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ホラー短編

不幸の手紙


 最近はみんなスマホだから、不幸の手紙なんて聞いたことがないだろ?

 まあ、そもそも手紙なんて書かないか。

 年賀状ですら出したことがないっていう若者もいるようだしね。


 僕らが若い頃はスマホも携帯も無かったし、ポケベルだって無かったから。

 えっ? 老害? まあまあ、そんなこと言わないでよ。

 若い人に老害扱いされないように、世間の片隅でひっそり暮らしてるんだから。


 ああそうそう、不幸の手紙ね。

 今で言うチェーンメールの元祖みたいなもんさ。

 違うのは、不幸の手紙は実際に家に届くとこだけど。

 もちろん送り主なんて書いてないから、誰から出されたものなのかは分からないよ。

 でもこっちの住所は書いてあるからね。それが怖かった。

 だって、もしかすると知り合いかもしれないだろ?

 知り合いじゃなくても、こっちの住所は知ってるわけだから。家はバレてるわけだしね。

 まあ、昔は電話番号だって住所だって、いくらでも調べられたし、卒業アルバムなんて生徒の住所がみんな載ってたんだけど。


 向こうはこっちの情報を持ってるのに、こっちは向こうが誰だか分からない。

 今のチェーンメールとはまた違う怖さがあったよね。


 それで封筒を開けてみるとさ、便箋に「これは不幸の手紙です」なんて書いてあるのよ。

 そう上手くもない字で書かれてたのが逆に怖かった。もしかしたら子供なんじゃないかとか色々想像してさ。

 それでね、この不幸の手紙をまた誰かに出さないと不幸になるとか書いてあるんだよ。

 嫌なこと書くだろ?

 嘘に決まってるとは思うけど、思うけどさ、やっぱり気分は良くないじゃない。

 だから、自分のところで止めとけばいいものを、次に出しちゃうやつがいるんだよ。

 そうやって、不幸の手紙は広がっていったんだもん。


 俺? 俺はどうしたかって?


 そんなもの。書くわけないじゃない。

 俺は心霊現象なんて信じないタイプだったし、友達にそんなもの出すなんて絶対に嫌だったからね。

 だから学校で、「俺はこんなもの書かない! 全部、俺のところで止めてやるよ!」なんて大見得を切ったもんさ。

 今考えると、馬鹿なことを言ったと思うけどね。


 それからだよ。

 学校でそう発言してからだよ。

 増えたんだ。

 不幸の手紙がさ。


 もう毎日のように届くんだ。

 来る日も来る日も。

 あいつのところに出せば止めてくれる。

 そんな噂が俺の知らないところで広がってたみたいでね。

 中にはこんなことを書いてるやつもいたよ。


『ごめんなさい。止めてください』なんてね。ふざけてるでしょ。


 俺も自分で言った手前、「これも人助けだあ!」なんて強がって、表面上は平気な顔はしてたけどね。


 でもさあ。不幸の手紙を書いちゃうやつってさ、やっぱり負の感情があるわけだよ。

 想像したらわかるだろ?

 他人の不幸を願いながら手紙を書くなんて人間のすることじゃないよ。

 なのに、そんな負の感情が込められた手紙が毎日のように届くんだもん。

 こっちだっていい加減まいっちゃうよ。信じてなかったけど、気ってのはあるんだね。

 最初は身体が重い程度のことだったんだけど。

 そのうち起き上がれなくなっちゃって。

 とうとう最後には学校にも行けなくなっちゃった。


 結局、高校は中退したし、大学にも行けなかった。

 俺に不幸の手紙を出した連中は、さぞかし楽しい学生生活を送ったんだろうけどね。


 そして今だよ。

 別にバブルの恩恵も受けてないし、結婚もできなかったし、正社員になったこともない。

 なにも良いことのない人生だった。

 それなのに、老害老害ってさ。こっちだって好きで老害になってるわけじゃないのにね。

 まあ不幸の手紙のことは自業自得だから、誰かを恨んではいないよ。


 でもさ。

 やっぱり不公平じゃない。

 俺ばっかり不幸になるのはさ。

 だからさ。

 少しは取り返したいと思うんだよ。


 そのためにはさ、あの、不幸の手紙をさ。

 俺のところで止めてある、あの不幸の手紙をさ。

 捨てずに置いてある、あの負の手紙をさあ。

 誰かに出したいと思うんだよね。


 

 だからさあ。

 決めたんだよ。


 お前に。


 この話を読んだ、お前に決めたんだ。

 お前に、不幸の手紙を出してやろうと決めたんだ。


 悪いとは思ってるよ。

 でも、全部送りつけるわけじゃないからね。だから、協力してくれないかな。

 たった1通でいいんだよ。たった1通でさ。

 

 えっ? 嫌だって? 


 そう言われてもなあ。

 俺にだって都合があるし。


 どうしても? 受け取れないって?


 それは困るなあ。ほんと困るよ。

 だって、今さら帰れないよ。

 せっかく、お前の家まで届けに来

 


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