間もすれば今年も終わるというのに、少女は誰かが自分を訪ねてくるのを心待ちにしていた。

特に今日、年越しを共に過ごそうと約束をした、というわけではない。

しかしながら彼女は、確実に来てくれると信じ切っていた。


それは彼女がただただ盲信しているだけなのか……深海のように深い彼女たちの姉妹愛からなるのか……






半刻ほど経つと、少女のほとんど動かない表情にも、陰りが見えるようになる。

次の瞬間、静かな部屋にインターホンの音が響き渡った。


ソファから降りた少女は、ゆっくりと玄関の方に近づいていく。

歩みは眠気からかたどたどしいが、目には輝きが戻っていた。


ドアノブに力を込めて、扉を開く。

その先にいたのは、いくつかの荷物をかかえた――


「お料理をお運びしました〜……それじゃあ楽しも? お姉ちゃん!」


少女――雪華(せつか)の妹である美月(みづき)が、そこにいた。


小さく笑みを浮かべた雪華は勢いよく美月の手を掴むと、そのまま家の中へと引っ張っていく。


「ちょ!? お姉ちゃん家の鍵閉めないと! お、お姉ちゃーん!?」


ドタバタと足音を立てながら、2人は家の中に入っていった。






2人が向かい合うテーブルの上には、寿司やピザなどといったパーティ向けの料理が並べられている。

先に美月が口を開いた。


「それじゃあ、せーの……」


『今年もありがとう! 来年もよろしく!』


2人が声を揃えてそう叫ぶと、クラッカーの破裂する音がダイニングに響き渡った。


「それじゃあ食べよっか、お姉ちゃん」


美月にそう言われて、雪華はこくりと頷く。


「何から食べようかな〜。うーん、まずはお寿司で……マグロにしよっと」


美月がマグロを取り終わるのを待つと、雪華も寿司桶に箸を伸ばした。

そうして掴んだのは……サーモンだった。


「お姉ちゃんやっぱりサーモン好きだねー」


「……そうだね。好き」


そう言うと、雪華は小さく口を開けて、その中にサーモンを放り込んだ。


「次は何にしよーかなー? よーし、いくら!」


美月は、何を選ぶか悩むと、今度はいくらを箸で持ち上げた。

それと同時に、雪華も無言でサーモンを選んだ。


「ん〜! いくらも美味し〜!」


2人とも口を休めることなく動かす。


今度は美月は、ピザを手で掴んだ。

チーズが美味しそうに伸びて、それを見た美月は目をキラキラとさせる。


そんな美月の様子を見ながら、雪華は再びサーモンに手を伸ばした。


「ちょっとお姉ちゃん! サーモンばっかり食べ過ぎー! 私も食べたいから残しといてよね!」


美月にそう言われた雪華は、口の中に残っていたサーモンを飲み込んでからただ一言呟く。


「……やだ」


雪華はそのまま、箸を動かしてサーモンを掴んだ。

箸を口に持ってこうとすると、美月が雪華の手を叩いた。


「なんでさらっともう1個食べようとしてるの!」


「……もう、別にいいじゃん。サーモンくらい」


「もっと他のもの食べない!? こんなにいっぱいあるのにまだサーモンしか食べてないよお姉ちゃん!?」


そんなことを話しながら、2人はどんどんと食べ進めていった……






「ふぅ……お腹いっぱいだね、お姉ちゃん」


「うん」


無事にたくさんの料理を完食した2人は、ソファに座ってテレビを付けていた。

流れているのは、人気Vtuber事務所の年越し配信である。


「姉妹で年越しする時って、普通こういうの見ないと思うんだけど……」


「しらない。美月はともかく、ワタシは普通じゃないし」


「うーん、そういうことじゃ……」


しかし美月は諦めたのか、途中で話すのをやめてテレビに目線を向けた。


そして、ちらっとだけ雪華の方を見る。

いつも通りの無表情であるが、明らかに配信を楽しんでいるのがわかった。

そんな雪華の様子を見て、美月は嬉しそうに笑顔になる。


美月は改めて、雪華の妹として生まれて来れたことを喜んだ。






「もう年越しだね〜」


美月はそう言うと、壁にかけられているアナログ時計に視線を向けた。

時計の短針は12時ギリギリを指しており、長針が少しずつ12時に近づいていく。

あと数分もすれば、今年も終わりである。


「……美月」


「うん? どうしたのお姉ちゃん」


「……今年も、ありがと」


美月の方も見ずに雪華がそう言うと、美月はにっこりと微笑んで言葉を返した。


「こちらこそだよお姉ちゃん。今年もありがとね」


雪華は、小さく微笑んだ。

それを見た美月は、さらに嬉しい気持ちになったのだった。






そしてついに、長針が12時を指した。

遠くから、除夜の鐘の音が聞こえてくるような感じを覚える。


「お姉ちゃん。あけましておめでとう! 今年もよろしくね!」


「美月、あけおめ。今年も、よろしく……」


2人は互いに言葉をかけると、ゆっくりと距離が縮まっていく。

美月が腕を伸ばすと、雪華はそのままぎゅっと抱きしめた。


「お姉ちゃん、あったかい」


雪華は、ふふっと笑みをこぼす。


――今年もどうか、2人とも無事に過ごせますように……


2人はそんなことを願いながら、ゆったりと時間は過ぎていった……

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