椀田家は超能力者である!
父:うう……春香……(アルバム見ながら涙ぐむ)
母:お父さん、お茶が入りましたよー
父:う、うむ、ありがとう
母:あら、何見てたんですか?
父:べ、別に何でもない
母:それは……家族のアルバム?
父:ちがうぞ! 部屋を片付けてたらたまたま見つけたからちょっと懐かしくて見てただけでな
母:もう。別に春香は今日お嫁にいくわけじゃないでしょ?
父:そんなことは分かってる!
母:大丈夫。春香はしっかりしてるから。きっと相手もいい人よ
父:それは、わからんだろう! 相手が本当に春香にふさわしいか、今日はしっかりと相手を椀田家全員で……あ、マイは?
母:いまハワイですって
父:まったく、あいつは働きもしないでフラフラと! こんな大切な日に何をやってるんだ!
妹:ワンダー! しゅいいいぃん!(ワープ音)
妹:ただいまー
母:あ、マイ。あんた、ハワイにいるんじゃなかったの?
妹:うん、携帯の充電器忘れて、一回帰ってきた。あー、これこれ。んじゃまた行ってきまーす
父:待て! 今日は春香の婚約者が来るんだ
妹:あ、お姉ちゃん、結婚するんだ、へー。
父:まだわからん! だから、それをどうするかを決めるために今日は椀田家全員でなぁ
妹:本人がいいって言ってるならいいんじゃないの? 私、関係ないから。じゃー
父:関係ないってことあるか。待ちなさい!
妹:早く戻らないと。ハワイで友達待たせてんの!
父:いいから、一度座りなさい!
妹:無理無理。んじゃ
父:あーもう……ワンダー! ピタッ!(時間停止)
父:まったく……今のうちにマイを椅子に座らせて、と……よし。再起動!
妹:……うわっ、いつの間にか座ってる! ちょっとお父さん! いきなり時間止めるのやめてって言ってるでしょ!
父:いいから聞きなさい。私たちはその婚約者が椀田家にふさわしいかを……
妹:どうでもいいって。じゃ! ワンダー! しゅいいいぃん!(ワープ音)
父:あっ、こら、待ちなさ……うわぁ! しゅいいいぃん!(ワープ音。マイをつかんで、一緒に消える)
母:あ、お父さん! あー、どうしよう、巻き込まれて一緒に瞬間移動しちゃった……
春香:ただいまー。敬一郎さん連れてきたよ
敬一郎:は、はじめまして! わ、わたくし、平 敬一郎と申します! あ、これ! つまらないものですが!
母:ああ、ありがとう。ごめんなさい、今ちょっとお父さん出かけてて。
春香:えー、今日連れてくるって言っておいたのに。どこに行ったの?
母:いまハワイ
敬一郎:ハワイ!?
母:すぐ戻ってくるから、ちょっと待っててね。いまお茶入れますから(退場)
敬一郎:あ、どうぞ、おかまいなく……ねえ、ハワイって?
春香:さ、さぁ……? とにかくそのうち戻ってくるはずだから
敬一郎:そう? ああ、緊張するな……一応ご両親と打ち解けるのに役立つかもしれないと思って、トランプ持ってきたけど。
春香:うん……
敬一郎:ねえ、ご両親どんな人? 厳しい?
春香:うーん、別に厳しくはないかな……
敬一郎:じゃあ、優しい?
春香:優しいってほどでもないかな……
敬一郎:じゃあ、普通?
春香:普通、ではない、絶対に!
敬一郎:ん?
春香:……あのね! 実は、家族のことで言ってなかったことがあるの
敬一郎:なに?
春香:えーっと……その……うちの家族ちょっと変わっててね……えーっと……たとえば、妹のマイなんだけど、旅行が好きでいろんなところ飛び回ってるの
敬一郎:おーいいじゃないか。僕も旅行好きだよ
春香:いや、すごいのよ。今日はアメリカにいたと思ったら、明日はヨーロッパ、みたいなね
敬一郎:ははは、アグレッシブな妹さんなんだね
春香:あはは、本当に困っちゃうよね、いくら瞬間移動能力者だからって。
敬一郎:ははは……え? 瞬間……なに?
春香:……うん。実はね……うちの家系は代々全員が何らかの超能力を持ってるの
敬一郎:……は? ……あ、あー、冗談か! びっくりしちゃったよ
春香:ワンダー! どがああっ!
敬一郎:うわあああっ!(吹っ飛ぶ)
春香:これが私の能力……人間を2メートル吹き飛ばすことができるの
敬一郎:え、ま、マジで……?
春香:マジよ……信じられないなら、もう一回やってみる?
敬一郎:いや! もう大丈夫! ええー……でも、今までそんなこと一回も言ってなかったじゃないか
春香:ほら……先月テレビがぶっこわれたでしょ
敬一郎:ああ、あれ。何もしてないのに、いきなりテレビが爆発したっていう……まさか!
春香:うん、私のしわざ……ゴキブリが出て、びっくりして、つい……
敬一郎:こわっ……
春香:ほら! そういうふうに怖がられるのが嫌だったのよ! 敬一郎に嫌われたくなかった。だから……!
敬一郎:……バカだな。嫌いになったりしないよ。そんなことくらいで。
春香:本当に……?
敬一郎:ああ
春香:じゃあ、ずっと私のそばにいてくれる?
敬一郎:ああ
春香:じゃあ、今日一日、超能力者のふりをしてくれる?
敬一郎:ああ……ん? ちょっと待って! 超能力者のふり!?
春香:そう……お父さんたちには、敬一郎のことも超能力者だって言ってあるの
敬一郎:はあ?! なんで!
春香:しょうがなかったの! うちは代々結婚相手も超能力者って決まってるの! 相手が何の能力もない人間だってばれたら絶対結婚反対される!
敬一郎:何の能力もないって、そんな言い方ある!?
春香:とにかく今日は超能力者のふりをしてほしいの!
敬一郎:無理! 無理だよ、そんなの!
春香:とりあえず仲良くなって、本当のことはのちのち打ち明けていけば!
敬一郎:絶対ばれるって!無理無理無理!
春香:ワンダー! どがああっ!
敬一郎:うわあああっ!(吹っ飛ぶ)
春香:やるしかないの……! ね!
敬一郎:わ、わかりました……
母:お待たせ、はい、お茶
敬一郎:あ、ありがとうございます
母:ごめんなさいねー。お父さん、そろそろ帰ってくると思うんだけど。
春香:ん? なにこれ?
母:ああ、家族アルバム。さっきお父さんが見てたのよ。せっかくだから、敬一郎さんも見ます?
敬一郎:ありがとうございます。
母:ほら。これは春香の七五三のとき。
敬一郎:うわぁ、かわいいなぁ。こっちは?
母:これは町内会のクリスマス会のときね
敬一郎:へえー、……あの、こっちは?
母:これは近所のガキ大将を2メートルふっ飛ばしてるときね
敬一郎:へ、へえー……
母:春香は小さいころからおてんばでねー。しょっちゅう人間を2メートルふっ飛ばして大変だったのよ
敬一郎:は、ははは……あ、これは春香が高校生のとき?
春香:ん? 私、こんな制服だったっけ?
母:違うわよ、これはお母さんの若いころ。
春香:え、これお母さん?
母:あー、比べてみると、春香はお母さんの若いころにそっくりねえ
敬一郎:あ、じゃあ、春香は三十年後こんな感じになるんだ…………うーん……
母:うーんって、なに?
敬一郎:あっ、い、いえ!
春香:あれ? この写真は? なんか、ピンクの服を……
母:あっ、これは! な、なんでもないの!(写真をひったくる)
父:ただいま……!
母:おかえりなさい。なに、そのアロハシャツと麦わら帽子とサングラスは?
父:ハワイの人にめっちゃ歓迎されたんだよ!
母:で、マイは?
父:だめだ、逃げられた。ん? きみは……
敬一郎:はじめまして! わたくしの名前は!
父:ワンダー! ピタッ!
父:ふーん、こいつか……! ……再起動!
敬一郎:平 敬一郎と申します! ……ん? あれ?
父:後ろだ。
敬一郎:うわあっ! えっ、いつの間に!?
春香:お父さんよ。お父さんは時間を十秒止めることができるの。
敬一郎:へ、へぇー、そうですか……
春香:で、お母さん。
母:椀田くるみです。よろしくね。能力はチャーハンをパラパラにできる能力。
敬一郎:……うん? それ、たんに料理が上手なだけじゃない?
父:春香から聞いているよ。きみも超能力者だそうだね
敬一郎:あ、あのー、そのことなんですけど……
春香:も、もちろんよ! めちゃくちゃすごい能力だから! ねっ?
敬一郎:ええー……
父:じゃあ、さっそく見せてもらおうか
敬一郎:え、えっと……わかりました! では、このトランプから1枚選んで自分達だけ見てください。
敬一郎:その数に4を足して、さらに倍にします。そこから6を引いて、2で割ります
敬一郎:そこからそのトランプの数を引いてください。んん……! タイラー!
父:その掛け声はおかしいだろ
敬一郎:……読めました。その数字は、1ですね?
父:おお、当たってる
敬一郎:これが僕の超能力です
父:……なんか、まわりくどいな!? すごいんだかすごくなんだか、よくわからんぞ!?
春香:つまり、彼は相手の心を読むことができるのよ! すごいでしょ!?
父:だったら、6引いたり2で割ったりする必要なくない?
父:うーむ、どうも信用できんな。よし、じゃあ私の好きなスポーツを当ててみなさい
敬一郎:は、はい……えーっと、ゴルフ……
父:ゴルフ?
敬一郎:ではなく! えーっと、相撲……
父:相撲?
敬一郎:でもなく! えーっと……
父:なんだ!? 心を読むって、そんなに時間がかかるものなのか?
敬一郎:す、すみません! お父さんの精神構造が思ったより複雑で……!
父:私の精神はどうなっているんだ!?
敬一郎:いや、そのスポーツの動きは見えるんですけど、こんな動き見たことなくて……
父:そうか? 子どものころとかみんなやってたと思うけどなぁ
敬一郎:……ですよね。言われてみれば見たことある気がします。ただ、ぼくはできなかったんですよねぇ。道具が買えなくて……
父:あー、たしかに道具をいろいろそろえなくちゃいけないもんな
敬一郎:そうなんですよ! それに、人数もそろえられなくて……
父:あー、たしかにちゃんとやろうと思ったら十八人も必要だもんな
敬一郎:見えました! あなたの好きなスポーツは野球ですね!
父:……あたってる! ふむ……どうも心が読めるっていうのは本当みたいだな
春香:でしょ!? ね! だから本当にちゃんと超能力者なのよ!
父:しかしなぁ、テレパシー系か……もっと戦闘向きの能力がよかったなぁ
敬一郎:せ、戦闘ですか……
父:いいか、椀田家は代々、超能力者、この国をかげから守ってきたんだ。
父:邪馬台国の時代は予知能力を使って民衆を率いて
父:元がせめてきたときは嵐を起こす能力で船を沈め、
父:黒船がきたときは相手が何を言ってるかさっぱりわからないからテレパシーで通訳した。
父:最近は平和な世の中になったが、それでもいつ何があるかわからない。
父:そんなとき、きみは平和のために戦う覚悟があるのかね?
敬一郎:平和のため、といわれると、正直わかりません……でも、春香さんを守る、その覚悟はあります!
父:…………とりあえず、私はアロハシャツを着替えてくる! 母さん、新しい服を出してくれ
母:はいはい。ごめんなさいね。すぐ戻るからゆっくりしていってね。
敬一郎:は、はい。……あー、やっぱり無理だよ、これ! ばれるって! いや、仮にばれなくても、なんか、お父さんに嫌われてない?
春香:そんなことはないと思うんだけど……
妹:ワンダー! しゅいいいぃん!(ワープ音)
敬一郎:うわ、びっくりした! え、だれ!?
春香:妹のマイよ
妹:あー、あなたが彼氏さん? ……へぇー
春香:なに、へーって。
妹:いやぁ。お姉ちゃんの彼氏だから、てっきりいくら吹っ飛ばされても大丈夫な、ムキムキマッチョが来ると思ってた。こんなひょろひょろで大丈夫なの?
春香:私はむやみに人をふっ飛ばしたりしないってば!
敬一郎:えっ?
妹:あー、んじゃお近づきの印にこれあげるよ。はい。さっき買った本場のフランスパン。
敬一郎:ありがとうございます。
妹:よろしくね。私はマイ。能力は瞬間移動能力。
敬一郎:は、はじめまして、平 敬一郎です。能力は、えっと……心を読む能力、です……
妹:おー、すごいじゃん。ちょっと試しに私の心、読んでみてよ
敬一郎:いや、それはその……
妹:じゃあ、私はさっきまでどこの国に行ってたでしょうか!
敬一郎:……フランス
妹:おお、当たってる! へー、本当に心が読めるんだ
敬一郎:はは……
妹:あ、そうだ、ちょうどよかった。フランスで食べたいケーキがカップル限定でさ。ちょっと手伝ってくれない?
敬一郎:え、手伝うって?
春香:ちょっと、待ちなさい、マイ!
妹:いくよ、せーの……ワンダー! しゅいいいぃん!(ワープ音)
敬一郎:うわあ! フランスだ!
妹:ボンジュール! はい、彼氏つれてきました。はい、どうも、メルシー。いやー、助かったよ、ありがと、じゃあねー。
敬一郎:待って待って! こんなところ置いていかれても困る!
母:あら? 敬一郎さんは?
春香:マイが限定ケーキ買いたいからって言ってフランスに連れてっちゃった
母:あらー、まったくマイったら、困った子ねぇ……
春香:ねえ、お父さん、彼のこと気に入らなかったのかな……
母:大丈夫よ。本当は心の中では認めてるはずだから
春香:大丈夫かな……
母:大丈夫よ。だって心を読めるなんてすごい能力じゃない!
春香:大丈夫かなあ……!
母:トゥルルルル(電話が鳴る)
母:はい、もしもし。あら、久しぶり。うん、え、今から? いいけど。
母:ああ、楽しみにしておいてね。いま春香の婚約者さんが来てるの。
母:来てるっていうか、今はフランスにいるんだけど。とにかく会えると思うから。じゃあね
春香:えっ、だれ!?
母:おばあちゃん。今から遊びにくるって
春香:ええええっ!? おばあちゃん、来るの!? それ、困る!
母:困るって、なんで?
春香:あのさ……確認したいんだけど、おばあちゃんの超能力って……
母:おばあちゃんの能力は、相手の嘘を見抜くことができる能力でしょ
春香:だよねぇ……!
母:もう近くに来てるかしら
春香:えっと……あ! おばあちゃん、道に迷ってるかも! 迎えにいってくるね!
母:あ、春香! なんなのかしら……
父:お待たせしたね……あれ? 敬一郎くんは?
母:いま、外よ
父:なに!? 婚約者の両親との挨拶中に勝手に外に出かけてるのか!? どこ行った!
母:フランス。
父:フランス!?
母:うん。マイと一緒に。
父:なに!? あいつ、マイにも手を出してるのか!
母:違うわよ。限定ケーキ買いたいからって言って、マイが連れてっちゃったんですって。
父:ああ、そういうことか……しかしなあ、大切な挨拶の最中だぞ? 恋人の妹とはいえ、そこはきぜんとした態度で、断るべきじゃないか?
母:そんなこと言わないで。よさそうな人じゃない。結婚認めてあげたら?
父:いや、別に認めないとは言ってないが……
祖母:お邪魔するよ
母:はーい、あ、お母さん
父:あ、どうも、ごぶさたしてます
母:外で春香と会わなかった?
祖母:いや、会わなかったけどね
母:迎えにいくっていったんだけど、すれ違っちゃったのかしら
祖母:春香の結婚相手が来てるんだろう? どこだい?
父:まだ結婚するとは決まってませんよ
祖母:なんだい、あんた。ずいぶん、不機嫌だね
父:別に不機嫌じゃありませんよ
祖母:ファンファンファン!(祖母の頭の上のサイレンが鳴る)
祖母:……ばかだねぇ。知ってるだろ?
祖母:あたしの能力は人が嘘をついたとき、生まれつき頭の上についてるサイレンが自動的に鳴り響く能力。
祖母:あたしに嘘は通用しないよ。
父:くっ……!
祖母:で、何かあったのかい?
母:やっぱり娘を嫁にやるのがさみしいみたいでね
父:そんなことはない!
祖母:ファンファンファン!
父:くっ……ああ、もう!(退場)
母:どこ行くんですか?
父:トイレだ!
祖母:ファンファンファン!
祖母:……最後まで嘘つきっぱなしだったね
母:本当は本人も結婚を認めたいと思ってるはずなんだけど……
祖母:相手がダメなやつなのかい?
母:いいえ、まじめで誠実そうな人だったわ。ただ超能力が、超能力なんだか手品なんだかよくわかんなくて、そこが気に入らなかったみたい。
祖母:なるほど、結婚相手の能力か……そりゃ難しい問題だね……
祖母:あんたは、まだ自分の能力のこと話してないのかい?
母:話してないわ。私の能力のことも過去のことも。
祖母:私は正直に話したほうがいいと思うけどねえ
母:話せるわけないでしょう! あんなかっこうで人前で戦ってたとか完全に黒歴史なんだから!
祖母:でも、いずれはばれるんじゃないかい?
母:大丈夫よ、わたしの過去を知るやつが突然訪ねてきたりしないかぎり……
ポルルン:くるみー! 久しぶりポルン! さぁ、ぼくと再契約して魔法少女になるポルン!
母:ポ……ポルルン!? なんであなたがここに!?
ポルルン:もう一度くるみに魔法少女をやってほしくて一生懸命探したポルン! さぁ、ぼくと再契約して魔法少女になるポルン!
母:やめて! 私はもう魔法少女は引退したの!
ポルルン:なんでポルン!
母:私もう47歳よ!? 魔法少女っていう年齢じゃないでしょ!
ポルルン:あぁー…………わかったポルン! さぁ、ぼくと契約して魔法熟女になるポルン!
母:言葉を変えればいいって問題じゃない!
ポルルン:早くしないと悪の力がすぐそこまで来てるポルン!
父:おい、騒がしいけど……うわあ! な、なんだ、こいつは!
ポルルン:ぼくはくるみが30年前魔法少女をやってたときのおともの魔法生物だポルン!
父:はあ? 母さんが魔法少女?
母:ち、ちがうわ! 私が魔法少女なんてやるわけないでしょ!
祖母:ファンファンファン!
母:ちょっとお母さん!
祖母:しょうがないだろ! 自動的なんだから!
父:ま、待ってくれ。え、じゃあ、本当に?
母:……ごめんなさい、隠していて。そう、私は三十年前、魔法少女として悪の組織と戦っていたの。
父:そんな……でも、チャーハンをパラパラにできる能力で一体どうやって……
母:あれは嘘よ
父:うそ!? だ、だって実際に母さんのチャーハンはパラパラだっただろ!
母:あれは、チャーハンを作る前にご飯を一度冷凍させておいただけよ
父:そんな裏技が……!
母:春香たちには絶対に内緒にしてね!
父:わ、わかった……じゃあ、本当の能力は?
母:本当は……相手の眼球を爆発させる能力
父:えっぐ!
母:ほら、そう思われるから言いたくなかったのよ!
母:あなたには嫌われたくなかったのに……今まで騙していてごめんなさい……さよなら!
父:待ってくれ! ワンダー! ピタッ!
父:母さんっ!(時間停止中に抱きしめる)
父:再起動!
母:……えっ!? や、やだ! はなして!
父:はなさない!
母:はなしてよ! 眼球を爆発させるわよ!
父:かまわない。それでも私は母さんが好きだ!
母:でも……!
父:母さんはいつも家族の幸せを願ってくれた。
父:母さんのおかげで家族四人いつも幸せだった。
父:母さんが作ったチャーハンは本当においしくて、私も、春香も、マイも、みんな笑顔になった。
父:本当の超能力なんて関係ない。
父:誰が何と言おうと、母さんの超能力はチャーハンをパラパラにできる能力だ。
父:みんなを笑顔にすることができる、最高の超能力だ!
母:あなた……
父:……しかし……母さんの魔法少女姿かぁー。ちょっと見てみたかったなぁ
母:あ、さっきアルバムに写真が一枚だけ残ってたんだけど……
父:おお、見たい見たい! 行こう行こう!(二人退場)
ポルルン:……ちょ、ちょっと待つポルン! ぼくと契約して魔法少女に……!
祖母:やめときな。あのこは世界の平和より大切なものを見つけたんだ、ほっといておやり
ポルルン:そ、そういうわけにはいかないポルン! 悪の力がどんどん近づいてきていて……!
敵:ふははははは! ようやく見つけたぞ、ポルルン!
ポルルン:ああ! 悪の帝王ドヴォルザーク!
敵:ふはははは、吾輩から逃げ切れると思ったか!
ポルルン:ただ逃げてたわけじゃないポルン! 昔の魔法少女に助けを求めにきたポルン!
敵:昔の魔法少女だと? ……お前……いくらなんでもこのお婆さんは昔すぎるだろう
春香:ただいま……うわ、誰!?
敵:お前は! マジカル・クルミン!
春香:は? 誰?
敵:吾輩だ! 悪の帝王ドヴォルザークだ! 三十年ぶりだな、マジカル・クルミンよ! ふっ、いまだに貴様にやられた右の眼球がうずく……!
敵:しかし、もうあの時のようにはいかんぞ! 見ろ! 吾輩の組織が生み出した超合金メガネを! どうだ!
春香:いや、全然わかんないんだけど……
敵:これでもう貴様などおそるるに足らず! さぁ、攻撃してみるがいい! さあ! さあ! さあ!
春香:ワンダーっ!! どがああっ!(2メートルふっ飛ばす)
敵:ぐはあっ! ば、ばかな……眼球を爆発させるしか能のなかった貴様が……!
敵:そうか……これこそが、人間が持つ最も恐るべき力……その名は、希望……がくっ。(気絶)
春香:……え? 何なの、こいつは?
ポルルン:あの……ぼくと契約して魔法少女になってほしいポルン!
祖母:ちょっと! 孫を勧誘するんじゃないよ! さっさとおかえり!
妹:ワンダー! しゅいいいぃん!(ワープ音)ただいまー。
敬一郎:やっと帰ってこれた……!
妹:ん? この倒れてる人、誰?
春香:よくわかんない。悪の帝王とか言ってた。マイ、邪魔だからどっかに捨ててきてよ。
妹:どっかって?
春香:なんか適当に富士山のてっぺんとかでいいよ
ポルルン:待つポルン、せっかくならぼくのマジカル王国に送ってほしいポルン
妹:マジカル王国?
ポルルン:こいつをマジカル王国の裁判にかけて最終的に火あぶりにするポルン
妹:えー、行ったことないんだけど、行けるかなー。ワンダー! しゅいいいぃん!(ワープ音。三人瞬間移動)
敬一郎:いっちゃった……あれ? で、このかたは?
春香:私のおばあちゃん……
敬一郎:そうなんですか、はじめまして! 平 敬一郎と申します!
春香:おばあちゃんは相手が嘘を言ったとき、自動的に頭のサイレンが鳴り響く能力者なの
敬一郎:そうなんですか、すごいですね、嘘を……えっ?
春香:それを踏まえたうえで、自己紹介、頑張って……!
敬一郎:いや、頑張ってって言われても……!
祖母:ふーん、あんたが春香の婚約者かい
敬一郎:はい。あ、これ、お土産。つまらないものですが!
祖母:ファンファンファン!
敬一郎:うわあ!
祖母:なんだい、これは! つまらなくないじゃないか! 嘘をつくんじゃないよ!
敬一郎:す、すみません! ……思った以上に判定厳しいな!
春香:お、おばあちゃん、落ち着いて。ほら、疲れたでしょ。座って休んでよ
祖母:年寄りあつかいするんじゃないよ! あたしゃまだまだ若いんだから!
祖母:ファンファンファン!
祖母:あーっ!
敬一郎:自分の嘘でも鳴るのか……!
祖母:で、あんたも、超能力者なんだろう?
敬一郎:えーっと……ぼくは……先ほど、同じ質問をされ、そのとき、ぼくは、はいと答えました。
祖母:どんな能力なんだい?
敬一郎:……ぼくは……先ほど、春香さんのご両親に対し、自分は心が読める能力者であるという自己紹介をした人間です。
祖母:へー、テレパシー系かい。私も似たような能力だから苦労はわかるよ。周りの気持ちがわかるっていうのもいいことばかりじゃない。あんたも大変な想いをしてるだろ?
敬一郎:……ぼくが、いま、大変な思いをしているという点に関しては、異論の余地はありません。
祖母:やたら、まわりくどく喋るね、あんた。
祖母:まぁ、ちょっと試しにやってもらおうかね。私の心を読んでみておくれ。
敬一郎:は、はい。では、このトランプから1枚引いてください
敬一郎:その数に4を足して、さらに倍にします。そこから6を引いて、2で割ります
敬一郎:そこから、そのトランプの数を引いてください……読めました。その数字は、1ですね?
祖母:いや、ちがう
敬一郎:ええ!?
祖母:950になった
敬一郎:そうはならないでしょう!?
祖母:なんかあやしいね、こいつ本当に超能力者かい?
春香:か、彼、疲れてるのよ! ほら、超能力って体力消耗してるときは失敗することあるでしょ?
祖母:ふーん、疲れてるから、超能力に失敗したのかい?
敬一郎:…………えっと、ぼくは、いま、とても、疲れています
祖母:うーん、どうも信用できないね……じゃあ、今度は私の好きな食べ物を当ててみなさい。
敬一郎:は、はい……えーと……ようかん……
祖母:ようかん?
敬一郎:じゃなくて! えーと……おまんじゅう……
祖母:おまんじゅう?
敬一郎:でもなくて! えーと……!
祖母:ちょっと! 当てられないのかい?
敬一郎:えっと、ええっと、あなたが好きなのは……! マリトッツォ! ……です。
祖母:…………当たってる!
敬一郎:ええっ……!?
祖母:どうも心が読めるってのは本当みたいだね……
祖母:まぁ能力なんて何でもいいんだよ。心を読める能力だろうが、眼球を爆発させる能力だろうが。
敬一郎:眼球!?
祖母:大切なのはあんたの気持ちだ。あんたは本当に、春香を愛してるんだね?
敬一郎:はい! 春香さんを世界一愛しています!
祖母:春香のことを守ってやれるね?
敬一郎:ぼくは、春香さんを、一生守ってみせます
祖母:春香に嘘や隠し事をしてないね?
敬一郎:ぼくは、嘘や隠し事をしていません!
祖母:ファン……!(サイレンが鳴り響きそうになる)
敬一郎:春香さんに対しては! 春香さんに対しては、嘘や隠し事をしてません……!
0:
敵:ふはははは! 戻ってきたぞ!
春香:あー、さっきの変な奴! マジカル王国にいったんじゃないの?
敵:目が覚めたらディズニーランドにいたからびっくりしたぞ!
春香:マイのやつ、全然ちがうじゃん!
敵:さっきは油断したが、今度はそうはいかんぞ! マジカル・クルミンよ!
春香:だから私はマジカル・クルミンじゃないって!
母:騒がしいけど、どうしたの!?(魔法少女服で出てくる)
敵:ああー! マジカル・クルミン!? 貴様……! ……ふけたなぁ
母:余計なお世話よ!
春香:お母さん!? なに、ピンクのフリフリの服は!?
母:こ、これは違うの! お父さんと一緒に昔の写真を見ようとしたら、タンスの奥から昔の服も出てきてね!
母:せっかくだから、ちょっと着てみようかってなっただけで!
母:別に、お父さんといやらしいことをしていたわけじゃないのよ!
祖母:ファンファンファン!
春香:こんなサイレンは聴きたくなかったよ……
敵:久しぶりだな、マジカル・クルミンよ!
母:えっ、誰?
敵:なに! 吾輩を忘れたというのか! 悪の帝王ドヴォルザークだ!
母:ドヴォルザーク……?
敵:ほら! あれは今から三十年前……!
0:(回想)
敵:ふははは! いけ、わがしもべたちよ! 世界中の育毛剤と脱毛剤を入れ替えて、世界を大混乱にしてやるのだ!
母:そんなことはさせないわ!
敵:その声は!
母:あなたの瞳を釘づけよ! 愛と正義の魔法少女! マジカル・クルミン参上!
敵:出たな、マジカル・クルミンよ! 今日こそ貴様を……!
母:ボンバー!
敵:いたっ!!
母:ボンバー! ボンバー!
敵:いたい、いたいっ! ちょっ、ちょっと待って、一回やめて……!
母:ボンバー! ボンバー! ボンバー!
敵:待って、ちょっ、わかった、降参する! 降参するから!
母:やったぁ! 悪は絶対許さない! このマジカル・クルミンがどんな眼球も爆発させてやる!
0:(回想終わり)
敵:ということがあっただろう!
母:ああ、あのときの……
敵:マジカル・クルミンよ! 貴様との決着をつけにきたぞ!
母:やめて! 私はもう引退したの! 魔法少女とは何の関係もないのよ!
敵:そんなかっこうでよく言えるな、お前。
敵:まぁいい。吾輩も戦いにきたわけではない。勧誘に来たのだ
敵:吾輩の仲間になれ! 世界の半分をやろう!
祖母:ファンファンファン!
敵:仲間になるのなら貴様の全ての願いを叶えてやる
祖母:ファンファンファン!
敵:安心しろ。貴様の家族にも危害は加えない
祖母:ファンファンファン!
敵:うるさいな! なんだ、このお婆さんは!
祖母:あんたが嘘ばっかつくからだろう!
母:お父さん! 早くこっち来て!
父:どうした!? うわっ、こいつ誰だよ!?
母:悪の帝王ドヴォルザークよ!
父:えっ、つまり誰だよ!?
母:悪いやつなの! お父さんの能力で早くやっつけて!
父:わ、わかった! ワンダー! ピタッ!
父:え、えーと、よ、よし、じゃあ、この椅子で殴りつけてやる……せーの、よいしょっ……ぐわっ、いた! ぎ、ぎっくり腰が! いたたたた! さ、再起動……
春香:え、ちょっとお父さん!? なんでやられてるの!?
母:まさか相手も時間停止能力者!?
敵:ふはは! 何の話だかさっぱりわからん
春香:よし、もう一度私の能力で……ワンダーっ! どがああっ!
敵:ふはは! きかぬわ! さっきは油断したが吾輩の能力は体の防御力を二倍にする能力! どんな攻撃もきかんぞ!
母:どきなさい、春香! こうなったら……今こそ、私の能力を使うとき……
春香:今じゃないでしょ、どう考えても!
父:母さん、やめろ……!
母:でも……!
父:私はこれ以上母さんに人を傷つけてほしくない!
母:あなた……!
春香:お母さんたちはチャーハンで何をしようとしているの!?
敬一郎:春香! ……君の超能力で俺の背中を攻撃してくれ!
春香:え?
敬一郎:やつは防御力2倍といっていた。だったら春香が俺の背中を押して、俺がその勢いでやつを殴れば攻撃力2倍だ。やつを倒せる!
春香:でも、そんなことしたら、敬一郎が!
敬一郎:大丈夫。俺を信じて。きみを守ると誓ったあの言葉は嘘じゃない。
春香:……わかった! いくよ! はああ! ワンダアアア!
敬一郎:うおおお、くらえええ!
敵:バカな、なんだこの力は! ぐわあああ!
敬一郎:やった……!
敵:ばかな……これが人間のもつ絆の力だというのか……
敵:互いを信じあい、互いに命をかけられる……それが人間のすばらしさ……
敵:ずっと一人だった吾輩にはたどりつけなかった真の力……
敬一郎:長いな! 本当にじょうぶだな、こいつ!
春香:敬一郎! 大丈夫?
敬一郎:ああ、なんとか……
父:敬一郎くん……ありがとう……家族を守ってくれて……!
敬一郎:いえ、ぼくは……一生、春香さんを守ると誓いましたから
父:うん……きみになら春香を任せられる。幸せにしてやってくれ
敬一郎:はい!
春香:やったね!
敬一郎:春香!
春香:かっこよかったよ!
敬一郎:いやぁ、それほどでも
春香:悪者を倒すなんてすごいね!
敬一郎:いやあ
春香:まるで、本物の超能力者みたいだった!
父:……え?
0:(3分後)
敬一郎:申し訳ありませんでした!
父:まさか、全部嘘だったとは……まんまと騙された!
敬一郎:すみません……
父:しかも心を読めるって、すごい嘘ついたな! もっと地味な嘘つけばよかっただろ。チャーハンをパラパラにできる能力とか。
敬一郎:そんな感じでいいって知ってたら、ぼくもそうしたんですが……
父:しかもおばあちゃんの前だぞ? よく嘘がばれなかったな
敬一郎:そこらへんはごまかしごまかし、嘘でも本当でもないギリギリのラインを狙いました
父:たいしたもんだな! もはやその話術が超能力だよ
敬一郎:えっ。つまり結婚を認めていただけるということですか!
父:なんでだよ! 言ってないだろ、そんなこと! だめだだめだ! 一般人との結婚なんて!
春香:でも私たちは本当に愛し合ってるの!
父:……だめだ! 結婚は認めん! 結婚相手は必ず超能力者でなければいけないという掟は絶対にやぶることはできん!
祖母:ファンファンファン!
父:超能力者は超能力者と結ばれるのが一番幸せなんだ!
祖母:ファンファンファン!
父:超能力者と一般人なんてうまくいくはずがない!
祖母:ファンファンファン!
父:つまり私が言いたいのは……! ああ、もう! ちょっと、おかあさん!
祖母:あんたの心が嘘だって言ってるよ……認めておやり
父:くっ……春香を、よろしく頼む
敬一郎:……はい!
父:くっ、うううっ……!(泣き)
妹:ただいまー。あれ? お父さん、なんで泣いてるの?
父:ワンダー! ピタッ!
父:うあああああっ!(大泣き) 春香ぁ、幸せになれよ、うううっ! んんっ!(時間停止中に大泣きして落ち着く)再起動。……なんでもない。
妹:まぁいいや。それよりさ、私、就職先決まったよ!
父:え?
妹:さっき、ポルルンにスカウトされたの! 私……魔法少女になります!
全員:ええええっ!?
0:
0:【閉幕】