第10話・初めてのモンスター、そして戦闘?
だいたい10分ほどメインストリートを進んで行くと、先の方に町を囲う石造りの外壁、そして門が視界に入った。
そのまま進もうとすると、ナビィが声をかける。
「ちょっと待って! 町の外に出る前に、寄らなくちゃいけないところがあるの!」
その言葉を無視して、セレネはずんずんと先を歩いていく。
すると、ナビィはセレネの顔の前で腕を広げて止まった。
「なんで止まってくれないの!」
「……早く体を動かしたい」
「む〜!」
だるそうに返事をするセレネを、ナビィは腕を組んで睨みつける。
次の瞬間、セレネは目にも止まらぬ速さで右手を動かし、ガシッとナビィをわしづかみにした。
「んー! んー!」
「ごめん何言ってるかわからない。だからもう行くね?」
そう言うと、セレネは右手を胸の前に持っていき、さらに左手で掴む。
そのまま少し早歩き気味になりながら、門の方へと進んでいった。
「うわー、すごいなー」
門の外に広がっていたのは、遠くまで続く平原だった。
心地の良い風が吹き、草花が揺れている。
辺りにはたくさんの人がいて、それぞれ武器を携えている。
そして、目の先には小さな青色の丸っこいのがいる。
「……なにこれ?」
セレネはゆっくりと近付き、その場にしゃがみこんだ。
青色の丸っこいのはセレネのことを気にすることなく、プルプルと震えながら草の上を少しずつ進んでいる。
「んー! んー!」
「あ、忘れてた」
セレネが手を離したことで、囚われていたナビィが勢いよく翅を動かして飛び出した。
そのままセレネの周りを数回くるくるした後、目の前でストップした。
「なーんでずっと離さなかったのー!」
「ごめん、普通に忘れてた」
「ふんっ! まったく、わたしの扱いが雑なんだから! もっと優しくしなさいよ!」
ナビィは唇をツンとさせながら、腕を組んでそっぽを向いている。
セレネは小さくため息をつくと、青色の丸っこいのに視線を戻した。
(『鑑定』)
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《鑑定》
ネーム:――
種族:スライム擬き
分類:魔物種
性別:――
『危険性は一切ないモンスター。ペットとしての人気もある』
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「スライム……擬き……?」
「ふっふっふ。それじゃあわたしが説明しよう!」
(なんか始まった……)
「スライム擬きとは、魔物種の代表的なモンスターのスライムに見た目が似ているけど、全くの別物であるために付けられた名前なのだー!」
「いや、それくらいはわかってる」
セレネの言葉のズバッと切られたことで、ナビィは空中で膝をついたような姿勢になった。
そのまま倒れ込んでがっくしと頭を垂れる。
「しかも、いつのまにカンペなんか持ってたの……」
項垂れているナビィの右手には、小さな紙切れが握られていた。
そこには、よーく目を凝らして見ると先ほどナビィが話した説明と同じ文章が書かれていた。
「それで、この分類に書いてある魔物種ってなに?」
「えー……めんどい」
「もうナビゲート妖精辞めちまえ」
「ひどいっ!?」
ナビィのあまりの適当さに、思わず暴言が飛び出る。
顎に手を当てて悩むような仕草を少しした後、ナビィはゆったりと喋り出した。
「ん〜とね、説明が難しいんだけど……まず、モンスターは魔種っていうまとまりで、その魔種の中にたくさんの種類があるの。その種類の1つが魔物種なんだよ」
「へー、そうなんだ」
「え? もしかして興味ない?」
ナビィの説明に対して雑に返事をした後、セレネは頭の中で呪文を唱えた。
(『アイテムボックス』)
すると、セレネのすぐそばに黒い渦が発生し、空間に穴が生じた。
穴の先は真っ暗であり、まるで深淵のようである。
(え、この中に手を伸ばすの?)
セレネは眉ををひそめ、不快感を露わにした。
恐る恐る先の見えない穴へと右腕を伸ばし、その中に手を突っ込んだ。
「あれ? セレネちゃん、おーい」
完全に手が穴の中に入った瞬間、セレネの頭の中にイメージが浮かんだ。
それは、アイテムボックスの中に収納されているアイテムの一覧である。
しかしながら、今現在で収納されているのは、天使から渡された短剣のみである。
セレネは短剣を掴むイメージを浮かべると、何かを握ったような感触を感じた。
急いで穴から手を抜き取る。
すると、その手にはしっかりと短剣が握られていた。
少しの間、短剣を眺めていると、体勢を直してから右腕を振るった。
刃が振るわれ、空気を切り裂く音が聞こえる。
その後も何回か短剣を振るうと、セレネは満足してナビィの方に向き直った。
「え……すご……かっこいい!」
ナビィは、セレネの短剣捌きに圧倒されていた。
セレネはナビィを馬鹿にするように鼻を鳴らすと、スライム擬きの方に近付いた。
短剣を持った状態で限りなく近付いても、スライム擬きは呑気にプルプルと震えている。
右腕を振り上げて、狙いを定め……
「えいっ」
短剣を振り下ろした。
刃は、スライム擬きの体をなんの抵抗もなく貫通して地面に突き刺さる。
すると、弱々しくプルプルと震えた後に、スライム擬きは溶けるように水になって草を濡らした。
そしてその場には、手のひらサイズの小瓶が残された。
「ほえー、これがドロップアイテム……」
セレネは軽く感動しながら、小瓶を持ち上げた。
瓶の中は、不透明な水色の液体で満たされており、コルクによって蓋がされている。
「ふーん……なにこれ」
「こういうときの鑑定だよ!」
ナビィに言われて、セレネは鑑定を使った。
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《鑑定》
アイテム名:スライム水
分類:素材
等級:コモン
属性:無
状態:――
〈効果〉
特に無し
『スライム擬きから入手できる液体。錬金術などの基礎的な素材になる』
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鑑定結果を見たセレネは、最後の文章に注目した。
「錬金術……まあファンタジーの定番だよね」
それだけ呟くと、セレネは持っていた瓶をアイテムボックスに仕舞った。
ゆっくりと立ってから体を伸ばすと、右手にある短剣を握り直し、再び草原を進み始めた。




