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前世が最強賢者だった俺、現代ダンジョンを異世界魔法で無双する! 〜え、みんな能力はひとつだけ? 俺の魔法は千種類だけど?〜  作者: キミマロ
第二章 賢者とインフルエンサー

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第三十三話 人と機械の狭間

「……終わった!」


 完全に潰れた鎧のモンスターを見て、神南さんはほっと息をついた。

 プレスでもされたように潰れてしまったそれは、もはやただの鉄塊だ。

 万が一にも動くことはないだろう。


「……さて、新沢さんに合流しますか」

「そうね、あの龍造寺って男はかなり強そうだし」


 来栖さんを捕らえていた男、龍造寺輝。

 山猫の幹部であろうあの人物が弱いはずがない。

 受け持った新沢さんもS級冒険者だが、一人で勝てるかどうか。

 俺たちは勝利の余韻を味わう間もなく、元居た部屋へと戻ろうとした。

 すると穴の向こうから、カツカツと足音が聞こえてくる。


「新沢さん? それとも、龍造寺?」


 にわかに高まる緊迫感。

 俺はそっと魔法を使う準備を始めた。

 するとどこからか、ヒュウヒュウと口笛が聞こえてくる。


「楽勝やったで」


 そういう新沢さんは息ひとつ乱していなかった。

 流石はS級冒険者、肩書にたがわぬ実力だ。

 やがて彼の後ろから、少し疲れた顔をした来栖さんが姿を現す。


「神南先輩、怖かったです~~!!」

「ちょっと、いきなり抱き着いてこないでって!」


 来栖さんは目に涙を浮かべながら、神南さんに思いっきり抱き着いた。

 よっぽど怖かったのだろうか?

 彼女はそのまま、自分に何が起きたのかを吐き出すように語る。


「怖かったです! 家に帰ったらガスマスクをつけたテロリストみたいな連中がいて、 いきなり薬品を嗅がされたんです! それで気が付いたらあの部屋にいて、龍造寺とか言うやつに何を見たのか聞かれて……」

「拷問とかはされなかった?」

「それは大丈夫です。ただ、ちょっと頭がふわふわしますね」

「……自白剤でも飲まされたんとちゃうか?」


 新沢さんの目つきがにわかに鋭くなった。

 なるほど、その可能性は高いな……。

 俺はすぐに来栖さんに近づくと、その背中を撫でる。

 そして下級の治癒魔法を発動した。


「んん、ちょっとマシになった……?」


 急に体調が改善されたことに驚き、ぱちぱちと瞬きをする来栖さん。

 ……やはり、何らかの毒物を飲まされていたな。

 だがさほど強い毒物ではなかったようで、下級でも十分に回復したようだ。


「いま、なんかやったか?」

「え?」

「妙な力の流れを感じたような、感じないような」


 ……この人、魔力を感じられる体質なのか!?

 俺は内心で冷や汗をかきつつも、どうにか平静を保った。

 治癒魔法の存在がバレたら、とんでもないことになるからな。

 俺が数多く使える魔法の中でも、トップクラスに秘匿しなければならないものだ。


「気のせいじゃないですか? 新沢さんも疲れてるでしょうから」

「いやいや、俺は元気やで! しかしまあ、この子は一度病院に見てもらった方がええな。敵さんももうおらんようやし、戻ろうか」

「そうですね」

「……っと、その前に」


 そう言うと、新沢さんはモンスターの残骸の前へと移動した。

 そして瓦礫の山を少しずつどかすと、落ちていたチップのようなものを回収してポケットに入れる。


「それは?」

「このモンスター……いや、兵器の頭脳やな」

「新沢さん、こいつが何か知っているんですか?」


 俺が尋ねると、新沢さんは深いため息をついた。

 彼はそのまま普段とは異なる重々しい口調で言う。


「こいつは言うなれば……。科学が生み出した討伐者モドキや。研究が進んどるとは聞いとったけど、まさか実機が動くとこまで来とったとは」

「討伐者モドキ? そう言えばこいつ、イデアを使ったわね」

「イデアの再現までできとるんかいな……。いよいよヤバいで」

「あの、こいつの正体はいったい何なんですか?」


 俺は改めて、新沢さんに聞き返した。

 すると彼はやや間を置いて語り出す。


「せやな……。二人とも、モンスターに遠距離攻撃が出来へん理由は知っとるか?」

「ええ。確か、存在する世界位相が違うからあらゆる攻撃が素通りしちゃうんだったわよね? それを防ぐためには、近くに人間がいて観測しなければならない」

「そうや。このせいで近代兵器の大部分は無効化され、俺ら討伐者の時代が来たってわけやな。ただ……それを良しとしない勢力がいた」

「国防とか政府関係ね」

「そうや。連中はどうにかして、モンスターを兵器の力で倒せないかと考えた。そこで考え出したのが、人間以外でモンスターを観測する方法や」


 人間以外で、観測する?

 俺はどうにも嫌な予感がした。

 それは神南さんたちも同様だったようで、険しい顔をしている。


「まず、最初に試されたのは知能の高い動物やった。チンパンジーからクジラまで試されたけど、いずれも上手くいかへんかった」

「当然よ、無理があるわ」

「で、次に考え出されたのが高度なAIを用いる方法やった。人間並みの思考力を持ったAIならば、観測者効果を生み出せる可能性がある言うてな」

「……そんなAIが実現したって話、そもそも聞かないですけどね」


 来栖さんがはてと首を傾げる。

 俺もそんな話、流石に聞いたことがなかった。

 もし実現していたら、今頃大変なことになっているのではなかろうか。

 すると新沢さんは言う。


「それが、裏では実現したらしいんや。人間並みの思考力を持つAIがな。そして、計画通りにモンスターの存在をこの世界に固定化することもできた」

「そんな! ありえない、そんなものがあるなら私たち今頃失業してるわ!」

「そうですよ、ありえませんって」

「話は最後まで聞くんや。そのAIっていうのはな、ある種のバイオコンピューターやった。人間の脳細胞を使って作られたな」


 あまりにもおぞましい兵器の実態。

 俺は思わず、吐き気を覚えるのだった――。


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