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第11話・二兎を追う者は一兎をも得ず、とは弱者に限る言葉

「そういえばさ……」


いつのまにか周囲に人がいなくなっていたほど進んでいた時、セレネは口を開いた。


「ナビィはいつまでいるの?」


「いつまでって……セレネちゃんがチュートリアルをクリアするまでだよ!」


「あ、そうなんだ」


「なんでそんな他人事なの!?」


そんな会話をしていると、ふと、セレネは足を止めた。


「セレネちゃん? どうかした——」


言い終わるよりも早く、セレネは振り返ってナビィの方に向かって蹴りを放つ。

足に衝撃を感じると、甲高い悲鳴が辺りに響いた。


「なにしてんの、ナビィ」


セレネは、両手で頭を抱えながら小刻みに震えるナビィに声をかける。


「あれ……? わたし生きてる……」


ナビィは顔を上げながらそう言った。

自分の体を何度も確認している。


セレネは、無言でナビィの背後に向けて指差した。

そこにいたのは、真っ赤な瞳でこちらを睨みつけてくる、白い毛で覆われた動物だった。

頭には、長い耳がついている。


「って、うさぎじゃん」


「わー!? モンスターだー!」


ナビィが騒いでいる横で、セレネは冷静に鑑定をする。


———————————————

《鑑定》

ネーム:――

種族:蹴りウサギ

分類:魔獣種

性別:オス


『草原でよく見かけるモンスター。オスよりもメスの方が耳が長い』

———————————————


「どうでもいい情報……」


セレネは短剣を構え直しながら、そんなことを呟く。


一瞬の構えの後、蹴りウサギは勢いよくこちらに突っ込んできた。

さっと身を逸らしてウサギの突進をかわすと、セレネは素早く短剣を振るった。

首に当てられた刃は、抵抗もなく滑ってその頭を落とした。

頭を失った首からは赤黒い鮮血が滴れている。


「うーん、たわいもない。こんなに弱くていいの? それにしても、血の描写がすごくリアル……」


セレネがそう呟くと、蹴りウサギに怖がって離れていたナビィが、戻ってきて言葉を返す。


「ここは異邦人のみんなが初めてモンスターと戦う最初の場所だよ? そんな強かったら大変でしょ」


「まあ確かに。これくらいがちょうどいいのかもね」


そんなことを言いながら短剣をアイテムボックスに仕舞うと、既に跡形も残っていない蹴りウサギのドロップアイテムを取りに動いた。


「うわぁ、生肉じゃん」


セレネの視線の先に落ちていたのは、真っ赤な色をした、新鮮そうな生肉であった。

しゃがみながらそれを指でひょいっと持ち上げると、セレネは顎に使っていない方の手を当てて、軽く唸る。


「これ、ウサギ肉……だよね? 地面に落ちてたけど、衛生的によろしくないんじゃ……」


セレネは摘み上げているウサギ肉と思わしき物に鑑定をした。


———————————————

《鑑定》

アイテム名:生の蹴りウサギ肉

分類:食材

等級:コモン

属性:無

状態:新鮮


〈効果〉

特に無し


『蹴りウサギから取れた肉。狩りやすい上にある程度美味しいため、人気な食材』

———————————————


鑑定を見終わったセレネは、無言で肉をアイテムボックスに放り込んだ。


すると、新たに3体ほどの気配を後ろに感じた。

振り返るとそこには、可愛らしい姿をしながらもこちらをギラギラとした目で睨んでくるウサギがいた。


開いたままだったアイテムボックスから短剣を取り出し直すと、セレネはもう片方の手でおいでおいでとジェスチャーし、ウサギたちを挑発した。

それは効いたのかはわからないが、3体のウサギはセレネに向かって勢いよく飛び出してきた。


それを後ろにステップして避けると、1番近くにいたウサギを蹴り上げる。

蹴りは見事に顎に直撃し、ウサギは空中に飛ばされた。

宙に浮いて無防備な胴体を、そのまま蹴り飛ばした。


左から近づいて来た気配を察知して、腕を動かして鷲掴みにする。

驚いたような悲鳴が、セレネの左手に掴まれているウサギから聞こえた。


「おっと」


今度はさっきよりも速いスピードで突っ込んできたので、躱してから短剣を振るい、目の前を通るウサギの首を刎ねた。

力なく地面に落ちたウサギの死体は端の方から黒くなり、灰となって消え去った。


そして、左手を強く握って首の骨を折ると、もう1匹のウサギも同じように灰となった。


(モンスターによって、死亡エフェクトに違いがあるんだ、へぇ)


先ほどのスライムのことを思い出しながら、セレネはそんなことを考えた。


「って、ナビィは?」


辺りを見渡してもナビィの姿が見えない。

どこに行ってしまったのだろうか。


少しすると、離れたところにふわふわと浮かぶナビィの姿が見えた。

そして、何やら1枚の布のようなものを持っていた。


「よいしょ、よいしょっと。ふぅー、やっと着いたー!」


「ナビィ、それなに?」


セレネの元まで辿り着いたナビィが持っていたのは、灰色の皮のようあった。


「セレネちゃんが蹴っ飛ばしたウサギさんが落としたアイテムだよ!」


「そういえば……」とセレネは記憶から抜け落ちていたウサギのことを思い出した。


「軽く蹴っただけなんだけど……さすがに脆くない?」


「セレネちゃん、あの蹴りは全然軽くなかったよ。ウサギさんが少しかわいそうだったよ」


そこまで全力で蹴った覚えのないセレネは、首を傾げた。


少ししてから、ナビィの持っていたウサギの皮を受け取り、アイテムボックスに仕舞う。

そのまま、足元に落ちていた2つの生肉を拾って同じように仕舞い込んだ。


「それにしてもさ……ウサギしか居なくない?」


「うーん、ここはウサギさんの縄張りなのかもね!」


その答えに対して若干納得していたセレネは、唐突にナビィの方を向いて否定した。


「ナビィ、残念だけど……ウサギ以外もいるみたい」


「そうなの?」


セレネは遠くの方を見つめる。

そこから現れたのは、灰色の体毛に覆われた生き物だった。


短剣を構え直して、睨みつける。

その生物と目が合うと、伸びている牙がギラついたように見えた。


(『鑑定』)


———————————————

《鑑定》

ネーム:――

種族:レッサーウルフ

分類:魔獣種

性別:オス


『主に森林に生息する魔獣。稀に、獲物を求めて森から出てくることがある』

———————————————


レッサーウルフは、こちらを見つめながら唸り声を上げる。


「まあ、敵じゃないけどね」


セレネが地面を蹴ると、レッサーウルフの目の前にまで迫っていた。

レッサーウルフが驚愕した声を上げる。


次の瞬間、レッサーウルフは首を失い、そのまま地面に倒れた。

小さく息を吐いて、構えを解く。

レッサーウルフの死体は、ウサギと同じように端から灰になっていく。


「魔獣種はどれも同じ消え方なのかな。さて、ドロップアイテムを確認しよっと」


死体のあった場所に落ちていたのは、1本の牙であった。


———————————————

《鑑定》

アイテム名:レッサーウルフの牙

分類:素材

等級:コモン

属性:無

状態:良質


〈効果〉

特に無し


『レッサーウルフが落とした牙。牙は1年の間に1、2回生え変わる』

———————————————


(すごいいらない雑学……)


「すごーい! そうなんだ!」


セレネが鑑定結果に呆れている中、ナビィは素直に驚いていた。


「……それじゃあ、そろそろ戻ろうかな」


牙と短剣をアイテムボックスに入れると、そう呟いた。


「やっと戻るの! これでチュートリアルが進められるよー!」


セレネの呟くを聞いたナビィは、自分の役割をやっとこなせると喜びの表情を浮かべたのだった。

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