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2 国王アダムシャール




「サルヴェニア子爵が失踪だと!?」



 その一報は、国王アダムシャールに、大きな衝撃を与えた。


「どういうことだ。サルヴェニア子爵には家族もいるだろうが、失踪してどうする!」

「陛下のおっしゃっているのは、子爵の叔父である、サイラス=サルヴェニア子爵代理のことでしょう。今回失踪したのは、十八歳のサーシャ=サルヴェニア子爵です」

「十八歳の娘の方か。失踪するとは、放蕩娘だったのか? ウェルニクス伯爵の息子を婿入りさせて、領土は安泰のはずだっただろう」

「それが、その……」


 宰相が、国王アダムシャールに一通の手紙を差し出す。


 サーシャが書いた、子爵返上の手紙である。


「何だこれは!」

「彼女は、子爵家の維持も、ウェルニクス伯爵家との婚約も、無かったことにしたいようですね」

「十八の小娘が、我々の気も知らず……!」


 サルヴェニア子爵領は、国の交通の要所だ。そして、小さいが鉱山もあり、希少なルビーの採掘で賑わっている。

 その統治の難しさ故に、優秀な頭脳を誇るサルヴェニア子爵家が、その管理を任されていた。

 本来であれば、伯爵に爵位を上げてもいいところであるが、当の子爵家から『伯爵を拝領するほど領地を広げると破綻する』との声が上がったので断念したのだ。領地を広げず爵位だけを上げる方法も検討したが、他の貴族達によりその案は握り潰されてしまった。


 そんな中、サルヴェニア子爵夫婦が事故で亡くなり、当時九歳の娘だけが残された時には、子爵領の今後について、国として悩んだものだ。

 結局、亡きサルヴェニア子爵の弟であるサイラス=サルヴェニア子爵代理が優秀だったため、子爵領の統治は恙無く行われていると聞いている。放蕩娘は自堕落で、貴族の嫡子ならばほぼ全員が通っている貴族学園にも通わず、贅沢三昧の日々を過ごしているのだとか。そんな状況を憂えて、国王アダムシャールは念のため、未来の子爵代理となる優秀な男を見繕うべく、隣地のウェルニクス伯爵家の息子との婚約まで取り付けたのだ。

 だというのに、肝心の跡取り娘本人が、サルヴェニア子爵家取り潰しの申し出をしてきているという。


「お待ちくださいませ!」


 手紙を破こうとした国王アダムシャールに、宰相の鋭い声が飛ぶ。


「何だ!」

「その手紙、破り捨てるには、時期尚早かと」

「何がだ! こんな小娘の戯言、不要であろうが!」


 内容証明の魔法がかけられており、封筒は蝋で固められていた。王宮に着くまで、誰の目にも触れられず、開封権限のある事務官と、宰相、国王アダムシャールしかこの手紙の内容は見ていない。

 破り捨てれば、無かったことにできる。


「追伸に、一ヶ月は待つようにと」

「放蕩娘の言うことを真に受けるのか」

「筆跡、内容を見るに、思慮のない者からの手紙とは思えません。破り捨てることはいつでもできます。その前に、まずはサルヴェニア子爵領に調査を入れるべきかと」

「……」


 国王アダムシャールは、小娘への苛立ちと、宰相への信頼を天秤にかけ、手紙を机に置いた。

 ホッと息を吐く宰相に、国王アダムシャールは命じる。


「一ヶ月だ。それ以上は待たん」

「承知いたしました」


 こうして、国王アダムシャールは、サルヴェニア子爵家についての情報収集を開始した。



 その一ヶ月後、手紙を破り捨てなかった自分を褒めた。そして何より、失踪前にこの手紙を発送したサーシャ=サルヴェニア子爵に心から感謝した。


 この手紙があれば、今のサルヴェニア家に、サルヴェニア子爵領を統治する権利がないことを主張できる。

 つまり、この一ヶ月で、サイラス=サルヴェニア子爵代理とその補助ウィリアム=ウェルニクスがやらかした杜撰な事務を、全て無効とすることができるのだ。



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