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未到の懲悪  作者: 弥万記
七章 結界の真実
54/61

51;誤算

「それにしても、本当にここは鬼の根城か?私の家より綺麗だぞ・・・」

 美来は辺りを見渡しながら、再び威波羅の根城に足を入れた。


「無事連絡は取れたね・・・もう産まれるよ」

 医術にも精通のある千子が私の子どもを取り上げながらそう答えた。そして、無事男の子が産まれた。私は、この子を抱きかかえ、邪心の無い見事な人間の子どもとして産まれた我が子を抱きかかえた。そして、そのまま疲労と共に意識を失うように眠りについた。


「ふふ・・・ここからは、私の出番ですわ」

 そう言うと流李子が祈祷の準備を整えていた。そして術を唱えながらその子に生えている鬼の象徴・・・角を祈祷の術で取り除いていた。


「あんた・・・やるな・・・」


「このくらいできて普通ですよぉ」

 流李子は笑いながら答えた。そして全員は妃姫が目覚めるまで順番で、その産まれたばかりの子どもの面倒をみながら夜が明けるのを待っていた。


 そして、翌朝・・・私は目を覚ました。


「あぁ・・・起きたか」

 美来が赤子を抱きながら声を掛けてくれた。


「いけない!今は?私はどれだけ寝ていたの?」


「昼頃だよ。出産したんだ・・・疲れてて当然だよ。それに本番はこれからだ。体力はしっかりあった方が良い」


「そうね・・・ありがとう」


「ほい!その子機嫌は良いけど、お腹すいているみたいよ。産まれてからの人間としての最初の食事・・・大切だろ?」

 そう言いながら美来は抱いていた子どもを私に預けてきた。そして、私は改めて我が子をその手に抱いた。そして、その無邪気な笑顔をみて私は、憎き鬼との間に産まれた子なのに・・・何故、これ程までに愛しいのだろうか・・・気がどうかしてしまったろうかと・・・不思議でならなかった。そして、その子にそのまま母乳を与えた。


「あら!妃姫さん・・・少女から一気に母親だね」

 清子がまたからかう様に声か掛けてきた。その言葉を聞くまでは自覚はしていなかったが、私は確かに母親としての自覚に芽生えているように感じた。この子にこんな重荷を背負わせることになるとは・・・そう感じたが、であるからこそ私の悲願はこの息子に託したい・・・父親の代わりにもなり、強い気持ちを伝えなくてはならないと感じた。


「この子の・・・名前は、麻希(あさき)・・・」


「おぉ!良い名前だな!ずっと考えていたのか?」


「いや・・・何となく・・・けど、あの時からずっと繋がっている感じがして・・・安易だけど私の親友と・・・私の名前と繋げてみたかった・・・」


「なるほど!うん!その気持ち分かるよ。きっと、その人間らしい暖かい気持ちがきっとこの子にも伝わっているはずだな!」


「それなら良いのだけど・・・」

 暫く談笑しながら、食事を摂り・・・私は最後の大仕事をすることとした。麻希を友世に預け、私と美来、千子、清子そして瑠璃子は根城を出て、術を展開するための方陣を整えた。追憶の域発動者の私を中央に、その呪いを祓う三人・・・美来と千子と清子が私を取り囲むように位置し、流李子はその陣のやや後ろで、祈祷の力を使い、その三人の力の底上げと、成功率向上を祈願し・・・友世の占いで出た方角を向き指定された時間『その時に行えば必要な物全てが揃う』という助を信じ実行することにした。


「ここからは、全権を千子に一任します」


「はい。ここからは、私が請け負います」


「私の隊への連絡は?今、この昼中で術を解いても鬼達は帰ってこない・・・あと半日足止めが必要です」


「それは、完了している」

 美来が返答をした。


「分かりました」

 そして、私は千子をみて頷いた。そしてそれを悟った千子は、深く深呼吸をして作戦開始の合図を出す準備をした。私は、千子の合図を待った。そのかけ声で一気に力を増幅させようと、目をつむって集中力を研ぎ澄ましていた。そして、千子が合図を出そうとした瞬間・・・


「封縛陣!」

 後方からやや甲高く可愛らしい声と共に術が展開され、急に身動きが取れなくなった。


「な・・・なんだこれは・・・」

 私達は、全員金縛りの術にかけられたように身動きが取れなく捕縛されてしまった。私達は、不運にも追憶の域を発動する為に、一カ所に集まっていたのだ・・・正に一網打尽であった。そして、その術をかけた張本人が後ろからゆっくりと歩いて近づき声をかけてきた。


「次の日になっても皆が夜行から帰ってこないと心配で島中を探してみればこれだ・・・お前ら・・・酒羅様に何をした!」


「何であんたがここに居るのよ!琥羽琥!」

 咄嗟に美来が声を荒げた。私は、その捕縛されたと同時に術の解除姿勢に入っていた。それを察知した美来が自身に気を引かすために、大げさに声を荒げて言い放った。


「私か?私は酒羅様のご意向によりこの鬼ヶ島に残るよう命じられたのだ・・・やはり、あの御方は正しい・・・私の身を案じつつ、こうなることを察知されていたのだろう・・・」


「は!ただ、置いていかれただけだろう!」


「黙れ!」


「今頃・・・お前の仲間達は皆殲滅させられているだろうな!その酒羅なんとか様もな!」


「・・・黙れ・・・酒羅様が、お前らなんぞにやられる訳がないだろう、今すぐ殺すよ?」


「ならなんで直ぐにやらなかったんだ?お前も腹の内では、あの鬼がどうなったのか知りたいんだろう?だから、こんな金縛りの術で拘束して尋問するつもりなんだろう?」


「黙れと言っている!」

 琥羽琥は激怒し、美来を殴りつけながら言い放つ。


「・・・図星だな・・・お前・・・中々素直で可愛いじゃ無いか」


「・・・馬鹿にするのもいい加減にしろよ・・・本当、今すぐ殺してしまいそうだ・・・何故、酒羅様はお前らなんかを娶ったんだ・・・酒羅様の意向・・・全てが正しくて、私はあの方の全てだ・・・しかし、許せない・・・貴様らの存在が許せない!あの御方は私のものだ!私が愛し愛されているのだ!妻などと名乗る貴様らが許せない!」


「ふふふ・・・中々純愛じゃぁ無いか」


「お前ら・・・これは明らかな謀反・・・そうだ!これで、心置きなく貴様らを消せる・・・今まで何度我慢したことか・・・全ては酒羅様のご意向、背いてはならないと必死で耐えた・・・耐えて耐えて耐え抜いた・・・もう、本当に気が狂いそうだった・・・けど・・・これで、邪魔者は居なくなる・・・これで私が酒羅様に娶って貰える・・・」

 琥羽琥は満面の笑みを溢しながら・・・さながら恋が成就する少女の様な幸せな笑みを浮かべながら、捕縛している私達を一気に殺す為の術を発動しだした。


「妃姫!」

 美来は咄嗟に声を挙げ合図を出した。そして、私はその声が発声される直前に術を解き琥羽琥目指して一気に飛びかかっていた。全盛であれば、琥羽琥程度の鬼であれば問題なく瞬殺することは可能であろう・・・しかし、今の状態では、勝算が浮かばない・・・しかし、一つだけ琥羽琥を倒す勝算がある。それは、琥羽琥自らが身につけている・・・それを利用する為にあえて、苦手な接近戦へと持ち込み、間合いを詰めた。美来が注意を引きつけておいてくれたお陰で、琥羽琥の懐へすんなりと入ることができた。全く・・・人を挑発し注意を向けさせる上手さ・・・美来には感心せざるを得なかった。


 私は、琥羽琥の襟を掴みそして、術の発動を試みた・・・


「やっぱり、お前だけは格が違うな・・・ふふふ・・・けど、もう遅い」

 しかし、私の掴んだそれは変わり身を終えており、着ていた羽織りを掴まされていた。そして、私の背後から無機質で無邪気な声が聞こえた。美来の挑発に逆上して周りが見えなくなったのでは無いのか?何だこいつの思考は・・・酒羅丸が絡むとこうも思考が切れるのか・・・そして、その鋭い爪が私の頸目掛けて振り下ろされた。私は悟った・・・詰んだ・・・っと・・・


「妃姫!」

 しかし、その瞬間、何者かから背後から押しのけてくれた。私はその衝撃で前方に倒れ込むような形で琥羽琥の一劇を回避することができたが、その私を押しのけてくれた腕は無情にも体から分断され宙を舞っていた。


「玉成!」

 私は咄嗟に叫んだ。しかし、悲しんではいられない。この玉成の覚悟を無駄にはできない。ここで私が動かなければ・・・私は思考より先に体が動いていた。琥羽琥は目標が入れ替わり、私を殺せていないことに一瞬ではあるが驚きを示している。その隙を突いて私は再び琥羽琥の懐に入り襟を掴んで術の発動を試みた。


「しまった!」

 琥羽琥は私が、何をしようとしているのか瞬時に察知し身を引こうとしたが・・・もう遅い。私は既に術を展開して琥羽琥を身動きが取れない状況にしていた。それと同時に、清子と千子が術の解除に成功し、玉成の手当に向かっていた。私はそれをみて少し安心した。そして、再び琥羽琥に目をやった。


「き・・・貴様・・・この術は・・・」


「そう。貴女なら今から何をされるか分かるわよね」


「止めろ!卑怯だぞ!」


「卑怯?未練がましくそんな弱点を持ち続けているのが間違いなのよ」


「五月蠅い!これは!これはな!」


「はいはい・・・それは、夢の中でやってちょうだい・・・封縛陣・・・封」

 そう言うと、私は琥羽琥の着ている着物を引き剥がしながら、彼女が持ち合わせている宝石・・・それを媒体にして彼女自身を封印したのであった。


「妃姫やったな!大丈夫か?」


「はい・・・何とか・・・それより、玉成は?」

 私は、咄嗟に玉成の所へ向かった。玉成は、千子に丁寧に施術され止血が完了し痛みも抑えられていた。しかし、出血量が多く、貧弱な彼はより顔を青白くさせていた。


「何であんな無茶をしたの!」


「・・・それは、貴女の危機でしたから・・・けど、丁度良かったです」

 玉成は、琥羽琥が島中をうろついていたため、彼女に見つからない様、そして私達と遭遇しなか後を付けていたのであった。しかし、琥羽琥が私達を見つけ、一瞬で間合いを詰めてきた為、それに追いつくことができず、到着に時差が生じてしまったのだ。


「丁度良かったって・・・何のこと?」

 私は、何故この様な危険を冒したのか・・・彼を強く言い詰めようとしたが、彼の目を見るとそれはできなかった。彼もまた命を賭けて戦っているのだ。私は彼と誓ったではないか・・・しかし、彼を思う愛おしさが、傷ついた姿をみると心が痛くなり二つの感情が交互に行き来している状態であった。


「これから私の死を偽装するのでしょう?でしたら、私の腕一本くらい落ちていた方が都合良いかと・・・前から腕の一本くらいは差し出すつもりでいました」


「そんな無茶なことを!」


「いえ、良いんです。覚悟していますから。それに、千子さんのお陰でも痛みもありませんから大丈夫です。私は、少し休んできます。妃姫・・・あとで少し話しましょう」


「・・・うん」

 玉成は、千子に連れられ威波羅の根城の中に入っていった。そして美来が声を掛けてきた。


「それにしても、流石だな・・・あの捕縛術をあんな短期間で解くなんて・・・それに、よくあいつが封印石を身につけているなんて気付いたな」


「えぇ・・・けどそれは貴女の挑発があったから。時間を稼いでくれてありがとう・・・あとあれは・・・前から何となく気付いていたから」


「そうか・・・まぁ・・・大丈夫か?動ける?」


「はい。色々起こりすぎて少し精神的には疲れたけど・・・体力的には問題ないかと・・・貴女は大丈夫?」


「あぁ・・・頑丈なのも取り柄だからな!皆が戻ってきたら続きだな」


「えぇ・・・」

 私は、目を閉じ・・・大きく深呼吸をして再び集中力を高めた。皆が戻ってくるまでに精神を統一させ、術の構築を成功させなくてはならない。そして、再び皆が私の元に集まり、方陣を整えた。そして、千子が合図した。


「では・・・参ります・・・記憶の分配 共同する精神 我が身を繋げる・・・我が体内に存在する領域よ・・・今ここに・・・追憶の域!」

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