第1話「側近はつらいよ」
戦いヶ原決戦場。
ついに最終決戦の時を迎えていた。
勇者パーティと魔王が対峙している。
勇者「私は勇者だ! 今こそ魔王、滅亡の時は来た。」
魔法使い「私の魔法に勝てるかしら。」
ドワーフ「どんな物理攻撃にも耐えて見せる。」
ヒーラー「怪我ならおまかせ。いつでもどこでも24時間。」
魔王「何を言う。我こそが魔王。この世を支配するのは、魔王であるこの私だ。」
緊張感が支配し、戦いの意思がぶつかり、バリバリと空気を揺るがす。
次の瞬間、双方から小さな女の子がそそくさと歩み寄り、ちょうど中間地点で止まる。
ユニ「あ、どうも。勇者の側近のユニです。」
ゾン「こちらこそ、どうも。魔王の側近のゾンです。」
ユニ「で、戦い方はいかがいたしましょう?」
ゾン「はい。私のクライアントである魔王は、勇者との一対一のガチバトルを望んでいると。」
ユニ「そうなんですか?」
ゾン「はい。勇者たる物、一対一でないと卑怯ではないかと、かねがね。」
ユニ「うーん、そうすると弊社パーティの他のメンバーはいかがいたしましょう?」
ゾン「ベンチ入り、と言う事で。」
ユニ「しばらくお待ちください。」
ユニ、勇者側パーティに戻り、ごにょごにょと耳元に伝える。
勇者「おう。わかった。わりーけど一対一になった。みんなは背後で戦いを見てくれ。」
魔法使い「えー。でも報酬は約束通り1/4ですよ。」
ドワーフ「やったぜ! ベンチから応援か。よかったよかった。身体のあちこち痛てーし。」
ヒーラー「ま、私はいつも後ろから応援だから、変わりませんね。」
勇者パーティの意見がまとまったところで、側近が元の位置に戻る。
ユニ「魔王のご提案、承知いたしました。」
ゾン「ありがとうございます。では、決着はどうしましょう? 死亡確認後? あるいはマイッタとの宣言で?」
ユニ「う〜ん、私たちどうしましょう? 負けた方の側近が勝った側の側近いつくパターンは?」
ゾン「う〜ん、それはコンプライアンス的にどうかと。八百長と思われても、あれですし。」
ユニ「じゃ、引き分けは?」
ゾン「う〜ん、お互いが睨み合い動けなくなって3分経ったら、引き分けとういことで。」
ユニ「時間はお互い測る?」
ゾン「ですね。」
ユニ「承知しました。」
ゾン「では戻って、戦いを始めましょう。」
しゅばしゅばしゅば!
とーん!
がきーん!
ぶつかり合った肉体による接触攻撃が展開される。
ばき!
ボコ!
ばきーん!
接近戦を展開する勇者と魔王。だがその力は互角である。
勇者「はあはあはあ。」
魔王「はあはあはあ。」
勇者と魔王は肩で息をしてお互い睨み合い拮抗する。
ぴゅ〜っっと風が吹く。
ユニ「待った!」
ゾン「待った!」
ほぼ同時にそれぞれの側近が手を上げる。
勇者と魔王が睨み合うちょうど中間地点にそそくさと歩み寄る双方の側近。
ユニ「引き分け、ですかね。」
ゾン「ですね。」
ユニ「そちらの時計は睨み合って3分たちました?」
ゾン「私のは3分5秒ですね。」
ユニ「私のはも分5秒。あら、同じですね。どちらの時計をお使いで?」
ゾン「西の国の物を。」
ユニ「あ、うちもです。では。」
ゾン「では引き分けという事で。」
ユニ「はい。次回はいつにしますか?」
ゾン「超絶魔王城に戻って鋭気を癒したいので、最低2週間後では?」
ユニ「う〜ん、今回の遠征でお金使っちゃったので、細かい仕事をして稼ぐ時間も考えて、1ヶ月後で。」
ゾン「そうですね。承知しました。」
ユニ「じゃ、後細かい事はギルドを通して、という事で。」
ゾン「はい。承知しました。」
そそくさとお互いのクライアントの元に戻っていった側近たち。
お互いのクライアントにコソコソと耳打ちする。
勇者「魔王! 引き分けだな! 覚えておけ!」
魔王「そちらこそ! 勇者とは言えしょせんは人間。我に勝てると思うのは一不可思議年早いわ。わはっはっは!」
勇者と魔王、同時に視線をそらし、きびすを返して去って行く。
魔法使い「引き分け? ま、いいわ。次こそ討伐してくれるから、覚えておき!」
ドワーフ「よかった。ギルド戻って肉食いてえ。」
ヒーラー「ま、私はいつも後方で応援がメインだから、ま、いいかー。」
残ったそれぞれの側近、お互いに礼をして去っていく。
ユニ「いや〜、話が分かる側近で良かった〜。これでまたしばらく失業すなくて済むわ〜。」