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 ……筈だったが、美味しい料理と面白い冗談で機嫌を良くした兄が食後の一杯と称して一本の葡萄酒を持って来させたことにより平和な食事会は一変する。







「クリス様、本当に申し訳ありません。お兄様がとんだご無礼を……」


「いえいえ、服がちょっと汚れただけですからそんなに気にしないで下さい。それにこうしてお風呂も借りさせて頂けましたし……」



 深々と頭を下げて謝罪するリーゼに向かって浴室から出てきたクリスは苦笑いしながらそう答える。その体は先程の惨状が嘘の様に綺麗になっており、着ていた服は洗濯中ということで今は使用人達が用意した白いシャツにゆったりとしたズボンという出で立ちだ。



「それにしても驚きました。まさかラルス様があんなにお酒を飲まれる方だったなんて……」


「そう、ですね……私も驚きました。まさか一人で丸々三本葡萄酒を開けてしまうなんて……昔はあまり飲まない人だったのですが……」


「そうでしたか……」


「……」


「……」



 二人の間に沈黙が流れる。リーゼは何か言わなくては……と思うがなかなか言葉が出て来ず、目を泳がせていると不意にクリスが口を開いた。


 

「……リーゼ様はもしかして公爵様から暴力を受けているのですか?」


「え?」

 


 唐突な質問にリーゼは虚を突かれる。が、構わずクリスは話を続ける。

 


「突然こんな質問をしてすみません。でも、ずっと不思議に思っていました。どうしてリーゼ様のような聡明で美しく心優しい女性があんな横暴で冷酷で傲慢で思い遣りの欠片もない男と離婚を勧められても離婚しないんだろうと……だから暴力を振るわれて離婚できないように洗脳されているんじゃないかと思ってこんな質問をさせて頂いたのですが……違いますか?」


「え?ぼ、暴力……?洗脳……?」


 

 全く身に覚えのない、寝耳に水な言葉の数々にリーゼは否定するより先に困惑の表情を見せる。しかし、そんなリーゼの反応を見て「やっぱりそうなんですね…」と憂いを帯びた表情で呟いたクリスはそっとリーゼに近づくと、何の躊躇も無くリーゼの細い身体を優しく抱き締めた。



「!?」



 いきなり抱き締められたリーゼはびくりと体を強張らせる。だが、クリスは硬直するリーゼの体をぎゅっと抱き締め直して耳元で囁いた。



「今までつらかったですね……でも、もう大丈夫ですよ。私の方からラルス様に『リーゼ様が公爵様から暴力を振るわれていた』ことをお伝えしますし、もし公爵様が離婚を嫌がったらダリア家の力を使って離婚できるようにお力をお貸しますから……」


「な、何を言って……?旦那様から暴言を吐かれる事はあっても暴力を受けたことなんてただ一度も……」


「ああ、お可哀そうに……自分が暴力を振るわれていることに気づいていないのですね……暴力を受けていた証拠がここにあると言うのに……」



 そう言い、するりとクリスは膨らみかけのリーゼのお腹を撫でる。クリスが言わんとしていることを察したリーゼは大きく目を見開き、理解できないものを見るような目でクリスを見た。





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